KDDI「menu」撤退とWolt日本撤退が突きつけた現実…8240億円市場を制するウーバーイーツ

 国内ネイティブ勢として唯一残る出前館は、2026年8月期には経費削減により最終赤字を40億円まで縮小させる計画を示すなど、収益改善に軸足を移しつつある。東京都内での実質的な配送料無料施策なども展開し、シェア防衛を図る一方、フード以外の日用品・生鮮食品配送(クイックコマース)領域での差別化も模索されている。ただし、ウーバーイーツが黒字化を達成したとみられるなかで、同じ土俵での価格・クーポン競争を続けることの持続可能性には疑問符もつく。

「撤退」と「ポートフォリオ戦略」の教訓

 今回のKDDIの対応で注目すべきは、赤字をだらだらと垂れ流すのではなく、完全子会社化のうえで速やかに解散・清算を選んだという意思決定のスピードだ。少数株主の意向調整コストを排除し、事業を一気に清算するスキームは、大企業が不採算事業から撤退する際の一つのモデルケースとして参考になる。損失の最小化という観点では、合理的な判断だったと評価できるだろう。

 この一連の出来事から、事業ポートフォリオを検討するビジネスパーソンが得られる教訓は大きく二つある。第一に、自社の既存アセット(通信基盤、ポイント経済圏、顧客データなど)が、参入しようとする市場の「核心的な価値」に直結するかどうかを冷静に見極める必要がある。決済やポイントは付加価値にはなり得ても、フードデリバリーのような労働集約型のオペレーション事業においては、それだけで競争優位の源泉にはならない。第二に、グローバル資本のスケールメリットが支配する多面市場のプラットフォームビジネスにおいては、自社アセットとの掛け合わせだけで対抗するには限界があり、独自の顧客体験や隣接領域とのシナジーなど、模倣困難な差別化要因を別途構築できるかが問われる。

「非中核事業からの撤退判断は、経営体力があるうちに実行できるかどうかが分かれ目になる。KDDIのケースは、赤字の連続計上を避け、株式取得と清算を一体で進めることで意思決定コストを圧縮した点で、他業種の事業ポートフォリオ見直しにも応用できる示唆がある」(同)

 KDDIの「menu」撤退とWoltの日本撤退は、通信キャリアという巨大な資本と顧客基盤をもってしても、グローバル水準のネットワーク効果には容易に対抗できないという、プラットフォームビジネスの厳しい現実を改めて示した。今後1〜2年は、ウーバーイーツと出前館の二強体制のもとで、ロケットナウのような新興勢力がどこまで自立的な成長軌道を描けるかが焦点となる。読者企業が新規事業のポートフォリオを検討する際は、自社の強みが参入市場の「核心的価値」に本当に直結するのか、今回の事例を教訓に、今一度冷静な検証を行う価値があるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)