ココイチ減益の元凶「コメ高騰」が一転「コメ余り」…外食業界が直面する新たな試練

 第三に、農政の揺り戻しである。農林水産省は2026年産主食用米の生産目安を前年比2%減の711万トンと設定し、増産路線から事実上の生産抑制へ舵を切り直した。しかし高値の記憶が残る産地の増産意欲は根強く、作付意向ベースでは目安を上回る「732万トン」との試算もある。仮にこの水準で豊作となれば、需要を20万トン以上上回る供給過剰が現実味を帯びる。

 皮肉なのは、主食用米が余る一方で、飼料用米や日本酒・米菓の原料となる加工用米が不足していることだ。市場価格のシグナルに農家が合理的に反応した結果、用途別の需給に「ボタンの掛け違い」が生じている。

「価格メカニズムと生産調整政策が中途半端に併存する現行制度の限界が露呈したかたちです。豊作貧乏と品目別ミスマッチが同時に起きるのは、制度設計の歪みそのものといえます」(杉田氏)

米価下落は外食を救うのか…素直に喜べない「3つの罠」

 秋以降の仕入れ値下落は、壱番屋や牛丼チェーンにとって強力な利益押し上げ要因になり得る。実際、スーパー平均店頭価格は2026年5月時点で5キロ3700円台まで下がり、卸間のスポット価格も下げ基調が鮮明だ。しかし、外食各社が手放しで喜べない理由が三つある。

(1)値下げ圧力という泥沼
「コメが安くなった」という報道が広がれば、消費者や競合から「メニューも下げろ」という無言の圧力がかかる。壱番屋の客数減が示すように、値上げ後の客離れはすでに顕在化しており、一度上げた客単価の防衛と客数回復の両立は容易ではない。

(2)インフレコストはコメだけではない
 人件費、物流費、電気代は26年現在も高止まり・上昇基調にある。壱番屋自身、27年2月期についても食材・物流・人件費の上昇が続く厳しい環境を想定している。コメだけ下がっても、損益分岐点全体は下がらない。

(3)契約栽培とスポット価格のタイムラグ
 大手外食の多くは供給安定を優先し、複数年・固定価格の契約栽培でコメを調達している。市場のスポット価格が暴落しても、契約分にはその恩恵が即座には及ばない。皮肉にも、高騰期に「安定調達の勝ち組」だった契約栽培派が、下落局面では割高在庫を抱えるリスクを負う。

コメの乱高下を生き抜く「次の一手」

 では、米価の乱高下に振り回されないために、先進企業は何を始めているのか。

(1)調達ルートの重層化
 契約栽培を軸にしつつ、スポット調達の比率を機動的に組み合わせる「ハイブリッド調達」への転換だ。農家側にも複数年契約は経営の予見可能性という利点があり、価格の上下双方に耐える設計(価格改定条項の導入など)が今後の契約の焦点になる。

(2)メニューの「ライス比率」コントロール
 トッピングやサイドメニューの高付加価値化により、客単価に占めるコメ原価の割合を相対的に引き下げる。壱番屋がジンギスカンの大黒屋、つけ麺の麺屋たけ井など子会社群を伸ばし「脱・カレー一本足」を進めているのも、広義のポートフォリオ分散である。

(3)海外市場への展開
 国内需給への依存を薄め、グローバルで仕入れと出店を分散する。国内では26年産から政府備蓄米の買い入れが再開され、輸出拡大も政策課題に浮上しており、コメの需給は今後「国内完結」から国際市場との連動へ徐々に開かれていく可能性がある。

・「安くなってよかった」で終わる企業は次の波に沈む

 2024年の「足りない」、2025年の「高すぎる」、そして2026年秋に懸念される「余っている」。この目まぐるしい乱高下は、日本の農業政策と外食サプライチェーンが抱える構造的な脆さの表出にほかならない。

 米価下落は外食にとって一時の追い風になるだろう。しかしそれを単なるコスト減として消費するのか、調達構造の改革と契約の適正化、メニューポートフォリオの再設計に踏み込む契機とするのかで、次の変動局面での明暗は再び分かれる。不作は必ずまた来る。真の「ポスト米騒動」の勝者は、価格が下がった今この瞬間に、次の高騰への備えを始めた企業である。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)