もっとも、アシックスの快進撃がこのまま続くと決めつけるのは早計だろう。オニツカタイガーの収益性は円安とインバウンド消費の追い風に一定程度支えられており、為替が円高方向へ振れたり、訪日客数の伸びが鈍化したりすれば、成長率が調整局面を迎える可能性はある。また、ライフスタイルスニーカー市場では「オン(On)」や「ホカ(HOKA)」といった新興ブランドの存在感も増しており、プレミアム価格帯での競争が激化する余地も否定できない。一方のナイキも、卸売チャネルとの関係修復や競技性能を軸にした商品開発に着手しており、ブランド力そのものが失われたわけではない点には留意すべきだ。今後の焦点は、アシックスが二本柱の成長をどこまで持続させられるか、そしてナイキが「現場」との接点をどこまで取り戻せるかにある。
アシックスの成長劇から読み取れる教訓は、大きく二つに整理できる。
一つは、業界の巨人であるナイキの存在感に臆することなく、自社のコア技術である機能性開発を磨き続けたことだ。競技志向のランナーという「コアユーザー」を軽視せず、専門店という現場の接点を守り続けたことが、結果的にブランドへの信頼と業績の土台になった。
もう一つは、自社が持つ資産――オニツカタイガーが持つ歴史的文脈――を正しく再定義し、値引きに頼らずプレミアム価格で売る勇気を持ったことである。流行や短期的な市場のトレンドに合わせて安易に価格を下げるのではなく、ブランドの物語性を武器に据えたことが、高い利益率という形で結実した。
プラットフォームや一時の流行に乗るのではなく、自社ならではの強みを地道に磨き続けること。これこそが、為替や消費動向が目まぐるしく変化するグローバル市場を勝ち抜くための、遠回りに見えて最も確実な道筋なのかもしれない。ナイキも今回の苦戦を経て、自社の強みをどう再定義していくのか、今後の戦略転換が注目される。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝・戦略コンサルタント)
【主な参照データ】
アシックス「売上高1兆円」突破へ 今期業績予想を上方修正(WWDJAPAN.com)
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