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第二十一話 カール視点

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 馬車の中に青ざめた顔をしたミーナが一人ポツンと座っていた。前の神経質そうな表情に戻り、何かに怯えているようにも見えた。ミーナは僕のことを見ると、僕の腕にしがみついてきて、せがんだ。

「お願い、早く帰りましょう。私人がたくさんいて、なんだか怖くなっちゃって。お願い」

 今までになく弱々しいミーナに戻った。こんな彼女を守るのが僕の仕事だろ。それになに病をぶり返しでもしたら、大変だ。だからここに連れてくるのが嫌だったんだ。母上と父上はミーナをほったらかして。あの我が儘なミーナは本当のミーナじゃなかったんだ。もしかしたら母上と父上に気を使っていたのかも。

「わかった。王都にある別邸で休もう。父上と母上のことは迎えに来させればいい」
「ありがとう。早く帰りましょう。さっさと帰って休みたいの」
「ああ、分かった」

 それからその日は王都にある別邸まで向かい。ミーナは化粧を落としてネグリジェになると、さっさとベッドで眠ってしまった。眠っているというよりかは、布団の中で丸まって、何かに怯えているようだった。何かあったのか?何かあってもおかしくない。
 深夜二時になって、母上と父上が帰ってきた。二人もかなり疲れたようでさっさとベッドに入った。両親も帰ってきたところだし、僕も寝ようと風呂から上がった時だった。
 玄関のチャイムが鳴り、僕は気だるい体で玄関へと向かった。玄関の重い扉を開けてみると、そこにはウィットビル公爵が一人仁王立ちしていた。

「おい、あのミーナって女はどこだ」

 最強の一匹狼に睨みつけられたようだった。緑色の瞳に、少し崩れたプラチナブロンドの髪が風に揺れていた。なぜ公爵はミーナのことを探しているんだ。
 ミーナ!何をしでかしたんだ!

「ミーナ、ですか?」
「どこだって聞いてるんだ!ここにいるんだろ!さっさと出せ!」

 ここにいる僕のことを押しのけて部屋に立ち入ってきそうな雰囲気だ。でもこれ以上僕の地位を危険にさらすことはできない。ミーナのことを知られでもしたら。

「そんな女知らないです。ここにはそんな女いません!」
「いない?本当にいないのか?」

 眉をひそめて、ギロリと睨みつけられて、僕は今すぐにでもミーナがここにいると白状してしまいそうだった。それぐらいの気迫がある。

「い、いないです。本当にいないんです」
「舞踏会へ、愛人を連れてこなかったか?」
「連れていきませんでした。一人で行きました」

 とにかく首を横に振って、拒否するしかできない。

「本当なんだな」
「はい。誓います。何があったんですか」
「ビオラの両親が亡くなったと大事になった。大広間中大騒動になって、でも二人とも死んではいなかった。ビオラがそれをミーナという女性から聞いたと話していた」

 ミーナ、お前なんてことしてくれたんだ。嘘だろ。ミーナ本当に、なんでそんなバカみたいなことしたんだ。ちょっと考えればどうなるかぐらいわかるだろ。だから連れてくるんじゃなかったんだ。だからダメなんだ。だからでしゃばる女はダメなんだ!

「本当にここにミーナという女はいないんだな」
「はい、本当にいません」

 こうなったらミーナを僕の近くから遠ざけなければいけなくなった。ミーナよりも、爵位の方が格段に大切だ。絶対に伯爵という爵位だけは落とせない。でもすぐには離れられない。住めるところを見つけてやったりしなければいけないし。

「深夜に押しかけて済まなかったな」
「いえ」
「私も慌てていた」

 プラチナブロンドの髪をかき上げてウィットビル公爵は、腰に手を当てため息を吐くと、もう一度僕の方を見た。

「それで、ビオラを連れ去ることはもうやめたのか?」
「その件につきましては、本当の申し訳ありませんでした。母が暴走しました」

 両手を体の側面にあてて、深々と僕は頭を下げた。

「母か、それに加担したんだな。お前も」
「い、いえ、そんなことは母を止めようとしていました」
「そうか」

 やっとこの屋敷に背を向けたかと思ったらウィットビル公爵は「では」と言った。安堵に包まれたかと思われたとき、侯爵は少し顔をこちらに向けた。

「覚悟しておきたまえ。一応私は公爵で、君は伯爵。私のやりたいようにやらせてもらう」

 本当に悪魔のような言葉を残して去っていった。
 
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