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極冬の国 篇
母である異世界の姫を思う王女の不安
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「父様ー!」
ばぁんっ! と寝所の扉が勢いよく開かれる。
それに、よもや驚いたのは極冬王。
冬子を愛でている時分は、この寝所には極冬王の結界が張られている所為で、共に氷華の宮にて暮らす御子らも入れないはず。
(それをー、こうも易々とー……)
トウカ王女の類い稀な力に賞賛するべく、極冬王からは「ふふっ」と優しい笑みが零れる。
「さすがはトウカー、おまえは素晴らしい子だ。この父の血を受け継ぎ、更には美しい母の身姿そのままに愛らしい顔をしている。大切な父の宝。ーしかも、こうも易々と父の結界を破るとは誠に素晴らしい。ーおいで可愛い我のトウカ」
豪奢な広い寝台の上で、薄衣を軽く羽織る極冬王は、我が子の前でも存分に色香を放っては、しどけなく微笑んでいる。
父である極冬王に、思い切り抱き付くトウカ王女。父の胸に顔を埋めるも、その父からは、まさに情交の火照りが立ち込める。
実の娘であるトウカ王女でさえ、極上の美貌を纏う父には、鼓動が早鐘を打つのは致し方がない。
思わず愛らしい相貌を赤らめるトウカ王女。
「ふふっ、どうした、トウカ。そのように顔を赤らめるトウカも誠に愛らしいー」
トウカ王女の子供特有の柔らかい頬に、幾度も口付けを落とす極冬王。
愛してやまない冬子に、瓜二つの愛らしい我が子。極冬王には目に入れても痛くない程に、溺愛する愛しい娘。
「可愛い我のトウカ、父は其方が愛おしくて堪らぬー」
そして今度は、トウカ王女の反対側の頬へと口付けを落とす。
このような事をさらりとやってのける父に、トウカ王女は脱帽である。
冬子が産み落とした双生の我が子を存分に甘やかし、尽きぬ愛情を注ぐ極冬王。
(ーでも、父様ごめんなさい。トウカには、父様以上に愛するお方がいるのです。黄金を纏うあのお方が大好きなのです……!)
トウカ王女は、自ら父の元へと来たのは、愛する母である冬子の様子が、気になったからに他ならない。
運命の伴侶でもある黄金を纏うあのお方にも、トウカ王女は冬子を護るように言われている。
あのお方の願いは、絶対と捉えるトウカ王女。
黄金を纏う見目麗しい貴人は、人を従わせる絶対的な王者のような威厳を兼ね備えている。
思わず、トウカも素直に頷いてしまう程の王の風格を持つ運命の伴侶。トウカ王女が惹れてやまない相手。
その運命の伴侶であるあの方も、常に冬子の身を案じては憂いている。
運命の伴侶が存在するトウカ王女には、母の運命が別にある事をその身に感じている。その事を母である冬子も徐々に気付き始めている。
(ー運命には逆らえない……悲しいけど、母様の運命は他にある……父様ではなく、別にあるのー……)
ここ幾日も母に会えていないトウカ王女。
(父様は、絶対に何事かを隠しているー)
そう思い、父と母が過ごす寝所へと来たものの寝台に横たわるのは、父である極冬王の傍らには、二の翅のセツがいるのみ。
父が愛し子である双生の二枚翅を愛でている事は、当然知っているトウカ王女。特に驚く事でもない。
美しい者が美しい者を愛でるのは、この世界では至極当然の行為として罷り通っている。
(……でも母様がいない。どこへー)
冬子に激しい責苦を課した極冬王は、逆らう冬子を更に罰するが如く、トウカ王女が訪れる前には、氷華の宮の隠された地下牢の王后牢へと冬子を移している。
さすがのトウカ王女も隠された王后牢があるなどとは気付きもせず、思いもよらない。
(父様、母様はどこにいるのー?)
