比較軸 アスクル(2025年10月)
事業特性 BtoB通販+自社物流が密結合
主因・手口 委託先の管理者アカウントでMFA(多要素認証)が例外的に未適用
業務への打撃 ECサイトの受注停止、物流センター機能不全
代替手段 手作業による受注・出荷処理
復旧までの期間 主要サービス再開まで約2カ月
財務影響 特別損失として52億1600万円を計上、2025年6〜11月期は最終損益66億円の赤字に転落、通期業績予想を取り下げ
比較軸 ニチレイ(2026年7月)
事業特性 食品製造+サードパーティ物流(冷蔵倉庫)
主因・手口 現時点で非公表(調査中)
業務への打撃 冷蔵倉庫の入出庫・冷凍食品出荷が停止
代替手段 現時点で詳細不明(手動対応の可否が焦点)
復旧までの期間 未定
財務影響 現時点で未公表
アサヒGHDとアスクルは、いずれも数カ月単位の復旧期間と巨額の財務インパクトを経験した。アサヒGHDは決算発表が例年より約5カ月遅れる異例の事態となり、臨時株主総会の開催にまで発展した。アスクルは委託先アカウントの多要素認証の「例外運用」という、ごく小さな管理の隙が侵入の起点になったと説明している。
ニチレイの場合、両社と異なる固有の難しさがある。ニチレイロジグループは自社製品だけでなく、他社の冷凍・冷蔵品の保管・輸送も請け負っており、年間約5000社が同社の低温物流インフラを利用し、グループ外の売上比率は9割超に達するとされる。つまり障害が長引けば、影響はニチレイ一社にとどまらず、取引先の欠品や小売店の店頭にまで連鎖しかねない。しかも冷凍食品は常温商材と異なり、温度管理が止まれば「廃棄」に直結するという物理的な制約がある。紙の伝票による代替運用も、預かり品を含む膨大なアイテム数を前にすると現実的な選択肢としての限界がある。
トラックドライバーの時間外労働規制強化に端を発する「物流2024年問題」以降、業界は恒常的な労働力不足とバース(荷捌き場)の待機時間削減という課題を抱え続けている。そこにシステム障害が重なれば、出荷スケジュールの急な変更やトラックの待機時間拡大が現場をさらに疲弊させる悪循環を招きかねない。
こうした事案が相次いだことを受け、2026年4月にはアサヒグループジャパンなど流通・小売関連10社が「流通ISAC」を設立し、業界横断でのサイバー脅威情報の共有体制づくりに動き始めている。従来は「データをバックアップしておけば良い」とされてきたBCPの発想は、いま「システムを遮断した状態で、最低限の業務を何日維持できるか」という実践的な訓練(サイバードリル)を前提とするものへと変わりつつある。
サイバーセキュリティコンサルタントの新實傑氏は、次のように指摘する。
「ネットワーク遮断による事業停止は、企業が『被害を広げないために正しい判断をした』結果であることが多い。問題視すべきは遮断そのものではなく、遮断後に最低限の事業を継続できる代替オペレーションが整備されているかどうかだ。アサヒやアスクルの事例が示すように、財務への影響は攻撃発生時ではなく、数カ月後の決算期になって初めて全容が見える。経営層は『復旧費用』だけでなく、機会損失や信用回復コストまで含めた中長期的な視点でリスクを評価する必要がある」