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第一章 最強の少年
17 追い返された
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翌朝、ルイスは再びギルドを訪れた。いつもなら、ダグラスのいるところに行けば、こっそりと討伐依頼を持ってきてくれるのだが、今日は受付にはいなかった。
(お休みなのかなぁ……?)
ルイスは、仕方なく、掲示板に貼ってある薬草採取の依頼を剥がし、適当な受付まで持っていった。
「これお願いしまーす」
「はい、ルナ草の採取依頼ですね。では、ライセンスカードの提示をお願いします」
「どうぞ」
ルイスは、懐からライセンスカードを取り出して手渡す。
ルイスからカードを受け取った受付嬢は、手慣れた手つきで手続きを始めるが、ルイスは暇でしかなかった。
いつもなら、ダグラスが依頼を持ってきて、ルイスが受けると決めたら受注するので、ライセンスカードを出すことがなかったし、もっと時間も早く済んでいたからだ。
さすがに規則に従わなければならないのではないかとルイスも言ったことがあるが、『討伐依頼ができないお前は、等級なんてろくに上がらないだろ?』と笑いながら言われてしまった。
だが、それは事実である。
討伐証明を持ってこれないルイスは、8級に上がるのは絶望的だからだ。
そんなルイスが、それなりの強さの魔物の討伐依頼を受けるのは不可能だ。だからこそ、ダグラスに違反スレスレのことをやって貰っている。
(ダグラスおじさんが上げてくれればいいのになぁ……)
よくわからないが、ギルドの規則から外れたことをしても怒られないのなら、ダグラスはそれなりに偉い人というのは、ルイスでもわかる。
それなら、いっそのことそれを利用してくれるほうがありがたいが、ダグラスは、ルイスの等級を上げようとはしない。
いや……上げたがっていないように見えた。
「ーーはい。終わりました」
「ありがとうございます」
三分くらいで、やっと手続きが終わり、ルイスはカードを受け取り、ギルドを後にした。
門から街の外に出て、近くの草原に来る。
ここからは、街の門が見える位置なので、たとえ魔物を討伐できなかったとしても、兵が気づいて助けてくれる。
そのために、同じような依頼を受けた者たちが集まっている。
(ここじゃあ、満足に練習できないな……)
別に、見られて困るものではないが、暴走した場合、人を巻き込むわけにはいかないので、近くに人のいないところで練習するようにと養父母からは言われていた。
必然的に、ルイスは街から離れることになる。
ある程度のルナ草を集めたら、違和感のないように、少しずつ、少しずつ人から離れていき、ある程度の距離を保ったところで、ルイスは魔法の練習を始めた。
ダグラスから、加減ができるまでは戦いで魔法を使うなと言われているので、その加減の練習のためだ。
ルイスは、まったく加減ができないというわけではない。時間さえかければ、少しずつ弱めていくことはできる。アノリカルを咲かせた時のように。
戦闘中の咄嗟の判断ではできないだけだ。そんな咄嗟の判断でも行えるように、毎日、特訓を重ねている。
意識を集中して、魔力を調節する。
ルイスの多大な魔力量では、本当に慎重にならなければ、使う魔力が多すぎて暴走しかねない。
今のルイスには、風に吹かれる木々の音や、動物の鳴き声も、何も聞こえてはいない。視線も、自分の指先だけだ。
魔力を調節したルイスは、その指先から小さな火を出す。
生み出すまでに要した時間は……一時間だ。
ルイスは、その生み出した火を消した。
(前よりは短くなったんだけどなぁ……)
まだ冒険者になったばかりの頃は、二時間をゆうに越えていた。それに比べれば、成長したほうだろう。アノリカルの開花がいい鍛練になったようだった。
それでも、実戦に使えるほどではない。隠れて奇襲する分にはいいが、それは相手がその場で動かなかったらの話だ。
眠ってでもいない限り、魔物が一時間もその場で待機しているわけもないし、そんなに長時間その場に留まっていたら、向こうに気づかれる恐れもある。
魔力の気配には、魔物ほど敏感な存在はいない。
以前のロックタートルがまさにそれだった。ちゃんと木の裏に隠れていたのに、魔力を調節していたところを気づかれ、目が合ってしまった。
いくらそこまでの危険性はないからといって、魔物に気づかれたのに、のんきに魔力を調節できるほど、ルイスは精神が鍛えられていない。
そのために、威力を調整できずに、ぶっ飛ばしや粉微塵にしてしまうのだ。
(どうするかなぁ……)
ルイスがはぁとため息をついていると、ルイスの肩をとんとんと誰かが叩く。
ルイスが振り向くと、そこには、四人の男女がいた。