本当なら口に出してそう尋ねたいトウカ王女。
ーしかし、この父のことー、愛してやまない己れの后に関しては、いくら我が子にでも口出しはおろか介入を良しとしない。
(ひとまずはー、引くしかないかー……)
トウカ王女は、その宵は父に存分に甘え、そのまま寝所で共寝をするも、やはり母の冬子の気配は何処にも感じられない所為で不安が募る。
氷華の宮。
美しい王后である冬子の為の豪華な寝所。トウカ王女の母が住まう宮。
ーにも関わらず、その母である冬子がいない。
トウカ王女の不安は増すばかり。
ばぁんっ! と寝所の扉が勢いよく開かれる。
それに、よもや驚いたのは極冬王。
冬子を愛でている時分は、この寝所には極冬王の結界が張られている所為で、共に氷華の宮にて暮らす御子らも入れないはず。
(それをー、こうも易々とー……)
トウカ王女の類い稀な力に賞賛するべく、極冬王からは「ふふっ」と優しい笑みが零れる。
「さすがはトウカー、おまえは素晴らしい子だ。この父の血を受け継ぎ、更には美しい母の身姿そのままに愛らしい顔をしている。大切な父の宝。ーしかも、こうも易々と父の結界を破るとは誠に素晴らしい。ーおいで可愛い我のトウカ」
豪奢な広い寝台の上で、薄衣を軽く羽織る極冬王は、我が子の前でも存分に色香を放っては、しどけなく微笑んでいる。
父である極冬王に、思い切り抱き付くトウカ王女。父の胸に顔を埋めるも、その父からは、まさに情交の火照りが立ち込める。
実の娘であるトウカ王女でさえ、極上の美貌を纏う父には、鼓動が早鐘を打つのは致し方がない。
思わず愛らしい相貌を赤らめるトウカ王女。
「ふふっ、どうした、トウカ。そのように顔を赤らめるトウカも誠に愛らしいー」
トウカ王女の子供特有の柔らかい頬に、幾度も口付けを落とす極冬王。
愛してやまない冬子に、瓜二つの愛らしい我が子。極冬王には目に入れても痛くない程に、溺愛する愛しい娘。
「可愛い我のトウカ、父は其方が愛おしくて堪らぬー」
そして今度は、トウカ王女の反対側の頬へと口付けを落とす。
このような事をさらりとやってのける父に、トウカ王女は脱帽である。
冬子が産み落とした双生の我が子を存分に甘やかし、尽きぬ愛情を注ぐ極冬王。
(ーでも、父様ごめんなさい。トウカには、父様以上に愛するお方がいるのです。黄金を纏うあのお方が大好きなのです……!)
トウカ王女は、自ら父の元へと来たのは、愛する母である冬子の様子が、気になったからに他ならない。
運命の伴侶でもある黄金を纏うあのお方にも、トウカ王女は冬子を護るように言われている。
あのお方の願いは、絶対と捉えるトウカ王女。
黄金を纏う見目麗しい貴人は、人を従わせる絶対的な王者のような威厳を兼ね備えている。
思わず、トウカも素直に頷いてしまう程の王の風格を持つ運命の伴侶。トウカ王女が惹れてやまない相手。
その運命の伴侶であるあの方も、常に冬子の身を案じては憂いている。
運命の伴侶が存在するトウカ王女には、母の運命が別にある事をその身に感じている。その事を母である冬子も徐々に気付き始めている。
(ー運命には逆らえない……悲しいけど、母様の運命は他にある……父様ではなく、別にあるのー……)
ここ幾日も母に会えていないトウカ王女。
(父様は、絶対に何事かを隠しているー)
そう思い、父と母が過ごす寝所へと来たものの寝台に横たわるのは、父である極冬王の傍らには、二の翅のセツがいるのみ。
父が愛し子である双生の二枚翅を愛でている事は、当然知っているトウカ王女。特に驚く事でもない。
美しい者が美しい者を愛でるのは、この世界では至極当然の行為として罷り通っている。
(……でも母様がいない。どこへー)
冬子に激しい責苦を課した極冬王は、逆らう冬子を更に罰するが如く、トウカ王女が訪れる前には、氷華の宮の隠された地下牢の王后牢へと冬子を移している。
さすがのトウカ王女も隠された王后牢があるなどとは気付きもせず、思いもよらない。
(父様、母様はどこにいるのー?)
本当なら口に出してそう尋ねたいトウカ王女。
ーしかし、この父のことー、愛してやまない己れの后に関しては、いくら我が子にでも口出しはおろか介入を良しとしない。
(ひとまずはー、引くしかないかー……)
トウカ王女は、その宵は父に存分に甘え、そのまま寝所で共寝をするも、やはり母の冬子の気配は何処にも感じられない所為で不安が募る。
氷華の宮。
美しい王后である冬子の為の豪華な寝所。トウカ王女の母が住まう宮。
ーにも関わらず、その母である冬子がいない。
トウカ王女の不安は増すばかり。
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