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.第9章 穏やかな日々
222 1か月遅れの誕生日祝い(1)
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次に栄太兄に会ったのは、4月の頭だった。3月いっぱいで前職の引き継ぎを終えた栄太兄は、5月まで1ヶ月、久々にゆっくり過ごすらしい。
そうと分かってれば、バイトも控えめにしたのに。
――とは思ったけど、後の祭りだ。三月中のシフトはもうバレンタインデーの頃には決めて、みっちり入れてしまったから、せめて春休みの終わりにあたる4月頭は栄太兄と過ごそうと、バイトは控えめにした。
栄太兄は一か月遅れの誕生日祝いを提案してくれて、私もありがたくそれに甘えることにした。横浜駅で合流して、昼食を摂ってからプレゼントを買いに行った。
私が選んだのは、就活でも使えそうなベージュのスプリングコートだ。裏地が取り外しできるから、真夏以外は使えそう。
ほくほく顔の私に、栄太兄は苦笑した。
「実用的なもの選びはるなぁ」
「うん。だって、せっかくだったらたくさん使えるものにしたい」
買ったコートは栄太兄が持ってくれて、横浜駅から電車で移動した先は栄太兄の家の最寄り駅だ。
すぐ横で揺れる大きな手には、何だか気恥ずかしくて手を伸ばせない。
変なの……バレンタインデーのときには気にせず握れたのに。
「でも、気に入ったものがすぐあってよかったな。事前に見とったん?」
「うん、でも他の店舗で。同じのがあってよかった」
「そうか」
私は栄太兄を見上げた。
「栄太兄も、あんまり嫌いじゃないんだね。女の人の買い物つき合うの」
一人っ子なのに何でだろう。「やっぱり和歌子さん?」と言うと、栄太兄が笑った。
「あー、母さんの買い物はすごいで。職人の目みたいになりはって、一つ買うんに3日は費やすわ。必ず試着するし、ちょっとでも気になるとこがあったら買わへんし――ああ、そうか。もしかして政人がそれにつき合うてた話でも聞いたんか?」
「うん。――そうなんだ、そんなにすごいんだ」
徹底してるなぁ、和歌子さん。それがまた、同性から見たらカッコいいんだけど、異性から見たら違うのかな。
「母さんはそんな人やて知ってるのに、父さん、プロポーズのとき自分で指輪買うて行ってん。今や鉄板ネタやで、『自分で選びたかったのに』って――」
「あ、それ知ってる。だからお父さん、お母さんと指輪買いに行ったって」
「せやろ。隼人兄ちゃんもそうやで」
和歌子さんの影響力が大きすぎて思わず笑う。
「でも、男にしたらあれや、箱、カパッて開けるやつ、ちょっとやってみたいやんか」
「え、そういうもんなの?」
「そういうもんやろ」
二人で笑っていたら、その空気がすごく愛おしく思えて、どうしても近づきたくなって、栄太兄の肘にそっと手を触れた。
栄太兄はちょっとだけ驚いた顔をした後微笑んで、腕を上げたかと思えば私の手を絡めとる。
子どものときに握っていたのとは違う、恋人繋ぎ。
あのときは保護者と子どもだった関係が、ちゃんと恋人に変わったことが実感できて。
「……えへ」
照れ臭くて嬉しくて、うつむいてにやけ顔を隠すと、栄太兄がくすりと笑った。
それからは、何となく二人とも会話を失くして、ただ窓の外に流れる風景を黙って眺めていた。
***
栄太兄の家までは、駅から徒歩で十分ちょっとの距離だ。私のリクエストだから家に招くけれど、「暗くなる前に送り返す」と事前に言われているから、あんまり長居はできないと心構えはしている。
