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第一章 悪役王女になりまして
3. 悪役王女は脇役だった
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「ふぅ……」
ため息をついて、ベッドに寝転がった。
国王の印象操作としては、上々だったのではないかと、彩花は自画自賛する。
まずは、マイナスをゼロに戻すところから始めなければならない。それには、相手が望むような王女になるのが大前提だ。
(エルルーアとして生きるのは別にいいけど、さすがに劣悪環境で育ちたいとは思わないわ)
今置かれている環境は、お世辞にも良い環境とは言いがたい。もちろん、部屋は豪華だ。宝石を使った装飾品があちこちにあるし、食事も豪勢。端から見れば、恵まれているように感じるだろう。
でも、彩花はわかっている。王族の食事やこういう装飾品は、民の血税だ。民は、自分たちの暮らしがよくなると思って税を納めているようなものなのに、こんな風に散財されていると知ったら、怒り狂うだろう。地球でも革命は何度もあった。その原因のほとんどは、血税が民に還元されなかったからだ。
「血税で公共施設を建てるとか、いろいろ使い道はあるだろうに……贅沢しか脳がないの?いや、これもエルルーアの作戦のうち……だったか」
彩花の持つエルルーアの記憶によれば、自分は愛されているんだと思いたかったエルルーアが、父親にいろいろとおねだりをしていた。可愛い娘のお願いなら聞いてくれるだろうと。
(どうせ、癇癪を起こされると面倒だから与えられていただけだったろうに)
哀愁ただようような顔で、彩花はエルルーアに同情しながらも、彼女の行動を否定した。
(……誰か来る)
芸能界で暮らしていたので、ストーカーのような被害もあった彩花は、気配察知に長けていた。もちろん、現代ではそれを隠し、相手が声をかけてきたり、視界に現れたときに、さも今気づきましたというように対応していた。
彩花は起き上がり、寝癖のようになった髪を軽く整える。
「おい」
ノックもせず入ってきたのは、金髪のきれいな顔をしたイケメン。
(あれは、アルフォンスだ。エルルーアの記憶だと、腹違いの兄だったかな)
彩花は、内心は警戒しながらも、そんな気は微塵も見せずに、無邪気に笑う。
「どうしましたか?アルフォンスさま」
名前で呼ばれたことに、アルフォンスは少し驚いていた。
「用がなくては来てはダメか」
(アルフォンスは、お兄さまと呼ばれるのを嫌がった。だから、こう呼べば反応するかと思ったけど……予想通り)
ほくそ笑みそうになるのを抑えて、彩花はアルフォンスの言葉に返事する。
「いつも外せない用でしか来られませんから、そうかと思ったのですが……」
これは事実だ。どうしてもエルルーアに伝えなければならないときにしか、アルフォンスはエルルーアには会いに来なかった。
彩花は、申し訳なさそうにうつむく。本心はまったくそんなことは思っていないが。
「見に来ただけだ。もう戻る。しおらしいところはあの女とそっくりだな。髪色だけではないのか」
アルフォンスはしっかりと嫌味をつけ足してから、エルルーアの部屋を出ていった。彩花は『余計なお世話だ』と思いながらも、最後まで笑みを絶やさずに見送った。
(そういえば、栗色なのね)
彩花は、自分の髪をすくって、じっと見つめる。
(栗色の髪で、エルルーア……どこかで聞いた気がするけど……)
見たわけではなく、聞いたような気がする。どこだったかと記憶を探ると、ある言葉が浮かんだ。
『脇役の悪女がいるんだよね~、このゲーム!』
その言葉を発したのは、前世の友人の美月だ。それは、倒れる直前まで会話していた、ラビリンスの恋というゲームの話だった。
自分は、『悪女なのに脇役なの?』と不思議そうに返したのを思い出した。その後、美月が言ったのは、ある言葉。
『そーそー!エルルーアっていう栗色の髪の王女。こいつ、ゲームが始まる前に死んじゃうんだよね、暗殺者が来て。まぁ、極悪非道とか言われてたから、ファンの間では天罰だ!って騒がれたけど』
『私はさすがにかわいそうなんじゃない?って思ったわ~』と笑いながら美月はそう言っていた。あのときは、可哀想だと思うんならなんで笑うんだと内心あきれていた。
(そっか。美月が言っていた脇役の悪女がエルルーアだったんだ。私は冒険パートしかやらないからわからなかった)
台本を覚えたりするために、記憶力は鍛えていた彩花は、一度見聞きしたら覚えられるが、そもそも、そこまでテレビゲームなどに興味がなく、どちらかと言えば読書が好きだった彩花は、思い出すのに少し時間がかかった。
RPGのゲームをやり始めたのも、CMの依頼が来てからだった。
(待てよ。ということは、暗殺者が来て殺されるってこと……?)
