三菱商事も撤退で逆風の洋上風力発電、北九州は総合拠点化で経済波及効果に期待

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UnsplashJesse De Meulenaereが撮影した写真

●この記事のポイント
・北九州市は港湾再生策として洋上風力発電に注力し、製造からO&Mまで担う東アジアの総合拠点化を目指している。
・三菱商事の撤退など市場逆風もある中、国と連携しつつ国産風車の復活やサプライチェーン構築による波及効果を狙う。
・漁協や住民との合意形成を経て推進。2030年度末の拠点稼働を目標に、人材育成や地域産業の活性化にも取り組む。

 再生可能エネルギーのなかでも「洋上風力発電」は、日本の脱炭素と産業政策の両面で注目を集めている。だが一方で、三菱商事が欧州での大型案件から撤退するなど、世界的に逆風も吹いている。そうしたなか、北九州市は「洋上風力の総合拠点化」に向けて歩みを加速させている。なぜ同市は洋上風力に賭けるのか。そして、実際に何を目指しているのか。北九州市港湾空港局 洋上風力拠点化推進課長・白井氏に聞いた。

●目次

港湾活性化策として始まった洋上風力

 白井氏はまず、「洋上風力推進の原点は港湾の再生にある」と語る。

「北九州は1901年の官営八幡製鐵所の創業以来、鉄とものづくりの町として発展してきました。港も輸出偏重型で活況を呈していたのですが、リーマンショック以降は産業の空洞化が進み、港の活性化策が課題になっていました。そこで2011年から、ヨーロッパの先行事例を参考に洋上風力の導入を進めてきたのです」

 参考としたのは、ドイツ北部の港湾都市ブレーマーハーフェン。造船不況で停滞した港を、洋上風力の拠点化によって再生させた実績だ。北九州市は同様に、港湾再生の切り札として洋上風力に着目した。

 北九州は鉄鋼、造船、機械といった産業基盤を長年育んできた。その蓄積は洋上風力にも直結する。

「現在、国内で風車を本格的に製造するメーカーはほとんどありません。しかし北九州には、かつて陸上風車のサプライヤーだった企業が集積しています。これらの技術を活かし、国産風車の復活、あるいは主要部品の国産化を進めたいと考えています」

 洋上風力の部材は巨大で、港湾インフラや重工業の知見が不可欠だ。北九州はその条件を満たす数少ない都市の一つだという。

経済波及効果と中小企業の参入余地

 洋上風力は「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策の柱でもある。北九州市の取り組みも国策と密接に連動している。

「経済産業省や国土交通省と連携し、さまざまな支援を受けています。洋上風力を国産化することで、サプライチェーン全体が国内に根付く。それが国としても、市としても大きな意義を持つと考えています」

 製造拠点を誘致できれば、ティア1からティア3までのサプライチェーンが形成され、経済波及効果は大きい。非製造業分野にも裾野は広がる。

「基地港湾として西日本をカバーすることで、物流、海洋土木、電気工事など、これまでになかった産業が市内に定着します。中小企業やスタートアップの参入余地も当然生まれると考えています」

 ただし現状では「大元の製造拠点を誘致することが最優先」とも強調する。サプライチェーンの中心を引き寄せられるかが鍵だ。

 ただ、世界の洋上風力市場は順風満帆とはいえない。欧州では資材高騰や金利上昇の影響で採算性が悪化し、三菱商事も大規模案件からの撤退を決めた。

 白井氏もこの逆風を認めつつ、国の支援策の重要性を指摘する。

「三菱商事さんは見通しが甘かった部分もあるかもしれませんが、物価高騰への対策は国全体で整える必要があります。自治体レベルでできることには限界がある。市場環境を整えることが不可欠です」