二人で手を繋いで歩きながら、「いっつもここで買い物してるの?」とか、「こっちは市民センターなんだね」とか、小さな発見を楽しんだ。
乗り換えに使う以外にあまり降りたことのないその駅は、いつも駅周辺止まりで外に出たことがない。
日差しのあるところはぽかぽかしているけれど、陰っているところは涼しい。もう季節はすっかり春だ。桜はほとんど散って、葉桜になっている。そういえば今年は花見もしなかったな、なんてふと思いながら、道に散る桜の花に目をやる。
「着いたで」
「あ、うん」
アパートの外階段を昇って、栄太兄の家に向かう。栄太兄の家は四階建てのアパートの三階、一番奥の家だ。エレベーターはないから、コンクリート造りの階段を使う。
家の前まで着くと、栄太兄がカギを開けて中へ入った。私も「お邪魔します」と声をかけながらおずおず中へ入る。
ふわ、と漂った匂いに、どきんとする。まだ真新しい匂いもあったけれど、もう引越しを手伝いに来たときの匂いとは違う。
――栄太兄の匂いだ。
そう気づくと身体が熱くなって、嬉しくて恥ずかしくて切なくて、玄関先で立ちすくむ。
「飲み物、何か買うてくればよかったな。お茶でもええか? 今、コーヒー豆切らしてんねん」
言いながら、栄太兄が靴を脱いで中へ入る。その背中が目の前にあって、一歩踏み出したのは無意識だった。
ぎゅう、と栄太兄の背中に抱き着く。胸いっぱいに、栄太兄の匂いを吸い込んだ。
「――礼奈?」
戸惑った栄太兄の声がして、こちらを向く。私も少し腕を緩めて、その胸に額を寄せる。
「……なんや、どうした、急に」
驚いているらしい栄太兄の声は、ちょっとだけ掠れていた。私は黙ったまま、顔をぐりぐりと栄太兄の胸に押し付ける。わずかな隙間も離れたくなくて、ぎゅうと腕に力をこめる。
どきどきどきどき、心臓がうるさい。身体中が心臓になったみたいな、内側から和太鼓を叩かれているようなーー自分の心臓の音のせいで、栄太兄の心臓の音が聞こえない。
――栄太兄も、ドキドキしてくれてるのかな。
緩慢な栄太兄の動きは、私ほど動揺してるようには思えない。そのことが何だか悔しくて、でもいいんだ、と自分に言い聞かせる。
だって、今はもう、私は栄太兄の恋人なんだから。
こいびと、という言葉を思い浮かべる度、気恥ずかしさと喜びで頭の中が沸騰しそうになる。えいたにいのこいびと。でも、会わないときにはそれもまだ疑わしくて、確かめたくて、私の誕生日以降、二日に一回のペースで電話をかけてしまっている。
仕事をしている栄太兄には悪いと思ったのだけど、栄太兄は「出られへんときは出ぇへんから、気にせんでええよ」と私の電話を嫌がることもない。お風呂に入っていたりして、出てくれないときもあったけど、そういうときには栄太兄からかけなおしてくれた。
その日にあったことを話して。
お疲れさま、と言い合って。
――おやすみ、で締める。
耳の中に栄太兄の声が残ったまま眠りにつくのは、本当に幸せで。
でも、同時に、物足りなくて。
会ったら、もっと触れたいと思っていたのに、人前ではさすがにべたべたできなくて。
今の今まで我慢していたのが、急に爆発してしまったみたいだ。
何も言わずにお腹に抱き着いたままの私を、栄太兄はしばらく背中を叩いたりしていたけれど、荷物を横に下ろしたかと思えば、ゆっくりと手を回してくれた。
――う、わ。
栄太兄のぬくもりに包まれて。
窒息しそうなくらい、栄太兄の匂いを感じて。
心臓が、口から出そう。
頭が真っ白だ。
栄太兄の手は、私の背中と後頭部を柔らかくとらえている。
――あ、やだ、泣きそう。
私はぎゅっと目をつぶって、栄太兄にもう一度強く抱き着く。
身体が小さく震え始めた。
――こんな温もりを、私は諦めようとしてただなんて。
