弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

5、馬車での会話はお胸と共に

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 社会における非常に気まずい状況。

・苦手な上司と二人きり
・大して親しくない知人と二人きり
仲違なかたがいして絶縁したやつと二人きり

 挙げたらきりがないが、今の俺はこれの最後の状況にある。
 ガラガラと馬車が走る。なぜか俺が手綱を握って。

『勝負場所の地図はこれ。馬車は俺様が用意してやったから、御者はそっちがやれ』

 とホッポに言われた。ライドもルルティエラも御者の経験はない。俺は兄貴達と共にいたときに、雑用やらされまくったからな。当然馬車を使った旅もあり、当然のように俺が御者をしていた。ので、俺しか選択肢がなかったわけである。
 まあ御者をすること自体はいい。だがなぜ俺の隣にライドかルルティエラではなく、こいつが座ってるんだ?

「えーっと、次の分かれ道を右行って、しばらく街道を進む。しばらくしたら左手に大きな森が見えてくるから……」
「右だな、了解」
「この状況、懐かしいわねえ。ザクス、あんた未だに方向音痴なの?」
「……今はそれほどでも。セハに地図見てもらわなくても、自分でできるよ」
「ふうん? ほんとかしら、あんたの方向音痴、相当なもんだったけど。右って言ってるのに左に行ってたもんね」
「んなの忘れた」

 俺の隣に座って道案内役をやってるやつ。それはかつての仲間で、俺を追い出したやつ。黒魔導士のセハ。
 たしかに昔はこうやって案内役をやってもらったが、今またやってもらう意味がわからない。

「あのさ、セハ」
「なによ」
「俺は大丈夫だから中に入ってくれていいんだぞ?」
「嫌よ。私酔う体質だから、外に出てたいの」
「……そういやそうだったな」

 かつて、俺が初めて御者をやった時に、セハが当然のように横に座ったから同じような問答をしたっけな。
 結果として、超がつく方向音痴の俺は助かったわけだけど。道間違えるなんてしようものなら、確実に兄貴の雷が落ちてたもんなあ。
 だがその方向音痴も直った今、この状況は気まずい。ひじょーに気まずい。

「はあ……なんでこんなことに」
「なによ。あんた私と二人きりが嫌なわけ!?」

 その問いに俺はどう返せばいいのだろうか。
 正直にイヤだと言うべきか? てゆうか、普通はイヤにきまっとろーが。誰が悲しくて、自分に暴言吐いてパーティー追い出したやつと二人きりになりたいと思うよ。

「……ものすっごい顔に出てるわね」
「正直者ですので」
「……ふんっ」

 俺の表情で言いたいことは伝わったのだろう。セハの顔が渋くなる。

「てかさあ、セハ。なんでこんなとこにいるんだよ?」

 気まずい状況で沈黙なんて苦行でしかない。話題は……と考えるより早く、俺の口は動いていた。
 まあ当然の質問であるし、セハだってこの質問がくると想定してるだろう。

「兄貴達と魔王城目指してるんじゃなかったのか?」

 俺は努めて逆方向に旅をしていた。今現在も魔王城なんてはるか遠くの彼方である。
 一年前に別れた場所のほうが、よっぽど魔王城に近かった。

「最強の勇者一行が、ついに魔王討伐の旅に出たって、結構話題になってたのに」
「んなもんとっくに抜けたわよ」

 そうでなければセハがここに居て別のパーティーに入ってるわけがないのだが、サラッと言われてギョッとした。

「なんで?」
「それ、あんたが聞く? そんなディルドそっくりの姿してさ。明らかにかつてのディルドより強そうな雰囲気してるくせに」

 一年ぶりに会った俺が金髪碧眼、顔つきもガラッと変わっている。それを変だと思わないやつはいないだろう。
 俺の容姿の話になった途端、セハの纏う空気がガラッと変わった。睨むように俺を見つめる目は、真実を見抜こうとする光を宿している。

