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第54話 街デート 1/3

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 アレク様にデートのお誘いを受けた日から更に日が経ち、式まであと少しとなった今日、私とアレク様は街へデートに行く。

 ちなみにアレク様は、昨日と今日の二日間お休みを取っておられて、昨日は式当日に着る衣装の最終チェックをされていた。「いつもの騎士服に少し装飾が付いたようなもので、あまり変わらないよ。私としては見てもらっても全然構わない」とは言われたのだが、アレク様も私のウェディングドレス姿は見ていないし、なんとなく当日のお楽しみにしたくて、結局私も見ないことにした。

 そしてその後は、次の日、つまりは今日の事について話をして。
 領地にいた頃は街にもよく出ていたが、王都に来てからは街に出たことがないという事。それ故に、お店なども殆ど知らない事。できれば気軽に色々見て歩きたい事などを伝えると、それならば貴族だとバレないようにしたほうがいいかもしれないという話になった。

 馬車を使うのも街の近くにある広場までで、そこから先は徒歩にして、アレク様は黒髪がバレないよう変装までされるとおっしゃっていた。

「仕事上、街にはよく出るから。行ってみたいところがあれば案内できると思うよ」

 そうアレク様に言われた後は、サラやソフィたちにオススメのお店などを教えてもらったり、着ていく服を選んだりと忙しくも楽しい時間を過ごしたのだった。


 そして、デート当日となった今日の朝。

 昨日のうちに選んでいた服に着替えて軽くお化粧もしてもらい、鏡を見る。するとそこには、髪をサイドで纏め、シンプルな濃紺のワンピースを着る『ちょっとおめかしを頑張った町娘』風の私が映っていた。

 初めてのアレク様とのデートだ。
 シンプルなワンピースとはいえど、カラーは濃紺。レースがあしらわれた白い襟と、胸元にシルバーカラーのボタンが三つ付いた、バックサイドをリボンで締めるタイプのそれは、ハッキリ言って、アレク様に喜んでいただきたい一心で選んだものである。

「ふふふ! 完璧だわ! ね? サラ?」

 楽しい気分のまま鏡の前でクルリと回り、側にいたサラに笑いかければ、サラが愕然とした表情をした。

「……サラ?」

「……くぅぅ! やっぱり無理よ……っ! どんなにシンプルな服を選んでも、マリアンヌ様の可愛さが溢れ出てしまう!! っていうか、うちの奥様可愛すぎでしょ!! ……あああ、どうしよう、心配になってきた。旦那様だけで大丈夫かしら? やっぱり私もこっそり付いていくべき??!」

「え?」

「マリアンヌ様!!」

「は、はい!」

「今日は絶対に旦那様の側から離れてはいけませんよ?! 知らない人から誘われてもついて行かれませんように!!」

「へ? やだっ、サラったら。私もう子どもじゃないのよ? それにこんな地味な女、きっと誰からも見向きもされないわ」

 私がそう言ってヘラリと笑えば、「これだから無自覚は!」と何故か怒られ、「もう! とりあえず、旦那様がきっとソワソワしてお待ちでしょうから、行きましょう!」と促されて、頭にハテナを飛ばしながらも私は部屋から出たのだった。



 *



 玄関ホールに続く階段へとたどり着けば、階下にアレク様と、ジル、ソフィ、他にも何人かのメイドがいるのが見えた。

 今日のアレク様は、いつものお休みの日に着ているような、ベージュのズボンに焦げ茶色のブーツ、白いシャツに黒に近い濃紺のベストを羽織っただけのラフな格好をされていた。唯一、いつもとは違い、変装のためにヘーゼルカラーのウィッグを着けておられて、それがまた新鮮でワクワクとした気持ちを更に高めた。

「アレク様!」

 堪らず、階段の上から呼びかける。

「マリー!」

 すると、アレク様もまた笑顔で答えてくれて、階段の下のところまで来て両手を広げてくれたので、急いで階段を降り、嬉しさのまま私はその胸へと飛び込んだ。

 そして、きゅうぅと抱きついた後に顔を上げたのだが、そこには片手で口元を覆い「これは……」と呟くアレク様がいて。

「……アレク様……?」

「……マリー、あまり可愛くなりすぎると屋敷から出せなくなるって言った筈だよね?」

 そのアレク様の反応に不安になり声をかけると、つい先程からとは一転、ちょっと怒ったような表情になってそう返された。

「え? でも、そんなにお化粧もしておりませんし、服だって街の女の子が着ていそうなものを選びましたが。……変でしょうか?」

(……せっかく楽しみに準備をして、服だって、シンプルな物からアレク様に喜んでいただけそうな物を選んだつもりだったけれど……)

 気に入ってもらえなかっただろうかと思いながら、若干涙目で見上げれば、アレク様が目元を赤くして「グ、ゥ……ッ!」とうなった。

「……サラ、これが限界か?」

「はい。服やお化粧をシンプルな物にしたぐらいでは……。申し訳ありません、これ以上は私にはどうすることも……」

「いや、いいんだ。……私が目を離さないよう頑張るしかあるまい」

「……よろしくお願い致します」

 そう言って頭を下げたサラの肩を、周りにいたみんなが慰めるように叩いていた。

「あの、アレク様……? えっと、申し訳ありません。私、アレク様と二人で出掛けられるのだと思ったら、すごく楽しみにしてしまって。……はしゃぎすぎてしまったようですわね……」

 一人で舞い上がっていたのだと思うと、恥ずかしくも悲しくもなってくる。

「ああ! マリー、すまない! 楽しそうに笑う君が可愛すぎて、ちょっと心配になってしまっただけだよ! 君は何も悪くない!」

 アレク様は慌てたようにそう言うと、私を慰めるように頬にキスをしてくれて。

「せっかく楽しみにしてくれていたのだから、私も頑張って案内しなくてはね。……じゃあさっそく、行こうか」

 と、普通の恋人のように手を握ってくれた。



 *



「まぁ……!」

 今は初夏。
 他の季節に来たことがないので分からないが、社交シーズンが始まっていることもあるのだろう、街の大通りはとても賑わっていていた。

「アレク様! すごい人ですわ! やはり王都は違いますわね! あのお店はなんでしょうか? あちらのお店は??」

「こら、マリー、私の側から離れるんじゃないぞ。あと、知らない人にもついて行ってはいけないからな。……それに、話し方」

「!! そうでし……そうだったわ、アレク! ……それにしても貴方までサラと同じ事を言うのね。私、この手を離して駆けていったりする程子どもじゃないわよ?」

 ちょっと拗ねながら指を絡めて握られた手を上げて見せれば、「頼んだぞ」と笑って、アレク様が私の手の甲にキスをした。

 ……そう。せっかく今日はアレク様とバレないようにと変装までしたのだからと、街に来るまでの馬車の中、名前の呼び方と話し方も変えようという話になったのだ。
 正直戸惑う部分も多かったが、それ以上にワクワクする気持ちが強く、最終的にはゲーム感覚でとことん楽しんでみようと思い至った。

「ところで、今日はどこか行きたいところがあるのか?」

「ふふふっ、えっとね、サラたちから大通りの近くにオススメのカフェがあると教えてもらったの。だからそこに行きたいのと、あとはマルシェを見に行きたいわ。あとは、そうね、……今日の記念に何かお揃いの物が欲しいのだけど、いいかしら?」

「もちろん。じゃあ、昼までまだ時間があるし、マルシェはここから少し離れてるから、最初にペアで持てそうな物を探そうか。それからカフェで休憩して、午後にマルシェへ行こう」

「ええ!」

 そう言って私たちは、人で賑わう大通りへと歩き出した。
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