一過性の流行を「日常の習慣」に変えた、ブランド再定義とDX(CX)戦略の全貌
●この記事のポイント
タピオカブーム終焉後も、ゴンチャは日本国内で既存店売上高52カ月連続増収を記録。「タピオカ専門店」から「アジアンティーの日常カフェ」へブランドを再定義し、LINEモバイルオーダー導入で複雑なカスタマイズを客単価向上に転換した。2026年にはベインキャピタルが約1000億円で買収し、220店舗・年間来客数約4000万人まで成長した実態を検証する。
2018年前後、LCC(格安航空会社)の台湾就航ブームを追い風に日本中に広がったタピオカドリンク専門店。原宿や渋谷の路地裏に次々と看板が立ち並んだあの熱狂は、2019年をピークに急速に萎み、新型コロナウイルス禍による外出自粛も重なって、多くの店が静かに姿を消していった。
ところが、当時「タピオカ専門店」の代名詞のようにも語られていたブランドのひとつ「ゴンチャ(Gong cha)」は、その波に飲まれなかった。それどころか、日本国内の既存店売上高は前年同月を上回り続け、その連続記録は2026年時点で52カ月に達しているという。外食業界が人件費・原材料費の高騰という逆風にさらされる中での、この持続的な成長は決して当たり前の現象ではない。
なぜ「ブーム産業」の象徴だったはずのゴンチャだけが、消費者から選ばれ続けているのか。その裏側には、単なる商品力や運の良さでは説明できない、周到な「ブランドの再定義」と「DXによる顧客体験(CX)改革」という2つの構造改革があった。
●目次
タピオカドリンク専門店の多くは、「一度は飲んでみたい」という話題性・希少性を原動力に急拡大した。SNS映えする見た目と行列そのものが宣伝効果を持ち、出店コストの低さも手伝って新規参入が相次いだ。しかし、これは裏を返せば「目新しさが薄れれば需要も消える」という脆弱なビジネスモデルでもあった。実際、店舗の乱立によって希少性が薄れたところにコロナ禍の外出減少が重なり、多くの店が撤退を余儀なくされたと業界メディアは報じている。
ゴンチャジャパンの角田淳社長は、ブーム終焉後も生き残れた理由について、「アジアのお茶がメーンの大手チェーンがほかにないのが大きいのでは」と分析している。つまり同社が生き残った要因は、タピオカという「一発商品」への依存を早期に脱し、業態そのものを再定義できたことにあったといえる。
ゴンチャが打ち出したのは、「タピオカ専門店」ではなく「本格的なアジアンティーを日常的に楽しむティーカフェ」というポジションだった。タピオカはあくまでトッピングの一種であり、主役は茶葉そのものであるという原点回帰の姿勢を明確にしたのである。
この再定義が持つ意味は小さくない。日本国内の茶市場は1兆円超とされ、コーヒー市場に匹敵する規模を持つ一方、カフェ市場(推計約7000億円)の中で「ティーカフェ」が占める割合はまだ1割にも満たないとされる。つまりゴンチャは、コーヒー中心のカフェ市場の中に、「コーヒーは苦手だが、缶ジュースでは物足りない」「小腹満たしにもなる満足感のある一杯を、移動中にサクッと飲みたい」という潜在ニーズが眠る空白地帯を見出し、そこに独自のポジションを築いたことになる。実際、同社はこの領域を「デザートドリンク市場」(推計約3000億円)と位置づけ、コーヒーチェーンとは異なる土俵で勝負する戦略を明確にしている。