鑑賞用王女は森の中で黒い獣に出会い、愛を紡ぐ
しかし、それは溺愛という名の束縛であり、人から羨望されるようなものではなかった。
王族であろうと学校へは行かなければならない決まりがあるが、クラリッサだけは特例として入学さえしなかった。家庭教師をつけることもせず、完璧な淑女になるレッスンだけを受け続ける日々。
そして十九歳になる頃にはクラリッサはこう呼ばれるようになった。
【鑑賞用王女】
一目見れば誰もが見惚れる美貌を持つ王女だが、妻にすれば必ず手に負えなくなる。その美しさを保つためにはどれだけの金が必要なのか想像もつかないと誰もが口を揃える。
クラリッサの仕事は国王が開催する名もなきパーティーに主役として出席して長蛇の列を作る男達に計算された完璧な笑顔で対応すること。
椅子に座って笑顔を見せる人形のような毎日を過ごすことに“うんざり”していたクラリッサはある日の夜、いつも通りテラスで風に当たっていると森のほうで何かが光ったのを見た。
裏庭から通じる森には残虐なダークエルフが住んでいるため、けして近付いてはならないと言われていたが、クラリッサは屋敷を抜け出して森へと行ってしまう──
すごいお話でした。びっくりしました。
全てにおいて自分勝手な親、自己犠牲を強要された娘、彼女を思い、ごめんと胸の中で手を合わせながらも彼女に我が身の平穏を守られて行くことをやめないきょうだいたち。
経験したことがなければわからない気持ちや涙が所々に小さく、でも凛と書かれているせいでリアルさが半端なく。逆に当事者はここまできちんと自分のことを自覚できていないことを思えばそこに秀逸なフィクションを見るようで。驚きました。
現実はここまで極端ではありませんが、極端を描くことで見えてくるものはやはり強烈な光のようで。光とともに浮かび上がる影もくっきりその輪郭を主張する。なるほど。改めて小説の醍醐味を感じました。
青空のレストランという映画を観たときに、頭ではいい映画だとわかるのに、心が拒絶したんですよねぇ。誰もがあなたみたいに仲間に恵まれているわけじゃない!って。同じ思いを知っている人間にとってこれは毒にしかならない!って。同じ思いをしていても主人公は仲間に支えられ、私は一人じゃないか!って。かと言って、仲間が欲しいわけでもない。自分以外の人間に負担をかけることがどうしてもできない。自分の荷物は自分で持つものだ…観る前に戻りた
いくらいに観た後つらくなりました。
正直に言えば、このお話も読みながら終始、怖かったです。読み終えて残るものが読む前よりも大きく広がった闇だったらどうしようって。怖がりながらも一気読み。杞憂でした。読んで良かったです。読む前には戻れないお話でした。きっとこの先も折りに触れ思い出すと思います。心では泣きながらも完璧な笑顔を浮かべ続けた少女と、森から少女だけに目を凝らし耳をすませ続けたダークエルフと。どちらも、そうする以外に選択肢がなかったからしていたことですが、その姿は傍から見れば抱きしめたくなるような愛しさですね。それこそ先の見えないずっと続く暗いトンネルをただひたすら歩き続けるような日常と同じ。本人にはわからないけれども、きっとそこには愛しさもある。
次のお話がどんなものであれ、楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
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