美月の言っていることが事実なら、自分は死の運命にあるということだ。
(さすがに子供時代で死ぬのはゴメンだわ。せめてに大学生まで生きた前世くらいまでは生き永らえたい)
そうは思うが、いつ暗殺者が来るのかはわからない。ゲームが始まる前と言っていたので、それまでに来るだろうということしか。
(ゲームが始まるのは、学園が中等部に入ってから。今のエルルーアは、初等部だから……)
日本で作られた乙女ゲームだからか、学園の進級などは、日本に合わせてある。エルルーアは今は10歳なので、初等部四年になる。
初等部は六年までなので、この二年間の間に亡くなる。
今は、学園に行く時期だが、エルルーアが倒れてしまったため、この王城にいる。
(それなら、元気になれば復帰することになる。お城の生活基盤を整えようかと思ったけど、学園の名誉回復から始めた方がいいかもね)
運の良いことに、まだ進級してから間もない。1ヶ月もたっていなかった。なので、丸々三年残っているようなものだ。三年もあれば、汚名返上くらいはできるだろうと踏んだ。
「なら、次から復帰しないとね」
ため息をついて、ベッドに寝転がった。
国王の印象操作としては、上々だったのではないかと、彩花は自画自賛する。
まずは、マイナスをゼロに戻すところから始めなければならない。それには、相手が望むような王女になるのが大前提だ。
(エルルーアとして生きるのは別にいいけど、さすがに劣悪環境で育ちたいとは思わないわ)
今置かれている環境は、お世辞にも良い環境とは言いがたい。もちろん、部屋は豪華だ。宝石を使った装飾品があちこちにあるし、食事も豪勢。端から見れば、恵まれているように感じるだろう。
でも、彩花はわかっている。王族の食事やこういう装飾品は、民の血税だ。民は、自分たちの暮らしがよくなると思って税を納めているようなものなのに、こんな風に散財されていると知ったら、怒り狂うだろう。地球でも革命は何度もあった。その原因のほとんどは、血税が民に還元されなかったからだ。
「血税で公共施設を建てるとか、いろいろ使い道はあるだろうに……贅沢しか脳がないの?いや、これもエルルーアの作戦のうち……だったか」
彩花の持つエルルーアの記憶によれば、自分は愛されているんだと思いたかったエルルーアが、父親にいろいろとおねだりをしていた。可愛い娘のお願いなら聞いてくれるだろうと。
(どうせ、癇癪を起こされると面倒だから与えられていただけだったろうに)
哀愁ただようような顔で、彩花はエルルーアに同情しながらも、彼女の行動を否定した。
(……誰か来る)
芸能界で暮らしていたので、ストーカーのような被害もあった彩花は、気配察知に長けていた。もちろん、現代ではそれを隠し、相手が声をかけてきたり、視界に現れたときに、さも今気づきましたというように対応していた。
彩花は起き上がり、寝癖のようになった髪を軽く整える。
「おい」
ノックもせず入ってきたのは、金髪のきれいな顔をしたイケメン。
(あれは、アルフォンスだ。エルルーアの記憶だと、腹違いの兄だったかな)
彩花は、内心は警戒しながらも、そんな気は微塵も見せずに、無邪気に笑う。
「どうしましたか?アルフォンスさま」
名前で呼ばれたことに、アルフォンスは少し驚いていた。
「用がなくては来てはダメか」
(アルフォンスは、お兄さまと呼ばれるのを嫌がった。だから、こう呼べば反応するかと思ったけど……予想通り)
