技術を囲い込むのではなく無償で広げ、その上に立つ実装支援やライセンスで収益化する。プラットフォーム型ビジネスの定石を自動車業界に持ち込んだ格好だ。
このOS戦略が広がった先に何が起きるか。かつてパソコン業界で「Wintel(Windows+Intel)」が主導権を握り、日本の電機メーカーが組み立てや部品供給に押し込まれた歴史は、自動車業界にとって他人事ではない。「頭脳」をソフトウェア企業が握り、「箱」を作るのが自動車メーカーという役割分担が進めば、完成車メーカーの付加価値は相対的に低下しかねない。
SOMPO、ヤマハ発動機、いすゞ自動車、スズキ、KDDI、JR東海、三菱商事、ソニー、ブリヂストン、大成建設、そしてトヨタ系企業まで、業種を超えた顔ぶれがティアフォーに出資・協業しているのは、この構造変化に乗り遅れないための布石とも読める。日産は英Wayveの自動運転AIを採用する一方、ティアフォーとの協業で2026年後半に東京都内でのロボタクシー試験運行を計画するなど、自動車メーカー各社は特定の一社に依存しない「マルチベンダー」戦略を取りつつある。
政府も追い風を用意する。2030年度までに自動運転サービス車両1万台という目標を閣議決定しており、道路交通法・道路運送車両法の整備も進む。政策的な後押しは本物だが、実装のスピードが企業の収益化を上回れるかは未知数だ。
競争環境も楽観できない。米テスラは2026年6月に商用ロボタクシーの1周年を迎えたが稼働台数は約20台にとどまり、米Waymoの約3,000台・週50万回の有料運行と比べ差は大きい。一方でNVIDIAは自動運転向けAIモデル群「Alpamayo」とハードウェア基盤「DRIVE Hyperion」を軸に、2028年までに28都市でのロボタクシー展開を掲げ、メルセデス・ベンツやUber、いすゞ、日産などとの協業を拡大している。オープンソースOSで勝負するティアフォーにとって、巨大テック企業のフルスタック攻勢は無視できない脅威だ。
「Autowareの強みは、特定企業に依存しない“中立性”にある。ただし中立であることは、収益化のスピードで不利に働く場合もある。量産段階でどれだけ高付加価値な受託・ライセンス収益に転換できるかが、この会社の実力を測る本当の分岐点だ」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
自動運転の覇権争いは、テスラのような「垂直統合(車もOSも自社で作る)」と、ティアフォーが体現する「水平分業(OSを共有し、みんなで車を作る)」という2つのモデルの競争に収斂しつつある。どちらが勝つかは、まだ結論が出ていない。
ティアフォーの上場は、一スタートアップの資金調達に留まらない意味を持つ。日本が長年強みとしてきた「モノづくり」が、ソフトウェアという新しい主導権をどう扱うか。赤字を抱えたままの上場は、その問いに対する市場からの「仮の評価」に過ぎない。真価が問われるのは、これからの量産化と収益化のフェーズである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)