KDDI「menu」撤退とWolt日本撤退が突きつけた現実…8240億円市場を制するウーバーイーツ

「通信キャリアがデリバリー事業に参入する際、ポイントや決済といった”経済圏アセット”を過大評価しがちな傾向がある。しかしユーザーが本当に評価するのは配達の速さや正確さ、加盟店の豊富さといった現場のクオリティであり、それは資本力だけで即座に構築できるものではない」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

両面市場が生んだ「勝ち負けの残酷な差」

 フードデリバリーはユーザー・加盟店・配達員という複数の主体が同時に価値を生み出す「多面市場」の典型例である。ユーザーが増えれば加盟店にとっての魅力が増し、加盟店が増えればユーザーの選択肢が広がる。さらに配達員が多いほど配達時間が短縮され、ユーザー体験と店舗の売上機会がともに向上する。この好循環が一定の規模を超えると指数関数的に効いてくる「ネットワーク効果」こそが、プラットフォームビジネスの勝敗を分ける最大の変数だ。

 Uber Eats Japanは、全国12万店舗の加盟店と10万人規模の配達パートナーを擁し、2023年から2025年にかけて3年連続で黒字を計上、2026年1月には単月として過去最高の売上を記録したという。さらに2026年3月20日からは、加盟店から受け取る手数料を引き下げることで「店頭と同じ価格」でのデリバリーを実現する新施策を開始した。従来、デリバリー利用時の価格は店頭より3〜4割程度上乗せされるケースが少なくないと指摘されてきたが、この価格差を解消することで、出前館からのシェア奪取を一段と加速させる狙いがあるとみられる。

 一方のmenuやWoltは、クーポンや還元キャンペーンによる一時的な顧客獲得はできても、配達員の確保コストやマッチングの効率でグローバル大手に太刀打ちできず、赤字が常態化していた。出前館も同様に、2022年8月期には364億円という巨額の営業損失を計上し、2025年8月期も約49億円の営業損失を計上している(売上高はピークだった2023年8月期の514億円から2025年8月期には397億円まで減少)。ユーザー獲得のための広告宣伝費やクーポン、配送網整備費がかさむ一方で、値上げには消費者の抵抗感が強く、収益構造の改善が進みにくいという「構造的な逆風」が、ウーバーイーツ以外の各社に等しくのしかかっている。

「フードデリバリーのような多面市場では、いったんネットワーク効果で先行者が規模の差をつけると、追随する側は同じ土俵での消耗戦を強いられる。クーポン競争は短期的な会員数増加にはつながっても、配達員という有限のリソースを奪い合う構図になりやすく、収益性の改善にはつながりにくい」(同)

「ウーバーイーツ一強」と新勢力の時代へ

 Woltとmenuが相次いで撤退したことで、日本のフードデリバリー市場は事実上、ウーバーイーツと出前館の二強、なかでもウーバーイーツが優位に立つ構図が鮮明になった。報道によれば両社で市場の9割前後を占める寡占状態にあるとされる。

 その足元では、2025年1月に日本に上陸した新興サービス「ロケットナウ」が急速に存在感を高めている。市場調査会社Sensor Towerの分析では、上陸から10カ月間のダウンロード数は220万件超と、同期間のウーバーイーツ(200万件超)を上回りトップに立った。ただしその内実は、有料の検索・ディスプレイ広告経由の獲得が過半を占めるなど広告投資に強く依存した成長であり、既存2サービスの6〜7割がオーガニック獲得である点とは対照的だ。また55歳以上の利用者比率がウーバーイーツの2倍に達するなど、これまでデリバリーの主要顧客層ではなかった中高年層の開拓に成功している点は注目に値する。