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番外編
ターニャとレティカ
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「どうかしたのかな、僕の金の百合姫」
「その気味の悪いおっしゃりようはどうにかなりませんの?」
「なにか間違ったことを言ったかい?」
「間違ってはいませんけれども、肌寒く感じますわね」
レティカにエスコートされて参加した夜会で、ふとした拍子にアイリの姿を探して気を抜いた、そんな瞬間を狙われてのことだった。
耳元で囁くように言われた言葉に、ターニャは思わず赤面しそうになる顔を扇子で隠し、口では悪いことを言われたように言うようになってしまったのはいったいいつからだろうか。
自分は花姫で、このぐらいのことは手軽に片づけられるはずなのに、レティカ相手だとどうにも調子が狂ってしまう。
レティカには何一つ悪いことなどないのに、つい反抗的な態度を取ってしまいがちなのだ。
これではいけないと、自分を律するも、どうにもうまくいってはくれない。
「どう思います?」
「どうと言われましても、反抗期でしょうか?」
「反抗期……そういうものなのかしら?ミトはレベッカ様にそういう態度を取られたことはあって?」
「ん?なくはないけど、ターニャのは根本的に違うだろう。反抗期じゃなくって、照れてるだけだって」
「まあ!この私が照れているですって?」
いつものようにサロンでお茶を頂きながら、相談するのはレティカのことで、ターニャはここ最近レティカの話題しか話していないような気がしてならない。
もっとも、それは事実なのだが、残りの三人の誰もそれを指摘しないので問題はない。
レティカにかかってい仕舞えば、年下のターニャなど、赤子の首をひねるように簡単に御せるものなのかもしれないとミトあたりは考えているが、それを言えばターニャの機嫌が悪くなるのは、目に見えているので敢えて言ってはいない。
「それでね、アイリ。レティカ様ってば、今度意匠を揃えた羽織物を作ろうっておっしゃったのよ」
「まあ、それは素敵な事ではなくって?」
「そんな、見るからに仲が良いことをアピールしているようで恥ずかしいではないの」
「まあ、私もラルクとお揃いのものを見に付けたりしていますし、構わないのではないかしら?」
「そうなの?」
「そうだね、意匠を合わせた飾り物とかよく付けて夜会に出席してたりするよ、気が付かなかった?」
「気が付きませんでしたわ」
レティカに振り回されて、とターニャは落ち込んでしまう。これでは花姫失格だと。
アイリはそんなことはないと励ますが、ターニャの気分がその日、向上することはなかった。
そしてそのまま、その日の夜の夜会に参加することになり、いつものようにレティカのエスコートを受ける。いつもよりも気を張っているためか、表情が硬くなっているのはわかっているのだが、仕方がない。
「どうかしたのかな?」
「いいえ、なんでもありませんのよ」
「だったらいいんだけど。僕の黄金の花姫に曇り空は似合わないからね」
「っ!だからっ、どうして貴方はっ!」
そこまで言って、ターニャは何を言ったらいいのかわからずに口をパクパクとさせる。
「僕が何かな?」
「ですから……とりあえず、そのニヤ着いた笑みをどうにかなさっていただけますか?」
「これは失礼。僕の婚約者があまりにもかわいいものでつい」
「私がかわいいなんておっしゃるのはアイリとレティカ様ぐらいですわよ」
「アイリ様と同じとは嬉しいな」
「何が嬉しいのですか?」
「ターニャの中で、僕の位置がそこまで上がってきているということだろう?」
「それは……そう、かもしれませんけれども、アイリは特別なのですからねっ。いくらレティカ様でもアイリと私の間に入ることなど無理ですわよ!」
「うんうん。今はそれで十分だよ」
「今はとは何ですか。これからもずっとそうですわよ」
「あはは。まあ、気長に行くよ」
「もうっ」
