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第一章 虐げられた姫
第21話 そう見える
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私が言葉を発した。それを理解するのに、少し時間がかかった。理解したとき、私はすぐに布団の中に潜った。
うまく発音はできなかった。多少、声もかすれていた。勝手に汚い声を発したとして叩かれるだろうか。それとも斬られるのだろうか。なら、痛みを感じないように失くさないと──
「皇女殿下、どうされましたか?ハリナが怖かったんですか?」
「えっ!?私のせいなの!?別に本気で危害を加えようとしたわけではないんだけど……」
「あんなに殺気丸出しだったら怯えるわよ、普通は!」
……?私が声を出したのには怒ってないのかな?それとも、そもそも気づかなかったの?少し布団から顔を出してみる。そしたら、二人は私に目線を合わせるようにしゃがんだ。
「大丈夫ですか?」
「……うん」
もう一回話してみた。これで怒られるなら、もう話さなければいいだけだから。
「私が怖かったんですか?でしたら謝りますから……」
怒らない。むしろ、向こうが謝ろうとしている。怒られないなら、大丈夫かな。
「……ハイナー、わうーない」
うまく話せない。ハリナは悪くないって言ったつもりなのに。しばらく話していなかったからかな?話さなくなったのは……二歳になってからだった。私が冷宮に移ったとき。そういえば……この年だった気がする。フィレンティアになっていることに気づいたのは。
生まれたときから意識のようなものはあった気がする。でも、まだ自分がフィレンティアとは思っていなくて。暗い空間に閉じ込められているような感覚だったのを覚えている。その空間が人間だとも知らなかった。確か、誘拐とか、そういう事件に巻き込まれたのかと思っていた気がする。
しばらくは、周りの声が聞こえるだけで、何も見えなかった。光が届いたのは、それから数週間後。多分、目が開いたから光が届いたんだと思う。
そして、見た目が変わっているのに気づいたのは、ルメリナの目に写っている自分を見たとき。波打つようなウェーブがかった金髪で 赤紫……マゼンタの色の瞳だった。静香は、日本人ではありふれている黒髪黒目。髪を染めた覚えはないし、髪も肩よりも上だった。カラーコンタクトも使った覚えもない。そして、そもそも静香よりも背が低かった。
そこで気づいた。自分が静香ではない何者かになっていることに。
静香じゃないことに悲しんだりはあまりしなかった。死んでしまったとするなら仕方ない、という感じで。今思えば、静香はあまり感情的にはならないタイプなのかもしれない。
「どうしましたか?」
「なんれもない」
「そういえば、先程からお言葉を発せられてますけど、話せるのですか?」
「れきう……みあい」
いや、できないかもしれない。た行とら行とだ行が発音できない。ずっと話さなかった弊害なのだろうか。
……そもそも、怒られるかもしれない。声なんて聞きたくないと。許可無く話すなと。ルメリナは言った。自分の指図に従わない者には一切容赦がなかった。
でも……そのときのルメリナは、恐怖に感じた。叩かれたりとかを恐れているわけではない。自分はこうであらねばならないと態度を演じているように見えた。それが……怖かった。何かに執着しているようにも見えるあの様子が。何かに……取り憑かれているようなあの様子が。
だって……ルメリナは憎まれ口はよく叩くけど、手を出してくることはあまり無かった。むしろ、使用人の方がそういうのは多かった。
こんな冷宮に送られたのを、私に八つ当たりでもしていたのかもしれない。もしかしたら、ルメリナに指示されていたのかもしれない。もう理由は分からない。
それに、ルメリナは刃物を怖がった。理由は知らないし、興味もない。でも、そのときのルメリナは、あの異様なルメリナからは、かけ離れていた。普通の女性みたいな……私の気のせいかもしれないけど。
「皇女殿下、出てきてくれませんか……?」
別に、布団を剥がせばいいのに。この二人は、私の着替えとか、そういうときにしか触れてこない。私だからそうなのか、他の人達にもそうなのかは分からない。とりあえず、ハリナにそう言われたので、布団から体も出した。
「皇女殿下はフェレス様がお好きなんですか?」
