弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

9、美しき姉妹

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 能力を分けたライドが凄いスピードで走り去って行く。その後を俺とルルティエラはそれなりに頑張って走る。ライドに能力分けたから、現在の俺の足の速さは成人男性平均より少し早い程度だ。
 元から足の速いライドは、かなりの高速だろうな。壁にぶつからずにちゃんと止まれるかな、あいつ。
 心配をよそにライドは突き当りを曲がって見えなくなった。
 しばらくして、「うお!?」なんて叫びが聞こえたので、俺とルルティエラは急いだ。
 ようやく角を曲がったその先に……漂う悪臭に思わず顔をしかめる。慌てて鼻を押さえるも、こりゃしばらく鼻にこびりつきそう。
 悪臭の中に佇む人物。言わずもがなのライドである。
 そしてその足元には、異形の魔物が横たわっていた。ひと目で事切れてるのがわかる。

「やったのか?」

 袖で口元を覆いながら聞けば、

「ああ。なんとか」

 と頷くライド。お前にしちゃやるじゃないか。

「悲鳴の原因はこれとして、悲鳴の元は?」

 そう周囲を見回したら、タタタと走る音が聞こえた。
 そして

「ありがとうございます、助かりましたあ!」

 と、ライドの首にかじりつくように抱きつく存在が現れたのである。
 なにごとかと見れば、桃色の髪と橙色の瞳をもつ女性。まるで踊り子のような露出度の高い服に身を包み、目のやり場に困る。
 なんだなんだと目を白黒させてたら、ムギュッとルルティエラに頬をつねられた。俺が悪いのか!?
 女性はライドの胸元から顔を上げ、赤らめた頬で見上げる。そして「ありがとうございます。お強いんですね」と言ってその胸にまた顔をうずめた。はい撃沈。ライド君、撃沈です。

「あはははは! 俺にかかればこの程度の魔物、ちょちょいのちょいですよー!」

 なに言ってんだお前は。

「俺の足の速さについて来れず翻弄してやりましたよ!」

 とかドヤ顔すんな。俺の足の早さだっちゅーねん。ちなみに既に能力は回収している。
 だがそんなことを知らぬライドと女性は、お互いに頬を赤らめて見つめ合っていた。もう放置でいいかなこの二人。

「無事でなにより。それじゃルルティエラ、俺らは先に進むか」
「そうですわね」

 茶番に付き合うつもりはないとその場を去ろうとしたが、ムンズとライドに服を掴まれた。

「なんだよ、離せよ」
「いやだよ、居ろよ」

 口調を似せるな。
 顔をしかめていると、女性が不思議そうに俺を見つめていた。とりあえずめんどくさそうな事は回避したいので、ペコリと無言で頭を下げといた。
 で、去ろうとしたら今度は首根っこを掴まれた。なんなんだよ!

「おいライド……」
「こいつ! ザクスって言って、俺の仲間! そこの彼女は僧侶ルルティエラ! 俺がリーダーしてるパーティーなんだ!」

 だからいつお前がリーダーになったよ、ふざけんなよ。と抗議の目を向けるのだが、鉄の盾のごとくライドの顔は俺の視線を跳ね返す。ああもうめんどくせえなあ。

「あの、助けてくださりありがとうございました。私、シュレイラと申します」
「ああ、うん。ども」

 自己紹介されてしまったのだが、この場合どうすべきなのだろう。
 健全な男子らしく、彼女の容姿をマジマジ見つめるべきなのだろうか。いやホント、露出度高いなこの服。でもって可愛いなこの子。

「うえっほん!」

 ルルティエラがわざとらしく咳払いしたので、一気に首をあさってに向けた。今ちょっとグキッて言わなかった?
 しかしそこで俺は気付いた。

「ん? 誰?」

 そらした視線の先に、一人の少女が立っているのに気付いたのだ。
 少しばかり幼い雰囲気の少女は、シュレイラと名乗った女性と同じ桃色の髪と橙色の瞳をしている。
 服は露出度低いけど、顔が似てるから姉妹かな? と思っていたら「妹のリューリーです」と紹介された。やっぱり妹か。

