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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
4、嬉しくない再会
しおりを挟む大きな街というのは往々にして狙われやすいものだ。それゆえスベガスラという街は大きな壁に囲まれ、出入口は立派で堅固な門がそびえ立つ。そこを通れる時間は日の出から日の入りまで。夜の闇に包まれる時間帯は魔物から街を守るために閉ざされている。
とはいえ、翼を持つ魔物が襲い来れば意味ないが。その為の警備兵は常に配置されている。
門が開くとき、それすなわち街が起き出す時間だ。
商人や旅人、冒険者たちが行き来する。
日が昇り、眼前にそびえ立つ大きな門は、一体どういう仕掛けなのか分からないが、ゆっくりとゴゴゴと重々しい音を立てて開いた。
スベガスラの近隣の村に住んでる俺達は、その開門を外から眺める。村には守りの壁はないが、小さな村なんて魔物も用はないのか出没頻度は低い。少なくとも今の家に住むようになってからこれまで、魔物が村に来たことはなかった。
逆に、街の壁の存在を忘れたように、スベガスラを襲う魔物の話は何度か聞いた事がある。
そのせいか、壁は薄汚れ、ところどころ崩れている。といっても、そこから街に侵入できるほどの傷みはない。
門が開けば一斉に人々が行きかう。スベガスラに入る者、出てくる者。
出てくる者の中に、俺はそいつらを見つけて目を細めた。
ニヤニヤ笑いながら、そいつは俺らに近付いてくる。
「よお。逃げなかったことだけは褒めてやる」
「そんなものはいらん」
朝日を下品に反射させる眩しい鎧をまとったホッポを、睨むように見て吐き捨てるように返事する。
「お前さんはともかくとして、ライドが逃げなかったのは意外だったなあ」
「……仲間を置いて俺だけ逃げるわけないだろ」
ホッポの視線からそらすように俯き言うライドの姿は、いつものおちゃらける様とは大違いで、その別人ぶりに俺は更に目を細めた。
「は! 仲間ねえ。俺を見捨てて逃げたくせによ」
「……」
思い込んでる奴への反論は無意味だと昨夜言っておいたからか、ライドは黙り込んだ。
空気が重くなったそのとき。
「はあい、ライド。久しぶりだねえ」
「……久しぶり、エヴィア」
明るい声が空気を打ち破った。
ホッポの背後からヒョコっと顔を出したのは、白ローブをまとった白魔導士。
エヴィアと呼ばれた彼女が、かつてのライドの仲間の一人なのだろう。親し気にライドの名を呼び、手を振る。それに苦笑を浮かべて返すライド。
「老けたわね」
「お前もな」
「ふざけたことを口走るのはこの口かあ!?」
老けたと言われて思わず返したライドの口は、あっという間にエヴィアという女に左右に引っ張られてしまう。外見は白魔道士にありがちな白銀の髪に水色の瞳、色白で美人だというのにかなりクセがあるようだ。
「ひゅひひゃへん、えひあはふぁふぁひへふ(すみません、エヴィアは若いです)」
「分かればいいのよ」
ホッポと違って、ドラゴンの塔に行かなかったエヴィアはそれほどライドを邪険にするつもりはないのだな。むしろまったく無関係だったザジズ──背後で黙って佇んでいる奴のほうが、ライドを嫌ってないか?
自分の前任者へのライバル意識ってやつかな。
「いてて……お前らも三人パーティーか」
口を押さえてそうライドが言えば、「三人じゃねえよ」とホッポによる返しがある。
「え?」
ライドが首を傾げたその時だった。
「あら。久しぶりね、ザクス」
買い出しでもしてたのか、小袋を手に駆け寄ってくる人物。
それが近づき俺達の前に立った瞬間。
かけられた声に聞き覚えがあり目を見張る。見覚えのあるその姿に俺は言葉を失った。
「なんで……」
フードからブーツまで、全身黒一色にまとめられた服。ヒラヒラと風になびくローブは黒魔導士のそれ。
かぶられたフードの隙間から見えるのは、黒髪。そして俺を見上げるその瞳は、ラベンダーの紫。
「セハ?」
かつて仲間だった、黒魔導士。最強勇者と呼ばれ、魔王討伐に向かってるはずの勇者一行。
そのパーティーメンバーのはずのセハが、今目の前に立っているのである。
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