信じられない。無理だ。栄太兄がいない世界なんて、私には耐えられない。
こんなにあたたかくて、ドキドキして、なのに安心できる場所なんて、他にない。
気持ちが溢れてくるのを抑えるように、腕に力をこめる。栄太兄が私の頭の撫でる。頭に寄せた口元から、わずかな吐息が耳を撫でる。
――好き。
誕生日のとき、お酒を飲んだ勢いに任せて、何度もそう口にしたことを思い出す。
嘘でも冗談でも何でもない。胸に抑えていた気持ちが、素直に口をついて出ただけだ。
何度言ったって、言い足りない。思春期のとき、素直に言えなくなってから、今までの分、飲み込んだ想いは何度でも――
「……好きやで」
囁く声がして、ぞわっと悪寒が走った。
嬉しすぎて、鳥肌が立つことなんて、あるんだ。
私はおずおずと、顔を上げる。栄太兄の目を覗き込む。
栄太兄はちょっと恥ずかしそうな微笑みを浮かべて、私を見下ろしていた。
「――約束やったからな。ちゃんと言うたで」
そのくらいで、誇らしげにしないでよ。
私は半ば笑いながら、唇を尖らせる。
「足りないもん」
「え?」
「全然、足りない」
私は言うと、また栄太兄の胸に頬を寄せた。
「……もっとたくさん言って」
私が言うよりも、もっと。
「――そうだ」
ぱっと顔を上げた私に、栄太兄が戸惑うような目を向ける。
「なんや?」
「いいこと思いついたの」
栄太兄の背中に手を回したまま、私は目を輝かせる。
「私よりも、栄太兄の方が、多く言うってことにしよう」
「――何を?」
「好きって」
私の言葉に、栄太兄は目を泳がせた。私は笑う。
「だって、小さいときの私が好きって言っても、栄太兄は『おおきに』って言うだけだったもん。だから、その分も、私に言って」
「それは――お前――意味合いが」
「違わない」
力強く、私は首を横に振る。絶句する栄太兄に、私は笑った。
「ずっと、変わらないもん。私はずっと、栄太兄が好き」
栄太兄は困った顔で、「……今のもカウントするんか?」と情けない声を出した。
そうと分かってれば、バイトも控えめにしたのに。
――とは思ったけど、後の祭りだ。三月中のシフトはもうバレンタインデーの頃には決めて、みっちり入れてしまったから、せめて春休みの終わりにあたる4月頭は栄太兄と過ごそうと、バイトは控えめにした。
栄太兄は一か月遅れの誕生日祝いを提案してくれて、私もありがたくそれに甘えることにした。横浜駅で合流して、昼食を摂ってからプレゼントを買いに行った。
私が選んだのは、就活でも使えそうなベージュのスプリングコートだ。裏地が取り外しできるから、真夏以外は使えそう。
ほくほく顔の私に、栄太兄は苦笑した。
「実用的なもの選びはるなぁ」
「うん。だって、せっかくだったらたくさん使えるものにしたい」
買ったコートは栄太兄が持ってくれて、横浜駅から電車で移動した先は栄太兄の家の最寄り駅だ。
すぐ横で揺れる大きな手には、何だか気恥ずかしくて手を伸ばせない。
変なの……バレンタインデーのときには気にせず握れたのに。
「でも、気に入ったものがすぐあってよかったな。事前に見とったん?」
「うん、でも他の店舗で。同じのがあってよかった」
「そうか」
私は栄太兄を見上げた。
「栄太兄も、あんまり嫌いじゃないんだね。女の人の買い物つき合うの」
一人っ子なのに何でだろう。「やっぱり和歌子さん?」と言うと、栄太兄が笑った。
「あー、母さんの買い物はすごいで。職人の目みたいになりはって、一つ買うんに3日は費やすわ。必ず試着するし、ちょっとでも気になるとこがあったら買わへんし――ああ、そうか。もしかして政人がそれにつき合うてた話でも聞いたんか?」
「うん。――そうなんだ、そんなにすごいんだ」