ほくそ笑みそうになるのを抑えて、彩花はアルフォンスの言葉に返事する。
「いつも外せない用でしか来られませんから、そうかと思ったのですが……」
これは事実だ。どうしてもエルルーアに伝えなければならないときにしか、アルフォンスはエルルーアには会いに来なかった。
彩花は、申し訳なさそうにうつむく。本心はまったくそんなことは思っていないが。
「見に来ただけだ。もう戻る。しおらしいところはあの女とそっくりだな。髪色だけではないのか」
アルフォンスはしっかりと嫌味をつけ足してから、エルルーアの部屋を出ていった。彩花は『余計なお世話だ』と思いながらも、最後まで笑みを絶やさずに見送った。
(そういえば、栗色なのね)
彩花は、自分の髪をすくって、じっと見つめる。
(栗色の髪で、エルルーア……どこかで聞いた気がするけど……)
見たわけではなく、聞いたような気がする。どこだったかと記憶を探ると、ある言葉が浮かんだ。
『脇役の悪女がいるんだよね~、このゲーム!』
その言葉を発したのは、前世の友人の美月だ。それは、倒れる直前まで会話していた、ラビリンスの恋というゲームの話だった。
自分は、『悪女なのに脇役なの?』と不思議そうに返したのを思い出した。その後、美月が言ったのは、ある言葉。
『そーそー!エルルーアっていう栗色の髪の王女。こいつ、ゲームが始まる前に死んじゃうんだよね、暗殺者が来て。まぁ、極悪非道とか言われてたから、ファンの間では天罰だ!って騒がれたけど』
『私はさすがにかわいそうなんじゃない?って思ったわ~』と笑いながら美月はそう言っていた。あのときは、可哀想だと思うんならなんで笑うんだと内心あきれていた。
(そっか。美月が言っていた脇役の悪女がエルルーアだったんだ。私は冒険パートしかやらないからわからなかった)
台本を覚えたりするために、記憶力は鍛えていた彩花は、一度見聞きしたら覚えられるが、そもそも、そこまでテレビゲームなどに興味がなく、どちらかと言えば読書が好きだった彩花は、思い出すのに少し時間がかかった。
RPGのゲームをやり始めたのも、CMの依頼が来てからだった。
(待てよ。ということは、暗殺者が来て殺されるってこと……?)
美月の言っていることが事実なら、自分は死の運命にあるということだ。
(さすがに子供時代で死ぬのはゴメンだわ。せめてに大学生まで生きた前世くらいまでは生き永らえたい)
そうは思うが、いつ暗殺者が来るのかはわからない。ゲームが始まる前と言っていたので、それまでに来るだろうということしか。
(ゲームが始まるのは、学園が中等部に入ってから。今のエルルーアは、初等部だから……)
日本で作られた乙女ゲームだからか、学園の進級などは、日本に合わせてある。エルルーアは今は10歳なので、初等部四年になる。
初等部は六年までなので、この二年間の間に亡くなる。
今は、学園に行く時期だが、エルルーアが倒れてしまったため、この王城にいる。
(それなら、元気になれば復帰することになる。お城の生活基盤を整えようかと思ったけど、学園の名誉回復から始めた方がいいかもね)
運の良いことに、まだ進級してから間もない。1ヶ月もたっていなかった。なので、丸々三年残っているようなものだ。三年もあれば、汚名返上くらいはできるだろうと踏んだ。
「なら、次から復帰しないとね」
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