48 / 75
第一章 虐げられた姫
第48話 月明かりの塔で 1
しおりを挟む
時間は戻り、フェリクスにフィレンティアを預けた直後。ローランドは空中で狙ってきた者がいた場所に来ていた。
そこには、何も見当たらない。
「さすがにもう回収されてるか」
それならとそういう者達が送られる場所の方に向かった。
* * *
一方で騎士達は、目の前にいる存在に違和感を覚えた。その人は、ここの侍女の格好はしているものの、明らかに刺客らしき者を連れていたからだ。
「……なぜここに?」
「害獣を連れてきました。入りますね」
中に入っていいかも聞かずに入ろうとする人物を、騎士達は止めた。
「ここに立ち入るには許可が……」
「影の副長である私に立ち入ってはならない場所があるとでも?少なくとも、皇族の居住地区画でなければ私は自由に出入りする許可を陛下からもらっています。通りますよ」
淡々と自分は許可を得ていることを説明して、再び入ろうとする。今度は止められなかったが、掴んでいる者が意識を取り戻し、少し抵抗し出した。
「おい、離せ!」
「お静かに願います」
首に衝撃を与えて、気絶させた。
「入りますね」
気絶した人物の襟を掴んで中に入っていった。
「副長って言ってたよな……」
「じゃあ、あれが噂の『氷の──』」
そこまで言ったところで、後ろからナイフが飛んでくる。そのナイフは肌に触れるか触れないかを通りすぎた。
「私、その名は好きではありませんので。次に私がいるところでそのようなことを言えば、刺しますから」
「は、はい……」
────ガキン。
一人の騎士が返事した瞬間、かすかに金属が何かにぶつかったような音が聞こえる。セリアはその音に気づき後ろを見るが、騎士達は気づいていないようだった。
(何だったのかしら、あの音)
返事には何も言わずに、そう思いながら部屋の暗闇に消えていった。
「こえーよ、影の副長」
完全に姿が見えなくなったところで、騎士の一人がボソッと呟いた。それに少し幼い声で返事がある。
「いつにも増して機嫌が悪そうだね、あれ。でも、もう少し注意してほしいよ。ナイフが僕に刺さるところだった」
「それは危な…かっ……た……」
声がする方を見ると、一人の男の子がいる。その右手には、先ほど投げられたナイフが握られている。
「久しぶりかな?それとも初めましてだっけ?」
「お、お初にお目にかかります……」
「いかがいたしましたか、ローランド皇子殿下」
「塔に用があるから」
そう言って目の前にある建物を指差す。ここは、刺客や、貴族の犯罪者を入れておく場所。通称、月明かりの塔。
ここにかけられている魔法や、建物の位置などの関係で、日は当たらず、月の明かりだけが当たるためだ。
ローランドはその月明かりの塔の中に入っていく。
「ここは初めてだな」
初めてでも、構造は知っているので、自分の目的の人物がいる場所を探る。
(刺客はあっちだったかな……)
そう考えながら奥の方に進んでいく。塔は入れられる人物が誰なのかによってだいたいの場所が決まっている。入り口に近いほど悪事が軽く、身分が高い。逆に、遠いほど重い悪事か、身分が低い。
そして階段をくだったり廊下を歩いていることおよそ10分。目的の場所に近づくと、そこには先客がいた。地下なので、そこまではっきりとは見えないが、誰なのかはなんとなく分かった。
「セリアもここにいたんだね。ナイフが飛んできたからそうだとは思ったけど」
「それは申し訳ありません。お怪我は……」
「安心して。飛んできた瞬間、結界を張ったから」
あのときの何かにぶつかったような金属音はセリアのナイフがローランドの結界にぶつかった音だった。
ローランドはここに向かう途中でナイフが飛んできて、瞬時に結界を張っていた。そして、ぶつかったナイフを見たら、影がよく使っていたのと、騎士が言っていた副長という言葉で分かった。
「それでさ、それ?ティアを狙った不届き者」
「そうですね。皇子殿下を狙った方は逃がしましたが」
「別にいいよ。こっちを逃がしてたら許さなかったけど」
自分の命が狙われたとしても何とも思わない。それは、自分の命が大切なものではないからだ。皇族は、自らも駒として考える節がある。人間は死を恐れるというが、彼らはまったく恐れない。
「それは危なかったですね。実験台は勘弁です」
「セリアにはやらないよ。……あっちにはやるかもしれないけど……」
そう言いながら天井を見上げた。
「……墓石を二つほど買っておいた方がよろしいですね」
「いや、百はいるかな。……あいつらだけですませるつもりないし」
「承知いたしました」
「セリア」
ローランドとセリアが少し物騒な会話をしているところに、話しかけてくる人物がいた。
「ハリナ、どうしたの?」
「仕事よ。身の程知らずの駄犬を探し出すわよ」
「総動員ですか。承知しました、隊長」
“影”として動かされることを察知し、タメ口とハリナという名前呼びから敬語と隊長という呼び方に変えた。
「ローランド皇子殿下、失礼します」
「うん、そっちは任せたよ」
ローランドの言葉を聞いてセリアはハリナの後についていった。