この人たちは、ギルドで見かけた覚えがある。おそらくは冒険者だろう。
「あなた、確かルイスくんよね?」
珍しい子どもの冒険者として、他の冒険者たちの間で有名だったルイスのことは、パーティーの皆も知っていた。
だが、そんなことは知らないルイスは、自分を知っていることを不審に思ってしまい、距離を取る。
そして、おそるおそる尋ねた。
「そうですけど……皆さんは?」
「ああ、私はシルファよ。この人は剣士のベルクで、この子が魔術師のカレン。そんで、これがロイド」
「おいシルファ!これとはなんだこれとは!俺だけ雑すぎるだろ!」
ベルクとカレンのことは手で示しながら丁寧に説明したのに対し、自分のことは指を指しながら雑に紹介されたロイドが、シルファに突っかかる。
「だって……ねぇ?」
シルファは、ベルクとカレンに目配せする。
二人は、そっとロイドのほうを見るが、静かに目をそらした。
「おいこら!お前ら、その態度はどういう意味だ!!」
二人の態度に、ロイドはますます立腹する。
だが、ルイスの目には、ロイドが本気で怒っているようには見えなかった。
どことなく、楽しんでいるように見えたのだ。なんでなのかはわからない。
「それで、ルイスくん。こんなところで何してるの?」
シルファがルイスに尋ねる。ルイスは、少し間を置いてから答えた。
「ルナ草を探してたんです」
「その割には、ずっとそこで立ち止まってた気がしますけど……?」
カレンが不思議そうな顔をしながら呟く。ルイスは、その言葉に少し慌ててしまう。
「だ、だから探してたんです」
「ふーん……そうなのね」
ルイスは冷や汗を流しながらなんとか弁明しようとする。
孤児院では、魔法が使えることを知られたら、毎日のように魔法を見せてとせがまれていた。
この人にもそんなことを言われてしまっては、いつまでたっても魔法の練習が再開できないため、ルイスは事実を隠している。
当然、その時も制御なんてできていなかったので、適当な理由でごまかしていたが、両親と同じ年くらいの彼らには通じないだろう。
「それより、シルファさんたちはどうしたんですか?」
「私たちは、魔物の討伐に行くの。そうしたら、街から離れたところでルイスくんを見かけたから」
「お前、魔物を一匹も殺せ……倒せないんだろ?街から離れると危ないぞ」
それでか、とルイスは納得した。
薬草を探している人たちなんて、周りに何人もいる。それなのに、わざわざ遠くにいた自分に声をかけてきた理由がわからなかったが、そう言われて納得した。
でも、レッドロックワームを倒した時に、あんなに騒いでいたのに、結局は自分は魔物を倒せないことになっているのが気になった。
それを聞いていいかわからない。
「大丈夫です。倒せないわけではありませんから」
倒せないわけではない。形として残せないだけだ。
だが、それを言ってもあまり理解されないことが多いので、話すことはない。
それに、今は……あまり魔物のことについては話したくなかった。
「そうなの?でも、危ないからもうちょっと街の近くにいたほうがいいわよ」
「そうだ。子どもの冒険者ってだけでも目立つのに、それなりに容姿も整っていて、黒髪黒目は珍しいからな。変な奴に目をつけられる可能性もある」
シルファとベルクが注意してくるが、ルイスは別のところが気になった。
「僕の髪と目って、珍しいんですか?」
ルイスは、今までのことを思い返す。
言われてみれば、ルイスは孤児院でも、もちろん街でも、黒い髪や黒い瞳を見ることはなかった。
唯一、自分の養母であるレカーティアが黒い瞳をしているくらいだ。
ルイスの質問には、ロイドが答えてくれる。
「ああ。少なくとも、この辺りじゃあ、領主さまのところの坊っちゃんだけだと思うぞ。それも、お前とは違って黒髪なだけだしな。他にもいるかもしれねぇが、俺らは見たことねぇな」
「へぇ~……そうなんだ」
ちょっと見てみたいなと思っていると、ルイスの肩に誰かの手が置かれる。
ルイスがその手を追うと、その手はカレンの手だった。
「そうですよ。ですから、街に戻りましょう」
朗らかな笑みを見せながらも、それに見合わないくらいの力でぐいぐいと街に追いやられる。子どものルイスでは、単純に力で負けてしまって、抵抗もできない。
シルファたちが、本気でルイスのことを心配してくれるのは、ルイスもわかっている。だが、このまま追い返されてしまっては、魔法の練習が進まない。
「ぼ、僕なら大丈夫ですからーー」
ルイスは訴えるが、カレンは振り返ってニコッと笑う。
「そんなこと言わずに!ルイスくんの事情は知りませんけど、子どもはちゃんと守られてませんと!ルイスくんならなおさらです!」
満面の笑みでそう捲し立ててくるが、ルイスからすれば訳がわからなかった。
(僕ならなおさらってどういうこと!?)
その言葉は、カレンがルイスのことを魔物もろくに倒せない子どもと思っているから出た言葉なのだが、ルイスは気づいていない。何か深い意味でもあるのだろうかと、五歳らしからぬ思考をしている。
ルイスの倒せないわけではないという言葉も、カレンは強がりと解釈してしまっているのだが、当然ながら、それも気づいていない。
「ほらほら~!」
「ま、待ってください!僕なら大丈夫です!皆さんも止めてくださいよ!」
自分ではどうにもならないと悟ったルイスは、後ろのカレンのパーティーメンバーに救いを求めるーーが、シルファとロイドには静かに目をそらされ、ベルクがため息をついた。
「諦めろ。そうなったカレンは止まらないから」
ベルクからの言葉に、ルイスは見捨てられたことを悟った。
そのまま、どんどん街のほうへと連れていかれる。
(母さんたちになんて言えばいいんだよ~!)
そんな心の叫びは当然届かず、ルイスは街へと連れ戻されてしまった。
(お休みなのかなぁ……?)
ルイスは、仕方なく、掲示板に貼ってある薬草採取の依頼を剥がし、適当な受付まで持っていった。
「これお願いしまーす」
「はい、ルナ草の採取依頼ですね。では、ライセンスカードの提示をお願いします」
「どうぞ」
ルイスは、懐からライセンスカードを取り出して手渡す。
ルイスからカードを受け取った受付嬢は、手慣れた手つきで手続きを始めるが、ルイスは暇でしかなかった。
いつもなら、ダグラスが依頼を持ってきて、ルイスが受けると決めたら受注するので、ライセンスカードを出すことがなかったし、もっと時間も早く済んでいたからだ。
さすがに規則に従わなければならないのではないかとルイスも言ったことがあるが、『討伐依頼ができないお前は、等級なんてろくに上がらないだろ?』と笑いながら言われてしまった。
だが、それは事実である。
討伐証明を持ってこれないルイスは、8級に上がるのは絶望的だからだ。
そんなルイスが、それなりの強さの魔物の討伐依頼を受けるのは不可能だ。だからこそ、ダグラスに違反スレスレのことをやって貰っている。
(ダグラスおじさんが上げてくれればいいのになぁ……)
よくわからないが、ギルドの規則から外れたことをしても怒られないのなら、ダグラスはそれなりに偉い人というのは、ルイスでもわかる。
それなら、いっそのことそれを利用してくれるほうがありがたいが、ダグラスは、ルイスの等級を上げようとはしない。
いや……上げたがっていないように見えた。
「ーーはい。終わりました」
「ありがとうございます」
三分くらいで、やっと手続きが終わり、ルイスはカードを受け取り、ギルドを後にした。
門から街の外に出て、近くの草原に来る。
ここからは、街の門が見える位置なので、たとえ魔物を討伐できなかったとしても、兵が気づいて助けてくれる。
そのために、同じような依頼を受けた者たちが集まっている。
(ここじゃあ、満足に練習できないな……)
別に、見られて困るものではないが、暴走した場合、人を巻き込むわけにはいかないので、近くに人のいないところで練習するようにと養父母からは言われていた。
必然的に、ルイスは街から離れることになる。
ある程度のルナ草を集めたら、違和感のないように、少しずつ、少しずつ人から離れていき、ある程度の距離を保ったところで、ルイスは魔法の練習を始めた。
ダグラスから、加減ができるまでは戦いで魔法を使うなと言われているので、その加減の練習のためだ。
ルイスは、まったく加減ができないというわけではない。時間さえかければ、少しずつ弱めていくことはできる。アノリカルを咲かせた時のように。
戦闘中の咄嗟の判断ではできないだけだ。そんな咄嗟の判断でも行えるように、毎日、特訓を重ねている。