ターニャはそう頬を膨らませながら差し出された手に、自分の手を重ねて、その身を任せるように腰に当てられた手に軽く体重を乗せた。
「その気味の悪いおっしゃりようはどうにかなりませんの?」
「なにか間違ったことを言ったかい?」
「間違ってはいませんけれども、肌寒く感じますわね」
レティカにエスコートされて参加した夜会で、ふとした拍子にアイリの姿を探して気を抜いた、そんな瞬間を狙われてのことだった。
耳元で囁くように言われた言葉に、ターニャは思わず赤面しそうになる顔を扇子で隠し、口では悪いことを言われたように言うようになってしまったのはいったいいつからだろうか。
自分は花姫で、このぐらいのことは手軽に片づけられるはずなのに、レティカ相手だとどうにも調子が狂ってしまう。
レティカには何一つ悪いことなどないのに、つい反抗的な態度を取ってしまいがちなのだ。
これではいけないと、自分を律するも、どうにもうまくいってはくれない。
「どう思います?」
「どうと言われましても、反抗期でしょうか?」
「反抗期……そういうものなのかしら?ミトはレベッカ様にそういう態度を取られたことはあって?」
「ん?なくはないけど、ターニャのは根本的に違うだろう。反抗期じゃなくって、照れてるだけだって」
「まあ!この私が照れているですって?」
いつものようにサロンでお茶を頂きながら、相談するのはレティカのことで、ターニャはここ最近レティカの話題しか話していないような気がしてならない。
もっとも、それは事実なのだが、残りの三人の誰もそれを指摘しないので問題はない。
レティカにかかってい仕舞えば、年下のターニャなど、赤子の首をひねるように簡単に御せるものなのかもしれないとミトあたりは考えているが、それを言えばターニャの機嫌が悪くなるのは、目に見えているので敢えて言ってはいない。
「それでね、アイリ。レティカ様ってば、今度意匠を揃えた羽織物を作ろうっておっしゃったのよ」
「まあ、それは素敵な事ではなくって?」
「そんな、見るからに仲が良いことをアピールしているようで恥ずかしいではないの」
「まあ、私もラルクとお揃いのものを見に付けたりしていますし、構わないのではないかしら?」
「そうなの?」
「そうだね、意匠を合わせた飾り物とかよく付けて夜会に出席してたりするよ、気が付かなかった?」
「気が付きませんでしたわ」
レティカに振り回されて、とターニャは落ち込んでしまう。これでは花姫失格だと。
アイリはそんなことはないと励ますが、ターニャの気分がその日、向上することはなかった。
そしてそのまま、その日の夜の夜会に参加することになり、いつものようにレティカのエスコートを受ける。いつもよりも気を張っているためか、表情が硬くなっているのはわかっているのだが、仕方がない。
「どうかしたのかな?」
「いいえ、なんでもありませんのよ」
「だったらいいんだけど。僕の黄金の花姫に曇り空は似合わないからね」
「っ!だからっ、どうして貴方はっ!」
そこまで言って、ターニャは何を言ったらいいのかわからずに口をパクパクとさせる。
「僕が何かな?」
「ですから……とりあえず、そのニヤ着いた笑みをどうにかなさっていただけますか?」
「これは失礼。僕の婚約者があまりにもかわいいものでつい」
「私がかわいいなんておっしゃるのはアイリとレティカ様ぐらいですわよ」
「アイリ様と同じとは嬉しいな」
「何が嬉しいのですか?」
「ターニャの中で、僕の位置がそこまで上がってきているということだろう?」
「それは……そう、かもしれませんけれども、アイリは特別なのですからねっ。いくらレティカ様でもアイリと私の間に入ることなど無理ですわよ!」
「うんうん。今はそれで十分だよ」
「今はとは何ですか。これからもずっとそうですわよ」
「あはは。まあ、気長に行くよ」
「もうっ」
ターニャはそう頬を膨らませながら差し出された手に、自分の手を重ねて、その身を任せるように腰に当てられた手に軽く体重を乗せた。
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