「渋谷・銀座・原宿のような一等地は、家賃が高くて利益が出にくいはずだ」というのは、小売業に対する一般的な直感だろう。だが、マツキヨココカラの都心型店舗を見ると、この直感がそのまま当てはまらないことがわかる。
象徴的な例が、2025年7月に全面改装オープンした「マツモトキヨシ GINZA FLAG」(銀座5th店)だ。売り場面積は約242平方メートル(約73坪)と、郊外型ドラッグストアの数分の一の規模にすぎない。しかし取扱商品構成は化粧品が75%、医薬品が20%、日用品が4.5%、食品はわずか0.5%という、極端なまでの「脱・食品」型の品揃えとなっている。取扱品目数は改装前から約1000品目増え、約1万品目に達した。ターゲットは20〜30代の女性で、「Beauty Addiction(美への渇望)」というコンセプトのもと、一般的なドラッグストアでは扱わない限定ブランドや新商品を積極的に取りそろえている。
郊外型の店舗が100〜300坪の広い売り場に、単価の低いかさばる商品(飲料、菓子、日用消耗品)を並べて坪あたりの利益を薄く広く積み上げるのに対し、マツキヨココカラの都心型店舗は、数十坪という限られた面積に高単価・小型の商品(高級美容液、機能性化粧品、医薬品)を凝縮することで、坪あたりの売上・利益を最大化する設計になっている。加えて、渋谷・銀座・原宿といった一等地の高額な家賃は、見方を変えれば「圧倒的な歩行者数(=集客力)を買う対価」でもある。
2025年の訪日外国人数は史上最速のペースで年間3000万人を突破し、11月時点の累計が3907万人と過去最多を更新した。買い回りのついでに高単価のコスメや医薬品が動きやすい都心立地では、家賃負担が重くても、それを上回る売上・利益を生み出せる可能性が高い。「高い家賃=儲からない」という単純な図式ではなく、「高い家賃を払ってでも、それを上回る客単価と購買率を確保できるか」という坪単価の設計こそが、都市型ドラッグストアの勝敗を分けている。
一般的なドラッグストアのPB商品は、ナショナルブランド(NB)より1〜2割安い「節約用アイテム」という位置づけが多い。これに対し、マツキヨココカラのPB戦略は明確に異なる方向を向いている。同社は「matsukiyo」を筆頭に、「THE RETINOTIME」「ARGELAN」「LUNTA」「RECIPEO」など複数のPBブランドを展開し、単なる低価格訴求ではなく、デザイン性・機能性・トレンド感で勝負する商品開発を進めてきた。開発にあたっては、年齢や性別による従来型の顧客区分ではなく、購買データから算出した「意識スコア」をもとに顧客と商品を設計する独自のアプローチを採用しているという。
2024年12月には美容口コミメディア「LIPS」を完全子会社化し、1億5000万件を超えるとされる会員接点(会員カード・アプリ・LINE)や口コミデータを商品開発に活用する体制を構築した。こうした取り組みの結果、2026年3月期のPB比率は前期比1.2ポイント上昇の14.8%に達し、大手メーカーとの協業商品では保湿スキンケアカテゴリーの売上が2.4倍に拡大するなど、具体的な成果も出ている。化粧品は同社売上高の4割超を占める主力カテゴリーであり、自社開発のPBは中間流通マージンが抑えられる分、NB仕入れ品より粗利を厚く残しやすい。SNSでの話題化を狙ったマーケティングも奏功し、若年層や訪日客が「マツキヨでこのPBを買いたい」と指名買いに訪れる動線が生まれている点は、他社の「節約PB」とは一線を画す収益モデルといえる。