生成AIをめぐる競争では、計算資源・リスクマネー・研究者の厚みにおいて日本は構造的な劣位にある。だが、物理的な身体を伴うAI──すなわちフィジカルAI──の領域では、精密工学の蓄積が直接的な優位として機能する。
日本の経済産業省は2026年3月、国内フィジカルAI産業の育成と2040年までのグローバル市場シェア30%獲得を目標に掲げた。日本は既に2022年時点で産業用ロボットの世界市場シェアの約70%を日本メーカーが占めており、その基盤を足がかりにしようとしている。
経済産業省は3月、フィジカルAI分野に3873億円を充てる方針を公表しており、労働人口の減少を補完する中核技術と位置づけている。市場規模でも、身体性AIの世界市場は2025年の44億ドルから2030年には230億ドルへ、年率39%で拡大すると予測されている。
ソニーAIのチーフサイエンティスト、ピーター・ストーン氏は今回の成果についてこう述べた。「このブレークスルーは卓球をはるかに超えた意義を持つ」
卓球するロボットは「遊び」ではない。それは、定型処理の反復に最適化された20世紀型ロボットが超えられなかった二つの壁──「コンマ数秒の物理的リアルタイム制御」と「非定型事象への適応」──を突破するための、最も過酷な実証実験だ。
生成AIがソフトウェアの世界を変えたように、フィジカルAIは「物が動く世界」のロジックを根底から書き換えようとしている。ソニーが卓球台に5年間をかけたように、今「一見非効率に見える研究」に投資する企業こそが、数年後の製造・物流・サービス業における競争力の源泉を手にする可能性が高い。
いまビジネスパーソンに問われているのは、短期の生産性と長期のアジリティのどちらに賭けるか、ではない。今や、アジリティこそが最大の生産性なのである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=安達祐輔/ロボットエンジニア)