「ミユは早くに気付いてたみたいだけど、あんた一体なんなの? ディルドの落ちっぷりとなんか関係があるの?」

 その言葉に引っかかりを覚えて、俺は首をかしげた。

「兄貴の落ちっぷりとは?」
「知らないの? あいつ容姿だけじゃなく、勇者としての能力もすっかり地に落ちたんだから」
「容姿はどうなった?」
「かつてのあんたみたいな姿……茶髪茶眼になったかと思えば、顔つきもガラッと地味に変わってさ。それと同時期にどんどん弱くなっていって。私がパーティー抜けた頃には、ただの素人みたくなってたわよ」
「ふうん?」

 俺に能力を返し終えた兄貴が、本来の姿に戻ったってとこか。

「あんなのと魔王討伐なんて冗談じゃない、命捨てるようなもんよ」
「だからさっさとパーティーを抜けたと?」
「そ。ま、最強勇者パーティーの元メンバーってことで、引く手あまただったんだけどさ。勇者職のいるこのパーティーを選んだってわけ」
「お前一人で抜けたのか? ミユとモンジーは?」
「さあ。私が最初に抜けたから、知らない」
「薄情だなあ」
「どうとでも。私は自分が一番大事」
「正直だな」
「ありがと」

 別に褒めてないのだが。
 だがまあセハの選択肢は間違いではない。兄貴の噂は一切聞かないのだ、状況がどうであれ芳しくないのは予想できる。そんなパーティーは泥舟と一緒、沈むのを待つセハではなかろう。

「にしても、本当にイケメンになったわね。ディルドの最盛期よりはるかに……背も大きくなったし。今なら付き合ってあげてもいいわよ?」
「俺らそんな関係じゃないだろ」
「これからそうなればいいじゃない」

 不意にセハがそう言って、俺の腕に自身のそれをからめてきた。ギョッとする俺に構わず、頬を染めて上目遣いで見上げてくる。
 ……まあたしかに可愛くはなった。胸も大きくなった。色っぽさも出てきたのではないかと思う。
 だがなあ……まったく、悲しいくらいに俺の食指は動かないのだよ。

「一緒にパーティー組んだ頃、魔物にビビッておもらししたお前の服を俺が洗ったんだよなあ」
「な!? なに急に言い出すのよ! そんな大昔の話、忘れなさいよ!」
「忘れいでか。そういやお前寝相悪くて、暴れてはしょっちゅう服はだけさせてたよな。色気の欠片もなく。モンジーなんて胸はだけたお前に頭蹴っ飛ばされてたし……」
「ぎゃああ! わ、忘れろー!」
「飯食いに行けば、モンジーと肉の奪い合いしてたし。ミユの胸がどんどん大きくなるの見て、溜め息ついてたし……」

 反応が面白いので、あれこれ思い出して語る。直後、俺の頬にセハの拳がめり込んだ。黒魔導士で力ないとはいえ、至近距離からのそれはなかなか……痛い。

「忘れろ」

 拳で頬をグリグリしてくるセハは、涙目になりながら背後にどす黒いオーラをまとっている。からかいすぎたか。

「はいはい、ごめんよ」
「ふん。たしかにそんな過去もあったかもしれないけど……見よ、この豊満なお胸を!」

 そんなに嬉しいもんかねえ。一年前に比べれば成長した胸を前に突き出し、誇らしげな顔で俺を見てきた。
 ……いや、俺にどう言えと。
 困って苦笑してたら、不意に視線を感じて振り返った。

「……お前なにやってんだ」
「いやあ、別に? 楽しそうだなと思って」

 馬車の幌の隙間から覗く目はライドのもの。ニヤニヤ笑いが鼻につく。

「ルルティエラには黙ってろよ」

 彼女は潔癖な僧侶なのだから。

「それは無理かな」

 そう言って、ライドが後ろを振り返る。
 そこには、ギリギリと馬車の床に爪を立て、髪が逆立たんばかりにこれまたドス黒いオーラをまとったルルティエラが、俺を睨んでいた。

 こわっ!
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