「さて……僕はこっちを頑張るかな」
そこには、何も見当たらない。
「さすがにもう回収されてるか」
それならとそういう者達が送られる場所の方に向かった。
* * *
一方で騎士達は、目の前にいる存在に違和感を覚えた。その人は、ここの侍女の格好はしているものの、明らかに刺客らしき者を連れていたからだ。
「……なぜここに?」
「害獣を連れてきました。入りますね」
中に入っていいかも聞かずに入ろうとする人物を、騎士達は止めた。
「ここに立ち入るには許可が……」
「影の副長である私に立ち入ってはならない場所があるとでも?少なくとも、皇族の居住地区画でなければ私は自由に出入りする許可を陛下からもらっています。通りますよ」
淡々と自分は許可を得ていることを説明して、再び入ろうとする。今度は止められなかったが、掴んでいる者が意識を取り戻し、少し抵抗し出した。
「おい、離せ!」
「お静かに願います」
首に衝撃を与えて、気絶させた。
「入りますね」
気絶した人物の襟を掴んで中に入っていった。
「副長って言ってたよな……」
「じゃあ、あれが噂の『氷の──』」
そこまで言ったところで、後ろからナイフが飛んでくる。そのナイフは肌に触れるか触れないかを通りすぎた。
「私、その名は好きではありませんので。次に私がいるところでそのようなことを言えば、刺しますから」
「は、はい……」
────ガキン。
一人の騎士が返事した瞬間、かすかに金属が何かにぶつかったような音が聞こえる。セリアはその音に気づき後ろを見るが、騎士達は気づいていないようだった。
(何だったのかしら、あの音)
返事には何も言わずに、そう思いながら部屋の暗闇に消えていった。
「こえーよ、影の副長」
完全に姿が見えなくなったところで、騎士の一人がボソッと呟いた。それに少し幼い声で返事がある。
「いつにも増して機嫌が悪そうだね、あれ。でも、もう少し注意してほしいよ。ナイフが僕に刺さるところだった」
「それは危な…かっ……た……」
声がする方を見ると、一人の男の子がいる。その右手には、先ほど投げられたナイフが握られている。
「久しぶりかな?それとも初めましてだっけ?」
「お、お初にお目にかかります……」
「いかがいたしましたか、ローランド皇子殿下」
「塔に用があるから」
そう言って目の前にある建物を指差す。ここは、刺客や、貴族の犯罪者を入れておく場所。通称、月明かりの塔。
ここにかけられている魔法や、建物の位置などの関係で、日は当たらず、月の明かりだけが当たるためだ。
ローランドはその月明かりの塔の中に入っていく。
「ここは初めてだな」
初めてでも、構造は知っているので、自分の目的の人物がいる場所を探る。
(刺客はあっちだったかな……)
そう考えながら奥の方に進んでいく。塔は入れられる人物が誰なのかによってだいたいの場所が決まっている。入り口に近いほど悪事が軽く、身分が高い。逆に、遠いほど重い悪事か、身分が低い。
そして階段をくだったり廊下を歩いていることおよそ10分。目的の場所に近づくと、そこには先客がいた。地下なので、そこまではっきりとは見えないが、誰なのかはなんとなく分かった。
「セリアもここにいたんだね。ナイフが飛んできたからそうだとは思ったけど」
「それは申し訳ありません。お怪我は……」
「安心して。飛んできた瞬間、結界を張ったから」
あのときの何かにぶつかったような金属音はセリアのナイフがローランドの結界にぶつかった音だった。
ローランドはここに向かう途中でナイフが飛んできて、瞬時に結界を張っていた。そして、ぶつかったナイフを見たら、影がよく使っていたのと、騎士が言っていた副長という言葉で分かった。
「それでさ、それ?ティアを狙った不届き者」
「そうですね。皇子殿下を狙った方は逃がしましたが」
「別にいいよ。こっちを逃がしてたら許さなかったけど」
自分の命が狙われたとしても何とも思わない。それは、自分の命が大切なものではないからだ。皇族は、自らも駒として考える節がある。人間は死を恐れるというが、彼らはまったく恐れない。
「それは危なかったですね。実験台は勘弁です」
「セリアにはやらないよ。……あっちにはやるかもしれないけど……」
そう言いながら天井を見上げた。
「……墓石を二つほど買っておいた方がよろしいですね」
「いや、百はいるかな。……あいつらだけですませるつもりないし」
「承知いたしました」
「セリア」
ローランドとセリアが少し物騒な会話をしているところに、話しかけてくる人物がいた。
「ハリナ、どうしたの?」
「仕事よ。身の程知らずの駄犬を探し出すわよ」
「総動員ですか。承知しました、隊長」
“影”として動かされることを察知し、タメ口とハリナという名前呼びから敬語と隊長という呼び方に変えた。
「ローランド皇子殿下、失礼します」
「うん、そっちは任せたよ」
ローランドの言葉を聞いてセリアはハリナの後についていった。
「さて……僕はこっちを頑張るかな」
42
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる