上 下
39 / 111
常春の国 篇

披露目の儀を撹乱する双生の二枚翅

しおりを挟む
異世界の姫の〈披露目ひろめ〉。

常春とこはるの王にいだかれて玉座に上がる異世界の姫のたぐまれ美貌びぼうは、面紗めんしゃで深くおおわれている。

誰もその尊顔そんがんおがみ見ることは出来ない。

折しも、突如とつじょ吹く一陣いちじんの風が面紗めんしゃを舞い上げ、異世界の姫の相貌そうぼうの全てをさらしてしまう予期せぬ出来事。

空気の流れさえ完備された王宮内で、突風とっぷうが吹くことは、まず有り得ない。まさに極冬王きょくとうおうの守護たるはねのセツが、魔力で巻き起こした風に他ならない。

疑念をいだ常春とこはるの王は、ひそかに自身の“懐刀ふところがたな”の双翼そうよくのリョクに探らせも、王宮外での突然の爆発音。

早急に参列者さんれつしゃ退避たいひさせる一方で、常春とこはるの王は急ぎ冬子を寝所にかくまい、その場へと駆け付けるも、人の目をらす為に仕掛けられた単なる衝撃音しょうげきおんで被害はない。

先に向かった双翼そうよくのリョク。

「……あるじ、申し訳ないー……逃げられた」

その声音こわねにはくやしさがにじむ。


さかのぼることわずか前。

一足先に向かう双翼そうよくのリョクの目の前には、灰暗色はいあんしょくの髪をまと秀麗しゅうれいおのこが一人。

「おまえー……何者だよ?」

云うが早いか。

リョクはその男の元へと一瞬で飛び立ち、帯刀たいとうするつるぎりつけるも、相手も瞬時にその手につるぎ具現化ぐげんかさせ、造作ぞうさもなく受け止める。

ガキンッ!

互いのつるぎが交わり、金属音が響き渡る。

両者とも力は拮抗きっこうしている所為せいか、どちらの身体からだにもかすり傷一つわせられない。

互いに武術ぶじゅつを得意とする王のまもり。

「ふっ、さすがはの王の“懐刀ふところがたな”ー……」

微笑を浮かべる灰暗色はいあんしょくの髪をまとおのこ

容易たやすくリョクのつるぎを受け流せば、同時にリョクの足を払いのけ、突如かしこまるなり、さらりと告げる。

「私は双生そうせい二枚翅にまいばねのヒョウー……すでには手に入れた。最早もはやおまえと遊んでいるひまはない」

そう名乗る人物は、双翼そうよくのリョクが打ち出したつるぎを余裕の表情ではじき返す。

、だとー……?」

わずか一瞬、つぶやくリョクの動きが止まる。

その一瞬のすきを狙い、二枚翅にまいばねのヒョウは渾身こんしんの一撃を放ち、双翼そうよくのリョクのつるぎはじき飛ばす。

ガチーッン!!

四方しほうへ飛ばされる双翼そうよくのリョクのつるぎ

それを見遣みや二枚翅にまいばねのヒョウは、ほくそ笑む。

「さらばー」

そう告げるなり、その場から一瞬で消える。


その後、頭に響く極冬王きょくとうおうの言葉により、すぐさま撤退てったいし、転移門へと移動する二枚翅にまいばねのヒョウ。加えて、少し遅れてセツも合流し、極冬王きょくとうおうに続き、極冬きょくとうの国へと無事に帰還きかんを果たす双生そうせい二枚翅にまいばねのヒョウとセツ。

極冬王きょくとうおうが異世界の姫をかどわかす時間稼ぎの為に、陽動ようどうしていたに過ぎない双生そうせい二枚翅にまいばね

全てが望む通りに事が運び、微笑を浮かべる双翼そうよく二枚翅にまいばねの二人がいる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

公爵様と行き遅れ~婚期を逃した令嬢が幸せになるまで~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:837pt お気に入り:24

巣ごもりオメガは後宮にひそむ

BL / 完結 24h.ポイント:4,994pt お気に入り:1,587

隠れあがり症の令嬢は黒の公爵に甘く溺愛される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:713

養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:121

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:17,984pt お気に入り:7,953

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,695pt お気に入り:3,022

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:25,137pt お気に入り:3,537

処理中です...