●この記事のポイント
アシックスは2026年12月期の売上高予想を1兆500億円(前期比29.5%増)へ上方修正し創業以来初の1兆円突破、株価も上場来高値5389円を更新。子会社オニツカタイガーは営業利益率39.6%の高収益。対するナイキは直営店売上が6%減、CEO交代など苦戦継続。両社の明暗を分けた戦略を解説。
スポーツ用品業界の勢力図に、これまでにない逆転劇が起きている。
アシックスは8月14日、2026年12月期の連結業績予想を上方修正し、売上高が創業以来初めて1兆円の大台を突破する見通しになったと発表した。修正後の売上高予想は1兆500億円(前期比29.5%増)、営業利益は1950億円(同36.8%増)、純利益は1200億円(同21.6%増)。上期(1〜6月)だけで売上高5344億円(前年同期比32.7%増)、純利益821億円(同53.3%増)と、中間期として初めて売上高5000億円を超え、あらゆる指標が過去最高を更新した。発表を受けて株価は一時前日比10.81%高の5389円まで急伸し、5月につけた上場来高値(5149円)をさらに更新。年間配当も38円から44円へ引き上げられた。
一方、長年スポーツ用品業界の絶対王者として君臨してきたナイキ(NIKE, Inc.)は苦しい状況が続く。2026年5月期通期の売上高は464億ドルで実質横ばい(為替影響を除くと2%減)、直営店・自社ECを中心とする「ダイレクト」部門の売上高は177億ドルと前期比6%減(為替影響を除くと8%減)にとどまった。2024年9月には当時のジョン・ドナホーCEOが退任し、生え抜きのエリオット・ヒル氏が同年10月にCEOへ復帰するという異例の経営体制刷新にも踏み切っている。ヒルCEOは「長期的な成長に向けて事業の土台を立て直しているところだ」と説明するが、本格回復にはなお時間がかかるとの見方が市場では根強い。
かつてナイキの黎明期にシューズを供給していた「元祖」とも言える存在のアシックスが、なぜこのタイミングで本家を猛追し、過去最高の業績を叩き出せているのか。その背景には、業界を覆った共通の逆風のなかで明暗を分けた戦略の違いと、アシックスが育て上げた「高収益ブランド」の存在がある。
●目次
ナイキは2020年前後から、卸売(小売店経由の販売)を絞り込み、自社ECや直営店に販売を寄せる「D2C(Direct to Consumer)拡大戦略」を強力に推進した。中間マージンを排し利益率を高める狙いだったが、結果としてスポーツ専門店の店頭からナイキ商品が減り、競合ブランドが空いた棚を奪う形となった。加えて、スニーカーカルチャーやファッション性を重視した商品展開に力を入れすぎたことで、レトロモデルの供給過多を招き、2025年夏以降は自社EC・アウトレットで最大50%引きに踏み切るなど値引き販売が常態化。東洋経済オンラインの報道によれば、この価格崩れは競合の追随も呼び、スニーカー専門店の既存店売上にも影響が及んだという。ランナー向けの機能性開発が相対的に後手に回ったとの指摘も業界内では根強い。
対照的にアシックスは、いわゆる「ガチランナー」に照準を合わせた高機能シューズの開発にリソースを集中させてきた。厚底カーボンプレートシューズ「METASPEED」シリーズはトップアスリートから市民ランナーまで支持を広げ、モデルチェンジを重ねながら競技性能を磨き続けている。同時にスポーツ専門店との関係を維持・強化し、実際に走るユーザーとの接点を地道に守り続けたことが、ブランドへの信頼につながった。