弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

文字の大きさ
34 / 48
第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

11、状況は最悪だということ

しおりを挟む
 
 こんなもんだろと呟いて、俺はホッポに触れていた左手を離す。警戒を解くことなく、右手には長剣が握られたまま。

「セハも大じょ……」
「触るな!」

 大丈夫か。そう問いかけ伸ばしかけた左手は、パンと叩き落とされた。セハの拒絶によって。

「セハ?」
「あんたなんなの?」

 ギロリとセハが睨みつける。鋭い視線に俺は言葉を失った。

「その容姿もだけど、その能力、回復魔法! あんたそんなの使えなかったよね、無職のあんたに使えるわけないよね? でも私は知ってる、その魔法を知ってる。それは、その魔法はディルドの……!」
「シッ!」

 俺を拒絶し非難の目を向けるセハに、けれど俺は弁解を口にするより早く静かにしろと指示をする。
 それでもなお何かを言いつのろうとするセハの口を、左手でふさいだ。

「むー!?」
「……ザジズとエヴィアはどこだ?」
「む……」

 ホッポとセハが居るということは、同じパーティーの二人もいなくてはおかしい。だというのに、二人の姿はどこにも見えなかった。セハを制止しつつ、俺は握った剣を周囲に向けた。
 何かを感じる。何かの気配を感じる。それはけして人ではない。
 魔物? どんな?
 知らず汗が頬をつたう。剣を握る手がジットリと汗をかく。
 全身が、何者かの気配に警戒している。

「そうよエヴィア! あの子、私を庇って攫われちゃったのよ!」

 慌てて俺の手を払いのけ、セハの顔が蒼白になる。

「攫われたって、なにに?」
「ドラゴンよ!」

 その言葉と同時。
 咆哮が塔内に響き渡った。1階にいた時に聞いた声だろう。だがあの時は遠かったのに、今聞こえたそれは──その距離は……

「おいザクス、近いぞ」
「言われなくても気付いてるさ」
「え、なにそれ。え、まさか妖精!?」

 俺の肩にとまったままのミュセルが、珍しく緊張した顔をして言う。それに答える俺をよそに、ミュセルの存在に目を見張るセハ。

「セハ」
「な、なに?」

 妖精どころではないと俺の緊張した声音から理解したのだろう。俺への拒絶もひとまず置いておくことにしたのか、俺の服をギュッとつかんで不安そうに見上げてきた。
 周囲へ目をめぐらしながら、俺は聞いた。

「ドラゴンって……ブラックか?」
「……ゴールドよ。黄金みたくキラキラ輝いてるってわけじゃなかったけど、イエロードラゴンとは比較にならない輝きを……なんていうのか、見た目じゃなく魂の輝きがあったわ」
「そうか」

 せめてブラックであったならばと思う。
 ブラックドラゴンは記録こそ少ないが、過去に何体か倒されたことはある。その少ない経験談も語り継がれている。
 だがゴールドドラゴンは倒された記憶などない。圧倒的に数が少ないのだろうか、そもそも存在自体が神話のようにまゆつばだった。見たという話は絵物語でしか存在しない。
 ゴールドドラゴンのことで分かることはただ一つ。もし存在するならば、最強のドラゴンであろうということだけ。
 対処法なんてわからない。
 そもそも人の力で倒せるのかも未知数。
 だがセハは見たと言った。確かにゴールドドラゴンを、彼女は見たと言ったのだ。この状況で彼女が嘘をつくとは思えない。

「そのゴールドドラゴンがホッポを倒して、ザジズとエヴィアを?」
「正確には、罠探索しながら先頭を歩いていたザジズが出くわし、ホッポが応戦。ホッポが倒され、ザジズが狙われそうになったのをエヴィアが魔法で防御。そのエヴィアをドラゴンが狙おうとしたので私が黒魔法で応戦。でもって私が狙われそうになったのを」
「またエヴィアが魔法で防御、か?」

