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第4章 忍びよる闇の策略と失われし久遠の刻編

6.神の眷族③

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ファンガス老の部屋に入ると、老は静かに座していた。
肩には一羽の鳥。

「リラ?」
「おいでになったかの、殿下」
「ファンガス…アヤが」

鷹揚に頷き、ファンガスは肩にとまったリラに、ヒゲだらけの顔を向ける。

「賢くも優しき魔のものじゃ。陰に属しながら、陽の気に満ちておる……アヤ様を慕うておるのがよぅ分かる」
「ファンガス、どうしたらいい?」

ファンガスはすでに事情を知っている。何故とは聞かない。聞く必要はない。

「人外の力が動いておるようですな。残念ながら、儂では隠された魔導を追う事は叶いませぬて……じゃが…」

ファンガスの皺だらけだが、長年魔導に長けてきた歴ある手に、促されたリラが留まる。

「フォフォ、よい子じゃ。因果かの…光の初代と同じ使い魔か。殿下、連れてお行きなされ。このものが、殿下に必要なものの処へ導きましょうぞ」

差し出された手に同じく手を近づけると、リラが俺の手に移る。
軽い。まるで紙を乗せているかのように重さを感じない。
一度、ピルッと鳴き、リラが俺を導くように飛び立つ。
ファンガスを振り返ると小さく頷かれ、俺もそれに返し、リラを追い部屋を飛び出した。







竜舎の前でリラはゆっくり旋回していた。
騎竜に乗れって事か?帝都外か、もしくは人の足では時がかかる場所か……
迷ってる暇はない。
竜舎に入ると、騎竜達が一斉に鳴き出す。
俺はゆっくりと奥に進み、その場所で留まる。

「オーディリア」

俺が呼びかけると、彼女は小さく瞬き悠然と近づいてきた。
クレイドルの黒竜姫。クレイドル帝都内唯一の黒竜。
近づけてきた顔を両腕で抱きしめるようにし、額をオーディリアの顔につける。

「オーデル…アヤが攫われた。アヤを取り戻したい。手立ての場所まで、俺を乗せてくれ」

グルルと鳴いたのを確認し、舎内からオーディリアを外に出す。戦場以外では、鎧も鞍も着けない。
オーディリアに乗り込むと、待っていたリラが飛び立つ。
竜の中でも、オーデルは小柄な部類。が、その分、飛ぶ速度が速い。そのオーデルをもってしても、リラに追いつくのがやっとだ。
カサンドラがこんなに早く飛べるとは……

「一体、どこに………この先は…………」

この先は、アヤの封印であったレーテが消えた山裾の丘陵。
間違いない。確実に向かっている。

丘陵につくと、リラはまたゆっくりと旋回する。

「リラ…ここに何があるんだ?ここは、レーテが…」

言いかけ、ハッとした。
レーテ。
レーテは女神の眷族。人とは隔絶された人外の者。なら、隠された魔導を追う事は可能かもしれない。
だが、レーテは………

「無理だな。レーテは……」
「殿下!」

どうするか悩んでいると、騎竜に乗ったルースが降り立った。

「ルース!?何でいるんだ?」
「師匠に言われたわ。殿下、方陣描けないでしょ?神にしろ、魔物にしろ、呼び出すのはそれなりに知識ある魔導師じゃなきゃ無理よ」
「ルース。俺は助かるが、レーテは死んだ。呼び出すのは……」
「殿下。神には物理的な死はないわ。いなくなる時に死ぬって言った?」

そういや、レーテはいなくなる時「眠る」と言ってた。眠る=死と直結させたが、どうやら違うようだ。

「呼び出せるか?アヤの封印とされていた、神。正確には女神の眷族だ。力も弱っていたようだし、消えてからだいぶ経つ」
「やってみせるわ…殿下の為だもの。それに……殿下が初めて本気になった子の為だものね」
「悪いな、ルース。頼む………」

俺が静かに告げると、ルースが軽く目を瞠ってから、クスと苦笑する。

「ほんと…殿下は子猫に夢中なのね。妬けちゃうわ」

ルースが指先に魔導を貯めていく。金色の粒子が取り巻き、光の粒が生まれては弾け、空に指を走らせ、複雑な紋様と魔導文字の組み込まれた方陣が描かれていった。

「神を下ろす媒体が必要ね……」

ルースの言葉に、リラが鳴いて肩にとまった。

「あら…カサンドラ。アヤちゃんの使い魔ちゃんね?でも、いいのかしら?媒体はかなり魔導を消費するわ。使い魔ちゃん、あなた……」
「ルース、まさか?!」
「大丈夫よ、殿下。心配しないで。死にはしない。ただ、魔導消費が激しいのは確かだから、おそらく、長く眠りにつくことになるわ」
「リラ…すまんが、頼めるか?」

俺の問いかけに、リラはピュイッと可愛らしく鳴き、羽をパタパタさせ、方陣の正面にフワリと浮き上がる。
方陣が円を描き、線と魔導文字が繋がると、白金色に輝き出す。

「殿下!目を閉じてて!直視すると、瞳孔が灼かれるわよ!!」

ルースの言葉に、俺は固く目を閉じた。直前に見たリラの白にラベンダーがかった羽がキラキラ煌めいて綺麗だと感じると同時に、ルースの方陣魔導解放の言葉が放たれる。

『クロア(解放)』

真っ白い閃光が、閉じた瞼を刺す。波動が一気に膨れて弾け、風と音の本流に包まれた後、静寂に包まれた。




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