討ち入り恋慕抄
元禄の雪夜、赤穂浪士たちが吉良邸へ討ち入りを果たしたその瞬間、ひとりの男、片岡新之丞の運命は大きく揺れ動いた。敵討ちを遂げながらも、彼の胸に残ったのは達成感ではなく、ひとりの女性の面影だった――敵将・吉良上野介の娘、志乃。
死闘の夜に偶然目が合った志乃の怯えた瞳。それは彼にとって、生涯消えることのない記憶となる。討ち入り後、新之丞は浪士の列を離れ、名を捨て江戸の片隅で薬種問屋の下働きとしてひっそりと暮らし始める。
一方、父を失い、家を焼かれた志乃もまた、深川の町で身を隠すように生きていた。偶然の再会を果たしたふたりは、互いの素性を知りながらも口にせず、名を呼ぶこともなく、静かに言葉を交わすようになる。
過去と罪、憎しみと情のはざまで揺れながら、ふたりは次第に惹かれ合っていく。許されぬ恋の行く末に待つのは、贖罪か、それとも新たな希望か――。
雪の江戸を舞台に、刃の先に咲いたひとひらの恋を描く、時代恋愛絵巻。
これは、忠義の陰でひっそりと芽吹いた、ふたつの魂の物語。
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