「にてうから」
「奴と皇女殿下がですか?」
「……うん」
私とあの人はなんか似ている。気のせいかもしれない。だけど、あの人は、もともとの性格もあるのかもしれないけど、人を避けているように見えてしまう。
私とは真逆だけど、避けることで辛いことから逃げているように。私も、人と関わらないようにって生きてきた。たとえ関わってしまっても大丈夫なように、全部壊して。あの人は……フェレスは、周りにああやって接することで、深い関わりを避けている。そんな風に見えてしまう。
「ハイナ。フェース、なにあったの?」
奴って呼んだりもしてるから、何か知っているんじゃないか。そう思った。
「奴の過去ですか?私も詳しく知っているわけではありませんので……」
「そえれもいい」
「皇女殿下には少し難しい話になるかもしれませんが」
「らいじょーぶ」
なぜか、知りたいと思っている自分がいる。自分と似ていると感じているからなのかな。私が折れないのを見て、ハリナがため息をついた。
「本来なら、あまりお耳にいれるようなことではないのですが……皇族なら知っていてもいいかもしれませんね」
「私は知るなってこと?結構気になるんだけど。あなたとフェレス様の過去話。昔は仲が良かったとか言ってたし……」
「誰が言ってたのよ!!」
「レクト様が酔った勢いで!」
昔は仲が良かったって……今もじゃないの?確かに、扱いはセリアと差があるような気がするけど、本気で言っているようには見えなかったし。フェレスもそれが分かっているみたいな感じだったし。
フェレスが離れようとしているんじゃないかって考えている私にとっては、ハリナはフェレスを孤立させないようにしようと見えてしまう。引きずるのも、自分のところに繋ぎ止めようとしているように、私には見えてしまう。……本当に嫌いな相手なのかもしれないけど。
「……昔はね。でも、あいつが……」
「あいつが何ですか?」
「今はその話はいいのよ!後でどうせ話すことになるし、それまで待ってなさい」
「えっ?じゃあ、私も聞いててもいいんですか?」
「追い出したところで、あなたはドアの外で聞き耳をたてるでしょ」
そこまで言ったら、私の方を向いた。
「気分が悪くなったら、いつでも言って構いません。では、お話しします。あいつ……フェレス様と私が出会ったころから」
うまく発音はできなかった。多少、声もかすれていた。勝手に汚い声を発したとして叩かれるだろうか。それとも斬られるのだろうか。なら、痛みを感じないように失くさないと──
「皇女殿下、どうされましたか?ハリナが怖かったんですか?」
「えっ!?私のせいなの!?別に本気で危害を加えようとしたわけではないんだけど……」
「あんなに殺気丸出しだったら怯えるわよ、普通は!」
……?私が声を出したのには怒ってないのかな?それとも、そもそも気づかなかったの?少し布団から顔を出してみる。そしたら、二人は私に目線を合わせるようにしゃがんだ。
「大丈夫ですか?」
「……うん」
もう一回話してみた。これで怒られるなら、もう話さなければいいだけだから。
「私が怖かったんですか?でしたら謝りますから……」
怒らない。むしろ、向こうが謝ろうとしている。怒られないなら、大丈夫かな。
「……ハイナー、わうーない」
うまく話せない。ハリナは悪くないって言ったつもりなのに。しばらく話していなかったからかな?話さなくなったのは……二歳になってからだった。私が冷宮に移ったとき。そういえば……この年だった気がする。フィレンティアになっていることに気づいたのは。
生まれたときから意識のようなものはあった気がする。でも、まだ自分がフィレンティアとは思っていなくて。暗い空間に閉じ込められているような感覚だったのを覚えている。その空間が人間だとも知らなかった。確か、誘拐とか、そういう事件に巻き込まれたのかと思っていた気がする。
しばらくは、周りの声が聞こえるだけで、何も見えなかった。光が届いたのは、それから数週間後。多分、目が開いたから光が届いたんだと思う。
そして、見た目が変わっているのに気づいたのは、ルメリナの目に写っている自分を見たとき。波打つようなウェーブがかった金髪で 赤紫……マゼンタの色の瞳だった。静香は、日本人ではありふれている黒髪黒目。髪を染めた覚えはないし、髪も肩よりも上だった。カラーコンタクトも使った覚えもない。そして、そもそも静香よりも背が低かった。