意識を集中して、魔力を調節する。
ルイスの多大な魔力量では、本当に慎重にならなければ、使う魔力が多すぎて暴走しかねない。
今のルイスには、風に吹かれる木々の音や、動物の鳴き声も、何も聞こえてはいない。視線も、自分の指先だけだ。
魔力を調節したルイスは、その指先から小さな火を出す。
生み出すまでに要した時間は……一時間だ。
ルイスは、その生み出した火を消した。
(前よりは短くなったんだけどなぁ……)
まだ冒険者になったばかりの頃は、二時間をゆうに越えていた。それに比べれば、成長したほうだろう。アノリカルの開花がいい鍛練になったようだった。
それでも、実戦に使えるほどではない。隠れて奇襲する分にはいいが、それは相手がその場で動かなかったらの話だ。
眠ってでもいない限り、魔物が一時間もその場で待機しているわけもないし、そんなに長時間その場に留まっていたら、向こうに気づかれる恐れもある。
魔力の気配には、魔物ほど敏感な存在はいない。
以前のロックタートルがまさにそれだった。ちゃんと木の裏に隠れていたのに、魔力を調節していたところを気づかれ、目が合ってしまった。
いくらそこまでの危険性はないからといって、魔物に気づかれたのに、のんきに魔力を調節できるほど、ルイスは精神が鍛えられていない。
そのために、威力を調整できずに、ぶっ飛ばしや粉微塵にしてしまうのだ。
(どうするかなぁ……)
ルイスがはぁとため息をついていると、ルイスの肩をとんとんと誰かが叩く。
ルイスが振り向くと、そこには、四人の男女がいた。
この人たちは、ギルドで見かけた覚えがある。おそらくは冒険者だろう。
「あなた、確かルイスくんよね?」
珍しい子どもの冒険者として、他の冒険者たちの間で有名だったルイスのことは、パーティーの皆も知っていた。
だが、そんなことは知らないルイスは、自分を知っていることを不審に思ってしまい、距離を取る。
そして、おそるおそる尋ねた。
「そうですけど……皆さんは?」
「ああ、私はシルファよ。この人は剣士のベルクで、この子が魔術師のカレン。そんで、これがロイド」
「おいシルファ!これとはなんだこれとは!俺だけ雑すぎるだろ!」
ベルクとカレンのことは手で示しながら丁寧に説明したのに対し、自分のことは指を指しながら雑に紹介されたロイドが、シルファに突っかかる。
「だって……ねぇ?」
シルファは、ベルクとカレンに目配せする。
二人は、そっとロイドのほうを見るが、静かに目をそらした。
「おいこら!お前ら、その態度はどういう意味だ!!」
二人の態度に、ロイドはますます立腹する。
だが、ルイスの目には、ロイドが本気で怒っているようには見えなかった。
どことなく、楽しんでいるように見えたのだ。なんでなのかはわからない。
「それで、ルイスくん。こんなところで何してるの?」
シルファがルイスに尋ねる。ルイスは、少し間を置いてから答えた。
「ルナ草を探してたんです」
「その割には、ずっとそこで立ち止まってた気がしますけど……?」
カレンが不思議そうな顔をしながら呟く。ルイスは、その言葉に少し慌ててしまう。
「だ、だから探してたんです」
「ふーん……そうなのね」
ルイスは冷や汗を流しながらなんとか弁明しようとする。
孤児院では、魔法が使えることを知られたら、毎日のように魔法を見せてとせがまれていた。
この人にもそんなことを言われてしまっては、いつまでたっても魔法の練習が再開できないため、ルイスは事実を隠している。
当然、その時も制御なんてできていなかったので、適当な理由でごまかしていたが、両親と同じ年くらいの彼らには通じないだろう。
「それより、シルファさんたちはどうしたんですか?」
