「GLP-1薬で食事量が減った分、タンパク質を意識的に補う必要が生じます。体重1kgあたり1.0〜1.2g程度のタンパク質摂取が推奨されており、プロテインサプリメントへの需要が急増する背景になっています」(フードビジネスアナリストの山田和人氏)
薬の普及が「プロテイン需要の押し上げ要因」になるという逆説的なメカニズムが、米国を中心に実際に機能している。GLP-1薬は日本でも2023年11月以降に肥満症薬として薬価収載され、今後の普及拡大が見込まれる。
(3)原料グレード間の「連鎖的な需給逼迫」
ここでは業界特有の供給構造も理解しておく必要がある。高付加価値品であるWPIの需要急増により、製造能力をWPI生産に優先配分するメーカーが増え、結果としてより一般的な原料であるWPC80の供給も圧迫されている。つまり「高級品の争奪戦が、汎用品の品薄も招く」という連鎖が起きているのだ。さらに、ホエイはあくまでチーズ製造の副産物であるため、チーズ生産量の上限に原料供給が縛られるという構造的制約がある。
(4)為替(円安)とコストプッシュの三重苦
日本固有の問題として円安の影響も大きい。輸入コストの増大に加え、エネルギー費・物流費の高騰も重なり、国内メーカーは文字通り「三重苦」の状態にある。
日本のプロテイン市場の主原料であるホエイは、その性格上、酪農が盛んな欧米・オセアニアからの輸入に依存せざるをえない。2025年のデータでは、日本のホエイ原料の50%以上が米国からの輸入だ。
この構造が生む最大のリスクが「買い負け」だ。経済規模や購買力で優る国々との争奪戦において、日本企業が価格競争で不利になるのは必然的でもある。加えて、国際情勢の緊迫化による航路変更リスクや、気候変動が欧州の酪農生産に与える影響(干ばつ・猛暑による生乳生産量の減少)も、中長期的なリスク要因として無視できない。
「グローバルな食料安全保障の観点から見ると、タンパク質資源は今後の地政学的争点の一つになりえます。日本はエネルギーと同様、主要原料の海外依存リスクを真剣に議論すべき段階に来ています」(同)
こうした状況を受け、業界全体が代替原料の模索を加速している。注目されるのは主に以下の3つだ。
ソイ(大豆)・ピー(えんどう豆)プロテイン
現時点で最も現実的な代替候補がソイ(大豆)とピー(えんどう豆)の植物性プロテインだ。ピープロテインの国内実勢価格は1kgあたり2000〜4300円程度と、現在のホエイプロテイン(1kg約7000〜8000円)の半額以下という価格優位性がある。大豆についても、ホエイほど供給が逼迫していないため、価格が相対的に安定している。
課題は「質」だ。タンパク質の質を示す指標DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)において、ホエイが最高水準(1.00以上)を誇るのに対し、大豆は0.90前後、えんどう豆は0.80前後と劣る。ただし、ピーとライスプロテインをブレンドするなど、複数の植物性原料を組み合わせることでアミノ酸バランスを補完する製品開発が進んでおり、栄養学的な「差」は着実に縮まっている。
精密発酵(プレシジョン・フェルメンテーション)
フードテック領域では、微生物に乳由来タンパク質の遺伝子情報を組み込み、動物を使わずにホエイタンパク質そのものを生産する「精密発酵」技術が注目を集めている。品質面ではホエイと同等の機能を持ちながら、サプライチェーンを乳業生産から切り離せるという革新性がある。現時点では製造コストが高く商業スケールへの移行途上にあるが、中長期的な解決策の一つとして各国で研究開発投資が続いている。