●この記事のポイント
・石油化学会社などの大型プラント、人手不足などで定期修理が困難になる可能性
・三菱ケミカルG、工程の「可視化」を実現するシステムを開発して、定期修理の効率を大幅に改善
・三菱ケミカルG、化学業界の競合他社に対し、このプラットフォームの導入・利用を呼び掛けている
石油化学会社などの大型プラントは数年ごとに稼働を全面的に停止して、定期修理を行う必要がある。化学最大手の三菱ケミカルグループ(G)は一部の大型プラントについて2年に一度、約2カ月をかけて多い日には一日に4000人近くの作業員を動員して定期修理を行っているが、建設業界の全国的な人手不足や時間外労働規制などの影響で作業員の確保が難しくなりつつあり、「定期修理ができなくなるかもしれない」(三菱ケミカルG)という課題を抱いていた。そこで同社は工程の「可視化」などを実現するシステムを開発して、定期修理の効率を大幅に改善。トータルでの作業への動員数の10%以上の削減や定期修理期間の短縮を達成したが、同社は化学業界の競合他社に対し、このプラットフォームの導入・利用を呼び掛けるという異例の動きをみせている。その背景について三菱ケミカルGに取材した。
●目次
まず、定期修理をめぐる厳しい現状について、三菱ケミカルGは次のように説明する。
「国内の製造事業者の大型プラントは、かつての高度経済成長期のようにスクラップ・アンド・ビルドでどんどん設備を大きくしていくという環境ではなくなり、国内需要が減少していくなかで既存のプラントをいかに効率的に使っていくかという課題に、石化業界全体が共通して直面しています。50年以上稼働しているようなプラントが増加し、経年劣化が進みやすい環境にあるなかで、定期修理としてやらなければならない検査、補修、設備の更新、部分更新などが増加して、工事量が増えています。加えて時間外労働規制で作業員が働ける時間自体も限られ、少ない人数で限られた時間のなかで定期修理をやらなければいけない。これはどの石化企業も同じく抱える課題です。
業界団体の石油化学工業協会もこれを問題視して、2019年にエチレンオーナーの意見・状況を集約し、有識者による定期修理研究会を立ち上げ、定期修理のあり方の検討に着手しました。そこで、各社が同じ時期に定期修理を実施すると全国から作業員を集めるのが大変なので、重なりをできるだけ少なくして協力会社の奪い合いが生じないような環境を整えましょうという提言がなされました。個社間で調整してしまうと独占禁止法に抵触する恐れがあるため、公正取引委員会にも問題がないことを確認し、2023年から石化協が調整するスキームが始まっています。
弊社は2024年度の茨城・鹿島コンビナートの定期修理で、石化協から『他社と定期修理の期間が重なっているので、工期を調整することは可能ですか。』との問題提起があり、通例より、工期自体を9日間短縮すること等の対応で、他社との重複影響を縮小できました」
工期を短縮化できた要因の一つが、同社が日立ソリューションズと共同開発した、定期修理を効率化するためのシステムの導入だった。
「ピーク時の工事物量を精査したり、一人ひとりの作業員の効率を上げることによって、同じ工事をやるにも少ない人数で仕上げましょうという工事計画精緻化の取り組みを行ってきたことで、動員する作業員の延べ人数を、前回の2020年の定期修理と比較して10%以上削減することができました。弊社は茨城・鹿島のほかに、岡山の水島コンビナートにも大型プラントを持っており、岡山で植えた種を茨城で大きくして、それをまた岡山に返すというサイクル(あるいは逆のサイクル)が、お互いの情報交換のなかで生まれてきました。さらに全社の若手スタッフを集めて、他の事業所とも共有しながら施策を検討し、全社施策として展開することで、25年度から同じ仕組み・システムを用いて各事業所工場の定期修理を回すという段階に入ってきています。