プロテイン原料が5年で3倍に高騰…GLP-1薬・世界争奪戦・円安「三重苦」の構造を読む

国内サプライチェーンの再構築——森永乳業の動きが示す方向性

 日本メーカーの反撃の軸となっているのが、「国内でホエイを作る」発想だ。

 冒頭で触れた日経の報道によれば、森永乳業はホエイプロテインの国内増産を検討しているという。同社の決算資料によると、ホエイ市況の高止まりを受けて欧州子会社MILEI GmbH(ドイツ)の業績が伸長しており、グローバルな原料調達網の整備が収益に寄与している構図も見えてくる。チーズ製造の副産物として国内で回収できるホエイ液の活用ラインを拡充することは、輸入依存から「国内循環」へのシフトを意味し、為替リスクや物流コストの部分的なヘッジにもなる。

 ただし、現実は容易ではない。日本国内のチーズ生産量には上限があり、回収・加工ラインの整備には相当の設備投資と時間を要する。短期的な市況変動への「切り札」というより、5〜10年単位のサプライチェーン戦略として位置付けるのが現実的だ。

 また業界全体としては、ホエイ100%の製品にこだわらず、植物性とのブレンド製品や機能性を付加した高付加価値製品への転換——すなわち「値上げを消費者に納得してもらえるだけの価値の向上」——が、中期的な生存戦略として浮上している。

展望——「安く買って大量消費」の時代の終わり

 現在の需給状況を踏まえると、欧米の大手原料メーカーが設備増強に乗り出しているものの、新工場の稼働がホエイ供給に反映されるまでには時間を要する。GLP-1薬の普及という新たな需要ドライバーも加わり、少なくとも2026年いっぱいは原料価格の高止まりが続くというのが業界の共通認識だ。

 ただし、価格上昇が「永続」するわけでもない。設備投資の進展、植物性原料の技術革新、精密発酵の商業化、そして消費者の選好変化——これらが複合的に作用し、市場は数年かけて「ホエイ一極集中」から「タンパク質の多様化」へと構造転換していく可能性が高い。

 プロテインの高騰は、一時的なブームの裏返しではなく、地球規模のタンパク質需要のパラダイムシフトが生んだ必然の帰結だ。「安く輸入して大量消費する」という20年来のビジネスモデルは、静かに、しかし確実に終焉を迎えつつある。問われているのは、企業がこの構造変化をどれだけ早く見極め、サプライチェーンの再設計と製品価値の再定義に踏み切れるかだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山田和人/フードビジネスアナリスト)