「こんなとこで何やってたんだ、あんたら?」
「塔内を探索してました」

 まあピクニックでこんなとこ来ないだろうな。
 だがこの塔を目的にするには、あまりに軽装ではなかろうか?
 俺は不審に思って、思わず二人をジロジロと見た。居心地悪そうにする二人。

「えほえほ、うえっほん!」

 だからあ! けしてやましい気持ちで見てるわけではなくてえ! なんて言おうものなら、余計に言い訳くさいと思われるんだろうなあ。ああめんどくさい。

「探索って、あんたら冒険者なのか?」

 気を取り直して聞けば、頷く二人。珍しくはあるが、こういうスタイルの冒険者もいるんだろう。

「にしても、武器は?」
「あ、私は短剣を。妹は魔法で後方援助です」
「この程度の魔物も倒せないのに、無謀すぎるだろ」

 そう言って俺はチラリと床に転がる魔物の屍を見た。
 ライドが一人で倒せる程度なのだ、大したやつでないのは確か。この程度を倒せなくて、この塔を挑戦は無茶がすぎる。勇者が挑戦しても厳しいんだぞ。

「早く出て行け。あんたらにこの塔はまだ早すぎる」
「え……」

 冷たい言い方と思われるかもしれないが、ヘタにいけると思われると困るのだ。そのとばっちりは確実に俺達に……俺にくるだろうから。
 だが二人は困った顔をしながらも動かない。

「なんだよ?」
「その……もう一人、いるんです」
「はあ?」
「私達の姉……長姉のメルティアスが帰ってこないのです」

 なんてこった。思わず額を押さえる。
 ただでさえ無謀な挑戦なのに、更に一人は別行動? ダンジョンチャレンジを甘く見過ぎだ。

「もう死んでんじゃないの? ……あだっ!」
「お前なあ! もうちょっと言葉を選べよ!」

 思わずストレートに言ってしまい、ライドに殴られた。

「じゃあ聞くが、その姉とやらと離れてから、どれくらいの時間が経過したんだ?」
「え? ええっと……一時間くらいでしょうか」
「じゃあ駄目だろ。……いっでえ!」

 どう考えても絶望しかないだろそれ、と思って言ったらまた殴られた。今度はルルティエラに。

「なんだよ! 俺は思ったことを言ってるだけだろうが! 下手な希望をもって塔内ウロチョロされても面倒だろうが! それなら早いとこ諦めて塔を出てだなあ……」
「ザクス、最低ですわ」

 蔑むルルティエラの視線に、う、と言葉に詰まる俺。

「ザクスサイテー」

 ライドは黙れ。

「じゃあお前らは、その姉とやらが生きてると思ってんのか?」
「……」
「無言かよ!」

 お前らだって生きてると思ってないじゃないか!
 沈黙ほど語るものはないってな。

「だからな、あんたらはもう塔から出て……」

 運が良ければその姉とやらは生きてるかもしれない。まあ探索ついでに探してやってもいい。とは敢えて言わない。変に期待さえて最悪な結果だったらう立ち直れなくなるだろうから。
 突き放すことで二人を塔から出させようとしたのだが。

「よし、ザクスは駄目だ、ダメダメだから俺があんたらの姉を探してやる!」

 はい、お調子者のライド君が変なこと言い出しましたよー。

「わたくしもお手伝い致しますわ。大丈夫、お姉様は無事ですよ」

 僧侶ルルティエラも希望に満ち溢れてますよー。
 もう知らねえからな、俺。一人で行っちゃうからな。

「好きにしな」

 言い置いてスタスタ歩き出した。
 って、本当に誰も付いて来ないでやんの!

 こうして俺らは初めてクエスト中に別行動をするのであった。
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