小売の現場でよくある誤解を例に、国立氏はその重要性を説明する。ある商品の売上が急に伸びたとき、データだけを見れば「トレンドが来た」と判断しがちだが、実際にはクーポンやキャンペーンが要因であることも多い。その背景を理解せずにAIの出力を鵜呑みにすれば、判断を誤る。だからこそ、業界のトレンドを理解した人間がデータを見にいく必要がある、というのが国立氏の考えだ。
これだけの購買データとAIの掛け合わせが可能になれば、海外の巨大プラットフォーマーが連携を持ちかけてくることも想像に難くない。実際、複数の動画プラットフォームとは、広告視聴と購買の関連を測定する取り組みですでに連携しているという。だが、その先の一線について、国立氏の答えは明確だった。
「このデータは、小売さんの宝であり、我々はそれをお預かりしている立場です。基本的に、我々の中から外部に生データを出すということは一切ありません。相手がどんな海外のパートナーであっても、向こうのデータを我々のところに入れていただくという形でしか、協業は成立しないんです」
データを預かる側としての意識を、国立氏はこう言い換える。
「本当に大事なお子さんを預かっているのと同じ意識で、データを扱っています。例えば、複数のドラッグストアのデータをお預かりしていますが、それは我々のデータではなく、あくまで各々のドラッグストアのデータです。その活用から生まれた収益をレベニューシェアとして小売さんにお返しするために、我々はこのデータを使う――というルールでやっています」
小売事業者から預かったデータを、外部に出さずに社内で分析し、その果実を提携先に還元する。伊藤忠・ファミリーマート・NTTドコモ・サイバーエージェントという、異なる強みを持つ4社が出資するアライアンス構造も同社の特徴だ。異なる文化を持つ4社が組むことによる化学反応について、国立氏は次のように語る。
「小売の巨大なオペレーションを動かしてきた人、事業開発とコーディネーションでビジネスを作ってきた人、通信インフラをマネジメントしてきた人、新しいデジタルビジネスをやってきた人――それぞれ全く違う経験を持つ人間が組み合わさることで、ベンチャーと大企業のいいとこ取りのようなことができています」
合弁会社ゆえに意思決定が遅くなりそうにも思えるが、実際はその逆だという。
「株主のみなさんとデータ・ワンで事業拡大の方向性は一致しているので、データ・ワンのと株主との判断の間で差異がでることがほとんどなく、また、細かい部分の判断は権限をゆだねていただいていることもあり、スピード感のある意思決定の中で事業推進できています」
今のデータ・ワンの事業の軸は、あくまで広告だ。だが、資料にはフードロス削減や物流の2024年問題対応といった、広告の枠を超えた活用例も並んでいた。今後、非広告領域への展開をどう考えているのか尋ねると、国立氏は将来的な構想を語り始めた。
「今は、生活者の行動や消費トレンドがどう変わっているか、何を求めている人が今の購買者にいるのかを知って、それを広告のコミュニケーションに展開しています。でも、その生活者像がわかれば、今出ている商品ではなく、本当はこういう商品が求められている、という商品開発にもつなげられる。さらに、その商品をこの時間帯にこの場所で買いたいという人がいるなら、そこに物を届けるようにサプライチェーンを組むべきなんです」
同社では日々2,300万件の購買データから、どの時間帯にどの地域でどんな商品が消費されているかのインサイトを活用していくことで、将来的に物流の最適化等にまで寄与できると考えている。