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第二十話 カール視点

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「なぜ、私は行けないのですか?」

 書類を見すぎたせいで疲れた目元を抑えながら、ミーナと向き合った。ミーナは舞踏会へ行けない事を聞いたことにより、腹を立てて手を握りしめていた。ドレスは真新しい物を着て、大きなつばの羽の付いた帽子を被っている。大きなつばの帽子は普通公爵夫人以上でないと許されない。連れていくにしても、こんな派手な人間上流階級に貴族を侮辱していると言われても仕方がない。

「貴族じゃないだろ。無理だ」
「貴族じゃないって、カール様、貴方今奥様いらっしゃらないのに、誰が奥さんの代わりをするの?私以外誰がいるの?エスコートする女性がいないだなんて」

 なんて傲慢なんだ。僕にビオラの代わりになる女性がいない?そんなわけないだろ。平民と隣を歩くぐらいなら、男爵令嬢とでも歩く。ミーナはいつからこんなに自己主張をするようになったんだ。もっと前は僕のイエスマンで、我が儘を言わないお淑やかな女性のはずだったのに。
 父上と母上が甘やかすから、こんなことに。でも今日は無理だ。ただでさえ仕事で迷惑をかけているのに、これ以上迷惑をかけるようなことできない。

「今日は絶対無理だ。貴族でもないミーナが門をくぐれるわけがない」
「ですが私、広い宮殿を見てみたいのです。お願いです、私を連れて行ってください」

 濃淡のある大きな瞳で見つめてくる。その容姿はとても美しいと思うけれども、いくらなんでも今日は無茶すぎる。連れて行ったところで、見つかりでもしたら、僕の評判がガタ落ちだ。

「本当に無理だ。人にはできることとできない事が、あるが、できない事がその今日だ」
「一目宮殿を見たいだけです。宮殿を見たら私は馬車の中で待っていますから」

 連れていけない以前に、連れていきたくない。前ならミーナのことを他の男に見せびらかしたいと思ったりしたかもしれない。でも今はミーナが何かしでかすのではないかとすら思う。だから無理だ。

「無理だ。母上、父上、行きましょう」
「良いじゃないかカール。あんなところ舞台女優も、大道芸人もいるんだ。バレやない」
「でも」
「そんじょそこらの女の子より何倍も可愛いんだから、バレやしないわよ」

 キッと鋭い視線で僕のことを睨みつけてきた。きっとつい一昨日のことを怒っているのだ。母上はずっと僕と会うことを拒絶していた上に、会うといつも無視か、睨みつけつける。でもミーナにはずっと甘くて、いそいそとミーナのことを馬車の中へ乗せた。
 父上もその二人を追って馬車の中へ乗り込んでいった。


 王都にある別荘から王宮までの、馬車の中では険悪ムードだった。全く僕は舞踏会、晩餐会へ行く気が失せていて、心配事ばかりが頭の中を駆け巡っていた。それにミーナがついてくることになったことで、三人は喜んでいたけれども、僕は賛成していない。意見が合わなかったことでもそうだ。
 いくらミーナが美人でも、貴族の堅苦しい礼儀を何も知らない平民の女なんだ。宮殿だけ見せて馬車で待たせておくほかあるまい。
 ミーナは大興奮で、とにかく窓に手を付いて外を眺めていた。母上と父上はそれをほほえましそうに見守っていたけれども、この爵位のある僕の馬車に乗っているのだ。そんな子供らしいことしないでほしい。外にいる人からどんな目線を向けられることやら。
 宮殿に着くとミーナの感情は最高潮だった。

「素敵です!こんなところ、私生まれて初めてです。こんなところに連れてきていただけるだなんて」
「そうでしょ。そうでしょう。中はもっとすごいんだから」
「喜んでくれてよかったなぁ」

 母上と父上と共に宮殿の中に入って行こうとして、僕は「ちょっと」と声をかけた。ミーナと父上は振り向いたものの、母上は頑としてこちらを向こうとする気はないらしく、そっぽを向いて、ひたすらにミーナの手を引き、宮殿の中へと引き連れて行った。
 馬車の中で待っているという約束だったはずなのに。母上と父上は自分たちの立場が分かっていない。もしウィットビル公爵に見つかったら、どうなるか。だって今あの公爵はビオラの味方だ。
 両親を止められるわけもなく、僕も少し距離を取って宮殿へ近づいた。ミーナは当然のように宮殿の中へ入ることが出来た。本当にこの宮殿は王族が住んでいるのか、僕は呆れた。
 こうなったら絶対にミーナのことを監視し続けなければなくなった。こんな王族がいる場所で、何かやらかしてしまえば、最悪爵位剥奪なんかもあり得るんじゃないか?そんなことあってたまるか。

 でもその日僕は、不本意にもミランダ・ローズというゴシップ記者につかまりミーナのことを見失った。そして大広間ではビオラの両親が亡くなったと大騒動。馬車へ駆け込むミーナ。
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