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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
10、一人ぼっち? いえ違います
しおりを挟む「ったく、なんで俺が悪者扱いなんだよ」
ブツブツ言ってるのは、けして一人が寂しいからではない。そもそも話し相手はいるからね、肩に。
見知らぬ姉妹と出くわした時点で、ミュセルは俺の懐の中に隠れた。別行動を開始したので、ヒュッと出てきて俺の肩にとまっている。
「ザクスは口下手じゃのう。もう少し言い方ってもんがあるじゃろうに」
「うるせえ。隕石から出てきて一年かそこらのやつに言われたかねえよ」
兄貴達と一緒にいたころ、色々と自分を押し殺してたからだろうか。最近の俺はついつい言いたいように言いすぎる傾向にある。それは反省、俺反省。
だけども言ったことは間違ってないと思うのよ。
「姉妹、ねえ……」
不安そうに怯えた妹、安心させるように妹の背に手を回す姉。
「仲、いいんだろうな」
俺と兄貴もかつては仲が良かった……と思う。もうそんな日々を忘れてしまうほどに遠い昔すぎて、記憶はあやふやだけれど。それは自業自得なのか運が悪かったのか、それとも運命か。
「階段か」
適当に歩いていたら、上の階に続く階段を見つけてしまった。
さてどうするかと思案する。
このまま1階を探索してたら、ライド達と再会して気まずい雰囲気になるのは目に見えている。
だが上に行ったら、ホッポ達と出くわすかもしれない。
どうすべきかと悩んだのは一瞬。次の瞬間には俺は階段に足をかけていた。
「ま、あいつらが1階探すなら、俺は上の階を探した方が効率いいだろ」
「素直じゃないやつめ」
「ねじくれまくってますんで」
ひねくれてることは認めるさ。
面倒なことは嫌い。これは貫く俺のポリシー(?)。だが、だからって見捨てるという選択肢を簡単に選べないのが困りもの。
ミュセルがいるとはいえ、あの二人がいないと静かすぎてあれこれ考えてしまうな。
コツコツと靴音が響くだけで、なにも聞こえない。ふと階段の壁に作られた小さな小窓から外を見た。ガラスもなにもはめられてないそこは、遥か遠くまで広がる荒れた大地を見せる。
まだ2階なので、少し視線を下にやれば乗ってきた馬車が見て取れた。置いてやった水と餌を馬が食べてる様子が見える。
視線を階段に戻して、また上る。一段一段が低く作られてるがゆえ、段数が多い。足を上げる角度は低くて済むが、その代わりに多い段数にウンザリする。
その時だった。
「え!?」
ふと視界の片隅を──窓の外を、何かが通るのが見えた。鳥ではない。そんな小さな物ではない。
慌てて小窓から外を見るも、そこは相変わらず何もない、武骨な荒れ野。
だが──
「どういうことだよ……」
先程見たときは異常は何もなかった。
馬車の馬が、確かについ今しがたまで元気に餌を食べていた。なのに今、そいつらが横たわっているのだ。
──血の海の中で。
確認する必要もなく、その命は尽きている。
「なにが、起きた?」
ギリと小窓の枠を力いっぱい握る。パラパラと崩れた壁が砂となって落ちた。
窓から顔を覗かせ、下を覗き込む。何もない。命の灯火が消えた馬の目が、こちらを見てるだけ。
バッと今度は上を仰ぎ見──
「え!?」
今、なにかが見えた。ちらりと黒い影が塔の上へと飛んでいくのが見えたのである。
「ミュセル、見たか?」
「なにをじゃ?」
一瞬すぎて、ミュセルは見てないらしい。
「見えんかったが、何か嫌な気配は感じるのう」
つまり、”なにか”は確かに存在するのだ。そしておそらくそれが馬を殺した。
ドラゴン? いや違う。
チラリと見えたあれは、あの姿は──
結論が出そうになったその時、またしても塔内に悲鳴が上がった。塔内というより、これは少し上、今向かってる2階のフロアからだ。
「セハ!?」
