実際、TDBの分析でも設立「10年未満」の事業者が全体の6割超を占め、パーソナルジム業態だけで6件の倒産が発生するなど、体力の乏しい新興プレーヤーへのしわ寄せが顕著になっている。
フィットネス業界の収益を長らく支えてきたのは、契約はしているが実際にはあまり通わない、いわゆる「幽霊会員」の存在だった。しかし物価上昇が家計を圧迫するなかで、このモデルは以前ほど成立しにくくなっている。
家計防衛意識の高まりとサブスク見直し:物価高が続くなかで消費者の固定費削減意識は着実に高まっており、「月額数千円だから」と契約したまま放置されていたジム会員権が、家計の見直しの対象として解約されるケースが増えているとみられる。低価格帯のジムほど、入会金無料や特別割引といった販促キャンペーンで会員を獲得する一方、正規料金への移行後に離脱率が高まりやすい構造的な弱点を抱えている点は、TSR・TDB双方のレポートが指摘するところだ。
「タイパ」志向の定着:着替え・移動・トレーニングを含めた総所要時間へのハードルは年々意識されるようになっており、自宅で完結するスマート機器やトレーニングアプリ、オンラインレッスン、屋外ランニングなど、店舗に通わない代替手段への分散も進んでいる。
格安ジムの”体験価値”の陳腐化:「マシンが置いてあるだけ」の省人型店舗では、利用マナーの乱れや器具の順番待ちが発生しやすく、指導者やコミュニティが存在しないぶん顧客満足度が上がりにくい。この結果、解約率(チャーンレート)が高止まりしやすい構造も指摘されている。
市場全体としては「chocoZAP」に代表される超低価格・コンビニ感覚のジムが新規利用者層を開拓し、フィットネス市場そのものを拡大させてきた側面もある。市場規模は拡大していても、その恩恵が均等に行き渡っているわけではなく、体力に乏しい中小・新興事業者ほど価格競争の巻き添えを受けやすい、という「拡大の陰での淘汰」がいまの業界の実像に近い。
「短期集中型のパーソナルジムは、2〜3カ月でダイエットという目的を達成すると、そこで契約が終わってしまいやすい業態です。参入障壁が低いぶん競合も増えやすく、次の会員を継続的に獲得し続けられるかどうかが生死を分けます」(同)
店舗閉鎖の裏側では、それに付随する周辺ビジネスにも一定の需要が生まれていると考えられる。ここは統計で裏付けられた確定情報というより、不動産・中古設備市場の一般的な商慣行や業界関係者の見立てに基づく考察であることを断ったうえで紹介したい。
居抜き物件の流動化:防音設備や強化床、シャワー配管などフィットネス店舗特有の内装・設備は解体・原状回復に相応のコストがかかるため、貸主・借主双方にとって、設備を活かしたまま次のテナントに引き継ぐ「居抜き」での契約は合理的な選択肢になりやすい。同種の運動施設(コインランドリー、インドアゴルフ練習場、ヨガ・ピラティススタジオなど)への転用が想定されるほか、居抜き専門の仲介プラットフォームを通じた物件流通も一般化しつつある。
中古トレーニングマシンの再流通:フィットネス機器の中古買取・販売を専門に扱う業者はすでに複数存在しており、閉店・移転にともなうマシンの引き取りや、地方の個人経営ジムへの再販、法人向けの業務用中古市場が形成されている。海外への輸出については確たる統計は見当たらないものの、日本国内で相対的に状態の良い中古機器が流通しやすいことを踏まえれば、一定の需要が存在すると考えるのは自然だろう。