 頷くセハ。

「しばらく拮抗してたんだけど、ザジズがちょっとパニックになってさ。ダガー片手にヤケクソ気味に飛び掛かったのよ」
「阿呆が。素人かってんだ」
「仕方ないから私も魔法で加勢したんだけど、ドラゴンが私に向かってきて、エヴィアが庇うように前に立って──」
「それから?」
「覚えてない。突き飛ばされた拍子に頭ぶつけて、意識飛んじゃったのよ。気付いたら血まみれのホッポだけが残ってて、二人の姿が……」
「なるほどね」

 攫われたのか、それとも既に殺されたか。どちらにしても状況は最悪ということだ。
 ジリジリと感じる焼けるように痛いこの気配は、おそらくはドラゴンの気配。そう遠くには行ってないということだろう。下手すれば、まだ同じ階層にいる。ギュッとセハがまた俺の服をつかみ、肩ではミュセルが俺に身を寄せていた。二人もまた、嫌な気配を感じているのだろう。

「セハ、魔力は?」
「さっき使い切ったけど、回復薬飲んだから戻ってる。ただ、全部飲み切っちゃってもうストックはない」
「そうか。魔力の強さはどうだ?」
「は? それは別にいつも通りに……あれ?」

 俺の問いに何を聞くのかという顔をしたセハは、直後驚いた顔を見せた。

「なんか、能力が上がってるような……ううん、違う。戻った?」
「というと?」
「あんたが抜けたあと、ディルドだけじゃなく私らの能力もなんか弱った感じがしてたのよ。それが戻った気がする」
「そうか」

 それはそうだろう。パーティーを抜けて、セハ達にも分けてた俺の能力は返してもらった。彼女の能力は弱ったのではない、それが本来の彼女の能力なのだ。
 そして今、俺は一年ぶりにセハに自身の能力を分けている。
 俺一人で対応するには状況が悪すぎる。それならば、俺よりうまく黒魔法を使いこなせるセハに能力を分けるほうが、まだ助かる可能性は残る。

──助かる可能性──

 そう考えた自分に苦笑する。
 つまり俺は”助からない可能性”を考えているってことだ。

「まったく。だから面倒なことは嫌いなんだよ」

 そううそぶく。今更言っても仕方ないことだというのに。けれど後悔してない自分にまた苦笑する。
 仕方ないさ、これはあくまで結果だ。俺は自分の意思で選び決めたんだ。誰を責めることもできないし、後悔する必要もない。
 もう後悔するような選択はしないと決めたんだ。
 ギュッと剣を強く握りしめたその時。

「う──」
「ホッポ!?」

 足元でいまだ横たわっていたホッポがうめき声をあげた。慌ててその顔を覗き込むセハ。
 自分を呼ぶ声に反応するかのように、ホッポが目を開く。

「セハ?」
「そうよ。良かった、意識が戻って」
「俺は一体──おい!?」

 傷はふさがっても流した血は戻らない。頭がぼんやりしてるのだろう、血の気の引いた顔で、ホッポが視線を周囲に巡らした直後。
 俺に向けられた目が、大きく見開かれる。血相変えて俺を見るその顔。その目。
 その瞳の中に、それが映るのを確認した俺は──

ギイン!!

 振り向きざま長剣を振るい、それを受け止めた。
 それは寸でのところで──俺の顔面、直撃まであと10cmのところで、止まった。大きな、鋭い爪を、俺は剣で受け止めたのだ。

「グルルルル……」

 低い唸り声。
 大きな爪、大きな手、大きな牙に大きな瞳。大きな体にその背に生えた大きな翼。
 なにより眩しいくらいに輝くその肉体。皮膚が輝いてるのではない。その輝きは体の内側から漏れてるように感じられた。なるほど、”魂の輝き”とはセハもうまいことを言ったものだ。

「よお、ゴールドドラゴン」

 剣でどうにか受け止めたが、その力の強さにカタカタと剣が、手が震える。頬を汗がつたい、背に冷たいものが流れた。
 どうにか精神を保つためにニヤリと笑みを浮かべ、俺は伝説上でしか語られることのなかったゴールドドラゴンと対峙する。
 直後。
 ドラゴンが放つ咆哮に、体が、地面が、塔が揺れた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

処理中です...