徹底してるなぁ、和歌子さん。それがまた、同性から見たらカッコいいんだけど、異性から見たら違うのかな。
「母さんはそんな人やて知ってるのに、父さん、プロポーズのとき自分で指輪買うて行ってん。今や鉄板ネタやで、『自分で選びたかったのに』って――」
「あ、それ知ってる。だからお父さん、お母さんと指輪買いに行ったって」
「せやろ。隼人兄ちゃんもそうやで」
和歌子さんの影響力が大きすぎて思わず笑う。
「でも、男にしたらあれや、箱、カパッて開けるやつ、ちょっとやってみたいやんか」
「え、そういうもんなの?」
「そういうもんやろ」
二人で笑っていたら、その空気がすごく愛おしく思えて、どうしても近づきたくなって、栄太兄の肘にそっと手を触れた。
栄太兄はちょっとだけ驚いた顔をした後微笑んで、腕を上げたかと思えば私の手を絡めとる。
子どものときに握っていたのとは違う、恋人繋ぎ。
あのときは保護者と子どもだった関係が、ちゃんと恋人に変わったことが実感できて。
「……えへ」
照れ臭くて嬉しくて、うつむいてにやけ顔を隠すと、栄太兄がくすりと笑った。
それからは、何となく二人とも会話を失くして、ただ窓の外に流れる風景を黙って眺めていた。
***
栄太兄の家までは、駅から徒歩で十分ちょっとの距離だ。私のリクエストだから家に招くけれど、「暗くなる前に送り返す」と事前に言われているから、あんまり長居はできないと心構えはしている。
二人で手を繋いで歩きながら、「いっつもここで買い物してるの?」とか、「こっちは市民センターなんだね」とか、小さな発見を楽しんだ。
乗り換えに使う以外にあまり降りたことのないその駅は、いつも駅周辺止まりで外に出たことがない。
日差しのあるところはぽかぽかしているけれど、陰っているところは涼しい。もう季節はすっかり春だ。桜はほとんど散って、葉桜になっている。そういえば今年は花見もしなかったな、なんてふと思いながら、道に散る桜の花に目をやる。
「着いたで」
「あ、うん」
アパートの外階段を昇って、栄太兄の家に向かう。栄太兄の家は四階建てのアパートの三階、一番奥の家だ。エレベーターはないから、コンクリート造りの階段を使う。
家の前まで着くと、栄太兄がカギを開けて中へ入った。私も「お邪魔します」と声をかけながらおずおず中へ入る。
ふわ、と漂った匂いに、どきんとする。まだ真新しい匂いもあったけれど、もう引越しを手伝いに来たときの匂いとは違う。
――栄太兄の匂いだ。
そう気づくと身体が熱くなって、嬉しくて恥ずかしくて切なくて、玄関先で立ちすくむ。
「飲み物、何か買うてくればよかったな。お茶でもええか? 今、コーヒー豆切らしてんねん」
言いながら、栄太兄が靴を脱いで中へ入る。その背中が目の前にあって、一歩踏み出したのは無意識だった。
ぎゅう、と栄太兄の背中に抱き着く。胸いっぱいに、栄太兄の匂いを吸い込んだ。
「――礼奈?」
戸惑った栄太兄の声がして、こちらを向く。私も少し腕を緩めて、その胸に額を寄せる。
「……なんや、どうした、急に」
驚いているらしい栄太兄の声は、ちょっとだけ掠れていた。私は黙ったまま、顔をぐりぐりと栄太兄の胸に押し付ける。わずかな隙間も離れたくなくて、ぎゅうと腕に力をこめる。
どきどきどきどき、心臓がうるさい。身体中が心臓になったみたいな、内側から和太鼓を叩かれているようなーー自分の心臓の音のせいで、栄太兄の心臓の音が聞こえない。
――栄太兄も、ドキドキしてくれてるのかな。
緩慢な栄太兄の動きは、私ほど動揺してるようには思えない。そのことが何だか悔しくて、でもいいんだ、と自分に言い聞かせる。
だって、今はもう、私は栄太兄の恋人なんだから。
