王子殿下が恋した人は誰ですか

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7・運命の人

ずっと

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 廊下の壁にもたれて腕を組み、「やれやれ」とあくびをしたのはシュナイゼである。
 いつもなら昼寝をしている時間だというのに、リーリウスから「しばらく人払いしておいておくれ」なんて頼まれてしまったものだから、親衛隊の隊長として出てこないわけにはいかなかった。

 想像以上に色っぽい友の喘ぎ声を漏れ聞くことができるのは、役得だが。聞いてるだけではつまらないし、ようやく終わったかと思ったら、また始まってしまったし。

「なんで傷心の俺が見張りに」

 ひっそりとぼやいて、そんな自分に苦笑する。

(俺だって本当は、ずっと恋していたんですよ)

 もしもそう言ったら、王子はどんな顔をしただろう。
 しかもリーリウスとレダリオ、二人ともに。
 どちらも選べないくらい、惚れていたと言ったら。

(だって惚れるだろう、普通)

 レダリオは文句なく美人で、一途で強がりで不器用なところが、ずっとかまっていたくなるくらい可愛いし。
 リーリウスはまったくもって完璧で、だからこそ、この手で乱してやれたら最高だと思う。ただし「ヤらせろ」なんて言ったものなら、にっこり笑って絞め技を決められるのがオチだが。あの王子は優しげに見えて、実はやたら腕っぷしが強いのだ。
 
 悲しいことに、まったく脈なしということは、早々にわかっていた。

 自分で言うのもなんだが、ものすごいモテ人生を歩んできたと思う。その気になれば男も女も入れ食い状態という。
 なのに本命二人にだけは、どれほどアピールしようと、まったく恋愛対象として見てもらえなかった。
 
 ほかで探そうとは、何千回も思った。
 だが誰といても二人と比べてしまう。
 心身共に好みの、極上の男たちと早々に出会えてしまったために、相手に求めるハードルが爆上がりしてしまったのだろう。もうこの先も、あの二人以上に好みの人物と出会える気がしない。
 二人への想いを拗らせすぎて、複数プレイが癖になってしまったくらいだ。

 自分がそういう目で見ていたからか、レダリオがリーリウスに片想いしていることにも、とっくに気づいていた。リーリウスはレダリオを、友としか見ていなかったけれど。

 だからといって、一途で頑固なレダリオに「俺にしとけ」と迫ったところで聞く耳を持つまいし、下手をすれば友情まで失いかねない。

 しかしこのまま彼らがどこぞの令嬢と結婚するのを、指を咥えて見ているだけというのも性に合わなかった。
 どうにか現状を打破する機会はないものかと焦り出した、ちょうどその頃。
 仮装舞踏会の夜、本当に打破された。
 ただしシュナイゼは脇役で。
 状況を動かしたのは、あの真面目なレダリオだった。

「体調がすぐれないので、今夜の警備を休ませてほしい。殿下には内緒で」

 なんて嘘をついて、こっそり仮装し、舞踏会に出ていたのだ。

 シュナイゼはちょうど外の見回りから大広間に戻ったところで、リーリウスと踊る黒衣の麗人を目にし、それがレダリオだと気づいた。
 彼の仕事部屋に行ったとき、偶然、異形の仮面を見たことがあったからだ。
 そのときレダリオは席を外していたが、いつものようにリーリウスが持ち込んだのだと思い込み、特に気にとめなかった。

(仮装なんてガラじゃないくせに。あんな仮面やドレスまで用意して)

 そこまでするほど、リーリウスが好きなのか。
 そう思ったら、ぎゅっと胸が苦しくなった。

 一途でけなげで、不器用すぎる片恋。
 そこに自分との違いを、思い知らされてしまった。
 結局どこかで諦めて、なりふりかまわず足掻こうとしなかった自分との違いを。

 そんなレダリオに、リーリウスも、一瞬にして恋に落ちたのだと。瞳を輝かせるその表情で、わかってしまった。
 シュナイゼはその瞬間、二人同時に失恋したのだ。
 
「……マジかよ」

 長い片想いが、いっぺんに粉砕されるなんて。なんて効率の良い失恋だろうか。 

 何度も「マジか」と呟きつつその場を離れ、とりあえず花火師たちへ、こっそり合図を送った。

『予定変更。今すぐ打ち上げろ』

 花火師たちは、実に素早く対応してくれた。
 大広間に居合わせた人々の目が、夜空に向けられる。
 さらに視線を引き付けようと、頃合いを見て怒鳴った。

「おい、まだ花火はあげるな!」

 その花火は思惑通り、王子とレダリオを大広間から逃がすことに成功した。自分の恋愛はちっとも思い通りにならないのに。
 
 走り去る二人の背中を見送りながら、「あ~あ」と芝生にしゃがみ込み、ひとり寂しく花火を見上げていたなんて……この先もあの二人は、一生知らずにいるのだろう。

 そんなわけで、今は――

「――んっ、ひあ……っ! リーリウス、リーリウスぅ……っ」
「綺麗だレダリオ。愛しているよ、私の花嫁」
「私も、あ、愛し……あんっ、あー……っ」

 これだ。
 延々と聞かされる身にもなってほしい。
 これはこれで美味しいし、股間もパンパンだが……切ない。

「はあ……俺も誰かと幸せになりたい」

 呟いて、廊下の窓から空を仰いだ。今日も嫌になるほど快晴だ。

(……まあ、これも悪くない)

 誰より愛する二人の幸せを、誰より近くで見守る人生。
 手に入らないからこそ、色褪せぬ想いもあるのだろう。

「ま、どっちも隙あらばヤるけどな!」

 そのくらいは狙っても許されるだろう。
 とりあえずこの見張り番から解放されたら、適当にナンパして、股間の息子を解放してやると心に決めた。もちろん、相手は二人いっぺんだ。
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