
●この記事のポイント
・アップルが生成AI基盤にグーグルの「Gemini」を採用。自前主義を捨て、宿敵と手を組む決断は「AI敗北」か、それとも生存のための冷徹な戦略転換か。iPhoneの中枢で起きた歴史的転換を追う。
・Apple Intelligenceと次世代Siriの開発遅延、人材流出――。AI競争で誤算を重ねたアップルは、インフラとモデルで圧倒するGoogleに依存する道を選んだ。背景にある業界力学を解剖する。
・Gemini搭載でSiriは劇的進化を遂げる一方、グーグルの影響力拡大に独禁法リスクも浮上。アップルは「魔法」を失ったのか。AI時代におけるアップルのリアリズムと賭けの行方を問う。
2026年1月12日、シリコンバレーに激震が走った。グーグルは、同社の大規模言語モデル(LLM)「Gemini」が、アップルの生成AI基盤「Apple Intelligence」および刷新版「Siri」に正式採用されたと発表した。
かつてスティーブ・ジョブズがAndroidを「盗品」と呼び、グーグルに対して「核戦争も辞さない」と語ったことを思えば、この提携は歴史的転換点だ。スマートフォン市場で激しく覇権を争ってきた両社が、OSの“知能中枢”という最重要領域で手を組んだのである。
これはAppleの「AI敗北宣言」なのか。それとも、生成AI戦国時代を生き抜くための、極めて冷徹な現実主義なのか――。
●目次
アップルは2024年、「Apple Intelligence」を鳴り物入りで発表した。しかし、その後の展開は決して順風満帆ではなかった。
誤算① オンデバイス主義の限界
アップルは一貫して「端末内処理(オンデバイス)」を重視してきた。プライバシー保護の観点では評価されたが、結果としてモデル規模と学習量に制約が生じた。
文章生成、要約、文脈理解といった分野では、ChatGPTやGeminiの進化速度に追いつけず、「賢さ」で見劣りするとの評価が定着していった。
誤算② 次世代Siri開発の迷走
最大の誤算は「次世代Siri」の遅延だ。複数アプリを横断して操作する“エージェント型AI”として構想されたSiriは、既存アーキテクチャとの整合性に苦しみ、完成時期が度々延期された。
「Siriは設計思想が“命令型UI”の時代に最適化されており、生成AIを後付けするには構造的な限界があった。抜本改修には時間がかかりすぎた」(ITジャーナリスト・小平貴裕)
誤算③ 人材流出という静かな危機
2025年末、AI戦略の中核を担ってきたジョン・ジャナンドレア氏の退任が報じられた。加えて、プライバシー制約に限界を感じたエンジニアがOpenAIやAnthropicへ流出する動きも続いた。
アップルは「自前主義」を貫くには、時間も人材も足りなくなっていた。
この提携で最も恩恵を受けるのは、間違いなくグーグルだ。
22億台規模の“知能供給”
世界で稼働するiPhone、iPad、Macという巨大エコシステムに、Geminiが事実上の標準AIとして組み込まれる。これはOpenAIに対する決定的な流通チャネルの優位を意味する。
収益構造の逆転
これまでグーグルは、iPhoneのデフォルト検索エンジンである対価として、アップルに年間約200億ドルを支払ってきた。しかしAI提携では、報道ベースでアップルがグーグルに年間約10億ドル規模のライセンス料を支払う構図になるとみられている。
「グーグルは“検索の門番”から、“知能そのものを売る企業”へとビジネスモデルを一段引き上げた」(同)