今度は聞き覚えのある声。聞き間違えるはずのない声。
「セハ、どこだ!?」
かつてセハがした俺への酷い仕打ちも忘れて、俺は走り出した。
一気に階段を上がり、2階に到達する。円形の塔の通路は湾曲して左右に分かれている。1階は直線で四角く作られた通路だったのに、この階は湾曲のせいで通路の先が見えない。
「右じゃ!」
「そうだな」
右か左か迷ったのは一瞬。
俺の出した答えとミュセルの意見が一致したところで俺は走り出した。
「……ちっ」
思うように早く走れない。湾曲状の通路が足の動きを阻む。身軽で、早く走るのになれたライドならもっとうまく走れるだろうに、能力があっても使いこなせない俺には宝の持ち腐れ。
無駄に早いがために逆に走りにくい状況に顔をしかめながら、それでも自分なりに早く走る。
そしてようやく気配がある場所へと到達した。
「セハ、大丈夫か!」
そこに彼女がいるということを確信し、その名を呼ぶ。
「ザクス!?」
すぐに返事があり、目の前に彼女の姿を確認し安堵する。俺を裏切り、今は勝負相手のパーティーだってのにな、なんて内心苦々しく思うのは後だ。今は事態の対応が先決。
「これは……」
セハは無事だったが、その頬にはベットリと赤い血がついている。
怪我をしたのかと目を見開くが、すぐにそれが彼女のものでないことに気付いた。
ショックゆえか床にへたり込むセハ。その横に倒れ込むのは、銀の鎧。自慢のギンギラギンの鎧を血に染めて、ホッポが横たわっていたのだ。
「セハ、怪我は?」
「私はない」
「ホッポは?」
「大怪我してるけど息はしてる。回復薬を飲ませたいんだけど、意識失ってて飲んでくれないの」
口移しなんて絶対イヤ、なんてこの非常事態に言ってる場合かと思うのだが、セハにも譲れないものがあるのだろう。
俺は長剣を抜き放ち、構えて周囲を警戒しながら二人の元へと近付いた。
「おい、ホッポ?」
かがんでその体を揺らすも反応がない。ただ兜が落ちてあらわになった顔は苦悶に顔をしかめる。生きてるということは確認できた。
「回復薬が飲めないんなら、魔法しかないか」
俺だって、男に回復薬を口移しで飲ませるなんてことしたくない。だがそれでも逡巡する。セハの前で回復魔法を使って良いのだろうか、と。
俺はかつて無職でなんの能力もない男だった。今も無職のままだが、それは自分の能力がバレて面倒なことになるのを嫌ったからであって、その本質はとうに勇者の中でも上位レベルに属すると自負している。
当然そんなこと、セハは知らない。容姿だけでなく能力まで変化が生じてるとなると、いよいよ怪しまれるだろう。
ルルティエラがいれば、と思った。だが彼女はまだ1階にいるはずだから頼れない。呼びに行ってる間に何者かの襲撃があっては、きっとセハの命も危なくなるだろう。
「俺のじゃ傷口をふさぐ程度だろうが、ないよりマシだろ」
僧侶の魔法ならば、失われた血液すら回復させることも可能だろう。
だが俺にはそこまでの回復魔法は使えない。
本来勇者とは万能で、あらゆる能力を持ち備えている。それは悪く言えば広く浅い能力なのだ。一つの能力を突き詰めた者の能力には及ばない。もちろん、集中して修行すれば能力は向上するだろうが、回復系を俺は突き詰めることをしていない。
出血が確認できる患部に左手を当てて意識を集中させる。そして呪文を唱えた。
「え? ……マジ?」
予想通りにセハが驚きの声を上げた。
彼女はその光景を知っている、その魔法が行使されるのをかつて何度も見てきた。
兄貴による回復魔法を、彼女もその身に何度も受けている。
「ザクス、あんた……」
疑念が確信に変わる、そんな目でセハが俺を見る。
それに気づかないフリして、俺はホッポの傷を癒すことに集中した。
ややあって、出血が止まり、ホッポの顔から苦し気な色が消えるのだった。
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