この言葉は、業界の本音を端的に表している。
日本政府は「デジタル田園都市国家構想」において明確な数値目標を掲げている。2025年度をめどに全国50カ所程度、2027年度までに100カ所以上で、車内に運転手がいない自動運転システムを活用した移動サービスの実現を掲げている。2024年に自動運転の実証実験は全国100カ所以上で行われたが、レベル4に対応しているのは7カ所のみという現実があり、目標と実態のギャップはなお大きい。
今回のウーバー・日産・ウェイブの東京参入は、この空白を一気に埋める「呼び水」となる可能性がある。政府・規制当局にとっても、世界的なプレイヤーが東京を実証フィールドに選んだことは、規制緩和の議論を加速させる材料になりうる。
ただし、残された課題は技術だけではない。まず「事故時の責任の所在」という根本問題がある。ドライバーが存在しない場合、事故の責任はシステム開発者か、車両メーカーか、プラットフォームか、運行事業者か——現行法制度のもとでは明確な答えが出ておらず、保険の設計も途上にある。
加えて、社会受容性(Public Acceptance)の問題がある。技術が完成しても、乗客が「無人タクシー」を積極的に選ぶかどうかは別の話だ。特に高齢者や子どもを乗せるシーンでは、心理的なハードルは依然高い。
さらに見逃せないのが、2026年4月現在の日産の経営状況だ。同社は工場閉鎖や人員削減を含む大規模リストラを進めている。Uberとの提携はブランド価値の再浮上に向けた重要な布石とも受け取れるが、経営再建の過程で開発リソースをどこまで注ぎ込めるかは、引き続き注視が必要だ。
俯瞰すると、2026年現在の日本の自動運転タクシー業界は、地理的にも興味深い構図を呈している。東京では「グローバル連合(ウーバー・日産・ウェイブ)」が試験運行を準備し、大阪・堺では「国内連合(newmo・ティアフォー)」が国の先行地域として実証実験を開始しつつある。
都市の性格も対照的だ。東京の複雑な都市環境でウェイブのAI汎化能力を試すアプローチと、大阪・堺の整然とした臨海エリアで段階的にデータを積み上げるアプローチ。どちらが先に「商用化」という果実を手にするかは、まだ誰にも分からない。
ただし確かなのは、かつての「自動運転は夢物語」という空気が消えたことだ。時計の針は確実に動き始めている。タクシー業界が直面しているのは、技術的な変化への適応だけでなく、「誰と組み、何を守り、何を手放すか」という戦略的な選択の問いだ。その答えを出せる事業者だけが、5年後の市場で存在感を保っていられるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)