「私たちは、魔物の討伐に行くの。そうしたら、街から離れたところでルイスくんを見かけたから」
「お前、魔物を一匹も殺せ……倒せないんだろ?街から離れると危ないぞ」
それでか、とルイスは納得した。
薬草を探している人たちなんて、周りに何人もいる。それなのに、わざわざ遠くにいた自分に声をかけてきた理由がわからなかったが、そう言われて納得した。
でも、レッドロックワームを倒した時に、あんなに騒いでいたのに、結局は自分は魔物を倒せないことになっているのが気になった。
それを聞いていいかわからない。
「大丈夫です。倒せないわけではありませんから」
倒せないわけではない。形として残せないだけだ。
だが、それを言ってもあまり理解されないことが多いので、話すことはない。
それに、今は……あまり魔物のことについては話したくなかった。
「そうなの?でも、危ないからもうちょっと街の近くにいたほうがいいわよ」
「そうだ。子どもの冒険者ってだけでも目立つのに、それなりに容姿も整っていて、黒髪黒目は珍しいからな。変な奴に目をつけられる可能性もある」
シルファとベルクが注意してくるが、ルイスは別のところが気になった。
「僕の髪と目って、珍しいんですか?」
ルイスは、今までのことを思い返す。
言われてみれば、ルイスは孤児院でも、もちろん街でも、黒い髪や黒い瞳を見ることはなかった。
唯一、自分の養母であるレカーティアが黒い瞳をしているくらいだ。
ルイスの質問には、ロイドが答えてくれる。
「ああ。少なくとも、この辺りじゃあ、領主さまのところの坊っちゃんだけだと思うぞ。それも、お前とは違って黒髪なだけだしな。他にもいるかもしれねぇが、俺らは見たことねぇな」
「へぇ~……そうなんだ」
ちょっと見てみたいなと思っていると、ルイスの肩に誰かの手が置かれる。
ルイスがその手を追うと、その手はカレンの手だった。
「そうですよ。ですから、街に戻りましょう」
朗らかな笑みを見せながらも、それに見合わないくらいの力でぐいぐいと街に追いやられる。子どものルイスでは、単純に力で負けてしまって、抵抗もできない。
シルファたちが、本気でルイスのことを心配してくれるのは、ルイスもわかっている。だが、このまま追い返されてしまっては、魔法の練習が進まない。
「ぼ、僕なら大丈夫ですからーー」
ルイスは訴えるが、カレンは振り返ってニコッと笑う。
「そんなこと言わずに!ルイスくんの事情は知りませんけど、子どもはちゃんと守られてませんと!ルイスくんならなおさらです!」
満面の笑みでそう捲し立ててくるが、ルイスからすれば訳がわからなかった。
(僕ならなおさらってどういうこと!?)
その言葉は、カレンがルイスのことを魔物もろくに倒せない子どもと思っているから出た言葉なのだが、ルイスは気づいていない。何か深い意味でもあるのだろうかと、五歳らしからぬ思考をしている。
ルイスの倒せないわけではないという言葉も、カレンは強がりと解釈してしまっているのだが、当然ながら、それも気づいていない。
「ほらほら~!」
「ま、待ってください!僕なら大丈夫です!皆さんも止めてくださいよ!」
自分ではどうにもならないと悟ったルイスは、後ろのカレンのパーティーメンバーに救いを求めるーーが、シルファとロイドには静かに目をそらされ、ベルクがため息をついた。
「諦めろ。そうなったカレンは止まらないから」
ベルクからの言葉に、ルイスは見捨てられたことを悟った。
そのまま、どんどん街のほうへと連れていかれる。
(母さんたちになんて言えばいいんだよ~!)
そんな心の叫びは当然届かず、ルイスは街へと連れ戻されてしまった。
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