そこで気づいた。自分が静香ではない何者かになっていることに。
静香じゃないことに悲しんだりはあまりしなかった。死んでしまったとするなら仕方ない、という感じで。今思えば、静香はあまり感情的にはならないタイプなのかもしれない。
「どうしましたか?」
「なんれもない」
「そういえば、先程からお言葉を発せられてますけど、話せるのですか?」
「れきう……みあい」
いや、できないかもしれない。た行とら行とだ行が発音できない。ずっと話さなかった弊害なのだろうか。
……そもそも、怒られるかもしれない。声なんて聞きたくないと。許可無く話すなと。ルメリナは言った。自分の指図に従わない者には一切容赦がなかった。
でも……そのときのルメリナは、恐怖に感じた。叩かれたりとかを恐れているわけではない。自分はこうであらねばならないと態度を演じているように見えた。それが……怖かった。何かに執着しているようにも見えるあの様子が。何かに……取り憑かれているようなあの様子が。
だって……ルメリナは憎まれ口はよく叩くけど、手を出してくることはあまり無かった。むしろ、使用人の方がそういうのは多かった。
こんな冷宮に送られたのを、私に八つ当たりでもしていたのかもしれない。もしかしたら、ルメリナに指示されていたのかもしれない。もう理由は分からない。
それに、ルメリナは刃物を怖がった。理由は知らないし、興味もない。でも、そのときのルメリナは、あの異様なルメリナからは、かけ離れていた。普通の女性みたいな……私の気のせいかもしれないけど。
「皇女殿下、出てきてくれませんか……?」
別に、布団を剥がせばいいのに。この二人は、私の着替えとか、そういうときにしか触れてこない。私だからそうなのか、他の人達にもそうなのかは分からない。とりあえず、ハリナにそう言われたので、布団から体も出した。
「皇女殿下はフェレス様がお好きなんですか?」
「にてうから」
「奴と皇女殿下がですか?」
「……うん」
私とあの人はなんか似ている。気のせいかもしれない。だけど、あの人は、もともとの性格もあるのかもしれないけど、人を避けているように見えてしまう。
私とは真逆だけど、避けることで辛いことから逃げているように。私も、人と関わらないようにって生きてきた。たとえ関わってしまっても大丈夫なように、全部壊して。あの人は……フェレスは、周りにああやって接することで、深い関わりを避けている。そんな風に見えてしまう。
「ハイナ。フェース、なにあったの?」
奴って呼んだりもしてるから、何か知っているんじゃないか。そう思った。
「奴の過去ですか?私も詳しく知っているわけではありませんので……」
「そえれもいい」
「皇女殿下には少し難しい話になるかもしれませんが」
「らいじょーぶ」
なぜか、知りたいと思っている自分がいる。自分と似ていると感じているからなのかな。私が折れないのを見て、ハリナがため息をついた。
「本来なら、あまりお耳にいれるようなことではないのですが……皇族なら知っていてもいいかもしれませんね」
「私は知るなってこと?結構気になるんだけど。あなたとフェレス様の過去話。昔は仲が良かったとか言ってたし……」
「誰が言ってたのよ!!」
「レクト様が酔った勢いで!」
昔は仲が良かったって……今もじゃないの?確かに、扱いはセリアと差があるような気がするけど、本気で言っているようには見えなかったし。フェレスもそれが分かっているみたいな感じだったし。
フェレスが離れようとしているんじゃないかって考えている私にとっては、ハリナはフェレスを孤立させないようにしようと見えてしまう。引きずるのも、自分のところに繋ぎ止めようとしているように、私には見えてしまう。……本当に嫌いな相手なのかもしれないけど。
「……昔はね。でも、あいつが……」
「あいつが何ですか?」
「今はその話はいいのよ!後でどうせ話すことになるし、それまで待ってなさい」
「えっ?じゃあ、私も聞いててもいいんですか?」
「追い出したところで、あなたはドアの外で聞き耳をたてるでしょ」
そこまで言ったら、私の方を向いた。
「気分が悪くなったら、いつでも言って構いません。では、お話しします。あいつ……フェレス様と私が出会ったころから」
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