●この記事のポイント
・スマホ新法で崩れる「30%手数料」の壁。マンガ、婚活、推し活、Web3など6兆円市場で、利益構造と勝者がどう変わるのかを業界別に読み解く。
・スマホ新法の本質は値下げではなく主導権の移動だ。マンガは快晴、婚活は広告戦争、推し活とNFTは急変──勝者と敗者の分岐点を分析。
・スマホ新法はアプリ事業者が「顧客と決済」を取り戻せるかの試金石。法改正を待つだけでは勝てない理由と、今から必要な準備を示す。
2025年12月、日本のスマートフォン市場は歴史的な転換点を迎える。特定スマートフォンソフトウェア競争促進法(通称:スマホ新法)の本格施行だ。報道ではアップルやグーグルといった巨大IT企業への規制強化がクローズアップされがちだが、ビジネスの現場で本当に注目すべきはそこだけではない。
変わるのは、国内約6兆円規模(経産省推計)のアプリ・モバイルコンテンツ市場における「お金の流れ」そのものである。これまで不可侵とされてきた「30%手数料」の壁が崩れ、業界ごとに利益構造が書き換えられようとしている。誰が恩恵を受け、どこに新市場が生まれるのか。業界別にそのインパクトを読み解く。
●目次
これまでiPhoneやAndroid上でビジネスを行うアプリ事業者は、事実上アップルとグーグルが運営するアプリストアという“関所”を通らざるを得なかった。課される手数料は売上の15~30%。いわゆる「アップル税」「グーグル税」だ。
日本はiPhoneのシェアが約50%と世界的にも高い(MM総研調べ)。このプラットフォームルールの変更が国内産業に与える影響は極めて大きい。
スマホ新法により、アプリ事業者は「アプリストアの選択肢拡大」「外部決済・自社決済の導入」「サイドローディングの容認」といった選択肢を得る。つまり、これまでプラットフォーマーに徴収されてきた巨額の手数料を、自社の利益や投資原資として再配分できる可能性が生まれるのだ。
「スマホ新法の本質は値下げではありません。誰がユーザーとの“請求関係(Billing Relationship)”を握るかという、商流の主導権の問題です。アプリ事業者が“店主”に戻れるかどうか、その試金石になります」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
最も大きな恩恵を受けるのは、原価率(作家ロイヤリティなど)が高いコンテンツ産業、とりわけマンガ・電子書籍分野だ。
これまで出版社や電子書店は、原価に加えて30%のストア手数料を負担してきた。その結果、「ウェブ版よりアプリ版が高い二重価格」「アプリ内で購入できず、ウェブに飛ばす不便な導線」といった歪みが生じていた。
自社決済(手数料数%)がアプリ内で解禁されれば、この構造は一変する。
・ユーザー体験の改善:ログインし直す必要がなくなり、購入率(CVR)が向上
・価格戦略の自由化:アプリ内セール、ポイント還元が可能に
大手電子書店の幹部は、「30%手数料は正直“利益”ではなく“歪み”でした。二重価格はユーザーにも嫌われていた。アプリ内で自社決済が可能になれば、売上以上に購入率が変わると見ています」と語る。