こいびと、という言葉を思い浮かべる度、気恥ずかしさと喜びで頭の中が沸騰しそうになる。えいたにいのこいびと。でも、会わないときにはそれもまだ疑わしくて、確かめたくて、私の誕生日以降、二日に一回のペースで電話をかけてしまっている。
仕事をしている栄太兄には悪いと思ったのだけど、栄太兄は「出られへんときは出ぇへんから、気にせんでええよ」と私の電話を嫌がることもない。お風呂に入っていたりして、出てくれないときもあったけど、そういうときには栄太兄からかけなおしてくれた。
その日にあったことを話して。
お疲れさま、と言い合って。
――おやすみ、で締める。
耳の中に栄太兄の声が残ったまま眠りにつくのは、本当に幸せで。
でも、同時に、物足りなくて。
会ったら、もっと触れたいと思っていたのに、人前ではさすがにべたべたできなくて。
今の今まで我慢していたのが、急に爆発してしまったみたいだ。
何も言わずにお腹に抱き着いたままの私を、栄太兄はしばらく背中を叩いたりしていたけれど、荷物を横に下ろしたかと思えば、ゆっくりと手を回してくれた。
――う、わ。
栄太兄のぬくもりに包まれて。
窒息しそうなくらい、栄太兄の匂いを感じて。
心臓が、口から出そう。
頭が真っ白だ。
栄太兄の手は、私の背中と後頭部を柔らかくとらえている。
――あ、やだ、泣きそう。
私はぎゅっと目をつぶって、栄太兄にもう一度強く抱き着く。
身体が小さく震え始めた。
――こんな温もりを、私は諦めようとしてただなんて。
信じられない。無理だ。栄太兄がいない世界なんて、私には耐えられない。
こんなにあたたかくて、ドキドキして、なのに安心できる場所なんて、他にない。
気持ちが溢れてくるのを抑えるように、腕に力をこめる。栄太兄が私の頭の撫でる。頭に寄せた口元から、わずかな吐息が耳を撫でる。
――好き。
誕生日のとき、お酒を飲んだ勢いに任せて、何度もそう口にしたことを思い出す。
嘘でも冗談でも何でもない。胸に抑えていた気持ちが、素直に口をついて出ただけだ。
何度言ったって、言い足りない。思春期のとき、素直に言えなくなってから、今までの分、飲み込んだ想いは何度でも――
「……好きやで」
囁く声がして、ぞわっと悪寒が走った。
嬉しすぎて、鳥肌が立つことなんて、あるんだ。
私はおずおずと、顔を上げる。栄太兄の目を覗き込む。
栄太兄はちょっと恥ずかしそうな微笑みを浮かべて、私を見下ろしていた。
「――約束やったからな。ちゃんと言うたで」
そのくらいで、誇らしげにしないでよ。
私は半ば笑いながら、唇を尖らせる。
「足りないもん」
「え?」
「全然、足りない」
私は言うと、また栄太兄の胸に頬を寄せた。
「……もっとたくさん言って」
私が言うよりも、もっと。
「――そうだ」
ぱっと顔を上げた私に、栄太兄が戸惑うような目を向ける。
「なんや?」
「いいこと思いついたの」
栄太兄の背中に手を回したまま、私は目を輝かせる。
「私よりも、栄太兄の方が、多く言うってことにしよう」
「――何を?」
「好きって」
私の言葉に、栄太兄は目を泳がせた。私は笑う。
「だって、小さいときの私が好きって言っても、栄太兄は『おおきに』って言うだけだったもん。だから、その分も、私に言って」
「それは――お前――意味合いが」
「違わない」
力強く、私は首を横に振る。絶句する栄太兄に、私は笑った。
「ずっと、変わらないもん。私はずっと、栄太兄が好き」
栄太兄は困った顔で、「……今のもカウントするんか?」と情けない声を出した。
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