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01桐木純架君
折れたチョーク事件05
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「だから僕は高い確率で君が犯人だと思っていたよ。まあ本当は違っていてほしかったけどね。それにしても宮古先生が好きだっていうなら、素直に愛の告白をしていれば良かったのに。何でそれがチョークを盗むという犯罪行為に捻じ曲がるのか、僕にはまるで理解できないよ」
胸に手を当てた。
「以上がこの事件の全貌さ」
厳しい表情に戻り、難詰するように奈緒へ向かって相談する。
「さて、どうする? 宮古先生に全てを洗いざらいぶちまけるかい? そうして被害者の先生にたっぷり叱られることが、今の飯田さんには必要だと思うけど」
「見逃して」
奈緒は面を上げた。両目尻が赤い。ピンクのハンカチを鼻に当てて水分を吸わせる。
「間違ったことをした、やってはいけないことをやった、そのことはよく分かってる。申し訳ない気持ちで一杯だし、本当に後悔してる。でも、それでも宮古先生に嫌われたくない。私、先生を愛してるもの。私の隠れた性癖を知られたら、もう生きていけない」
また涙が溢れてきた。俺は無残な状況に置かれた彼女から目を逸らしたかったが、眼球は主の意思を無視して釘付けとなる。奈緒はか細い声を絞り出した。
「お願い、二人とも。どうか宮古先生には黙っていて。何でもするから……」
俺は胸が苦しくて何も言えない。恋を表明できない彼女の気持ちが痛いほどよく分かったからだ。俺も、彼女と同じだ。
純架が奈緒を見下ろしつつ険しい声を出した。
「本当に何でもする?」
「うん」
「本当の本当に?」
「うん。何でもする」
「絶対だね」
「もちろんよ」
おいおい純架、奈緒に何をやらせる気だよ。
純架が人差し指を立てた。峻厳な雰囲気の中、その声が朗々と響く。
「じゃあ遠慮なく僕の言うことを聞いてもらおう。飯田さん……」
「何?」
「『探偵同好会』の秘書を務めてくれ」
俺と奈緒は純架のいたずらっぽい笑顔を穴が開くほど見つめた。何言ってんだ、こいつ?
「おい純架、冗談はよせ」
「冗談なんかじゃないよ。僕は本気だ。宮古先生に黙っている代わりに、飯田さんには仲間になってほしいんだ。ただでさえ僕と楼路君の二人で少ないんだからね。それに社交的で誰とでも打ち解けられる飯田さんは、『探偵同好会』の情報収集活動においても大いに役立ってくれるはずだよ。……どうだい、飯田さん」
「入る」
奈緒は意外にもあっさり承諾した。二つ返事というやつである。
「それで告げ口を塞いでくれるなら、喜んで『探偵同好会』に入会する。どんな会なのか知らないけど……」
そんなに宮古先生が大好きなのか。俺は敗北感を噛み締めた。奈緒は担任の教師が好きだと周囲に告げられず、だからあんな煙に巻くような言葉で俺や俺の同類をあしらってきたわけだ。それが違和感の正体ということか。
純架は『探偵同好会』について、奈緒へ簡潔に説明した。
「会長の僕が脳で、助手の楼路君が体で、異論・反論・オブジェクションを解決していく同好会だよ。まあ、今やってるようなことをする会さ」
さっぱり伝わらないだろう。
純架は英国紳士のように、優雅に手を差し伸べた。
「さ、立って」
奈緒はその掌を凝視する。程なく右手を重ねた。
「これで決まりだね。ようこそ、『探偵同好会』へ!」
純架は彼女を引っ張り上げた。
これで『探偵同好会』は3名となり、同好会として体をなすこととなった。最初は戸惑っていた俺も、恋する相手の奈緒が入会してくれたわけで、嬉しくないはずがなかった。
もっとも、彼女は俺を好きでも何でもないんだが……
胸に手を当てた。
「以上がこの事件の全貌さ」
厳しい表情に戻り、難詰するように奈緒へ向かって相談する。
「さて、どうする? 宮古先生に全てを洗いざらいぶちまけるかい? そうして被害者の先生にたっぷり叱られることが、今の飯田さんには必要だと思うけど」
「見逃して」
奈緒は面を上げた。両目尻が赤い。ピンクのハンカチを鼻に当てて水分を吸わせる。
「間違ったことをした、やってはいけないことをやった、そのことはよく分かってる。申し訳ない気持ちで一杯だし、本当に後悔してる。でも、それでも宮古先生に嫌われたくない。私、先生を愛してるもの。私の隠れた性癖を知られたら、もう生きていけない」
また涙が溢れてきた。俺は無残な状況に置かれた彼女から目を逸らしたかったが、眼球は主の意思を無視して釘付けとなる。奈緒はか細い声を絞り出した。
「お願い、二人とも。どうか宮古先生には黙っていて。何でもするから……」
俺は胸が苦しくて何も言えない。恋を表明できない彼女の気持ちが痛いほどよく分かったからだ。俺も、彼女と同じだ。
純架が奈緒を見下ろしつつ険しい声を出した。
「本当に何でもする?」
「うん」
「本当の本当に?」
「うん。何でもする」
「絶対だね」
「もちろんよ」
おいおい純架、奈緒に何をやらせる気だよ。
純架が人差し指を立てた。峻厳な雰囲気の中、その声が朗々と響く。
「じゃあ遠慮なく僕の言うことを聞いてもらおう。飯田さん……」
「何?」
「『探偵同好会』の秘書を務めてくれ」
俺と奈緒は純架のいたずらっぽい笑顔を穴が開くほど見つめた。何言ってんだ、こいつ?
「おい純架、冗談はよせ」
「冗談なんかじゃないよ。僕は本気だ。宮古先生に黙っている代わりに、飯田さんには仲間になってほしいんだ。ただでさえ僕と楼路君の二人で少ないんだからね。それに社交的で誰とでも打ち解けられる飯田さんは、『探偵同好会』の情報収集活動においても大いに役立ってくれるはずだよ。……どうだい、飯田さん」
「入る」
奈緒は意外にもあっさり承諾した。二つ返事というやつである。
「それで告げ口を塞いでくれるなら、喜んで『探偵同好会』に入会する。どんな会なのか知らないけど……」
そんなに宮古先生が大好きなのか。俺は敗北感を噛み締めた。奈緒は担任の教師が好きだと周囲に告げられず、だからあんな煙に巻くような言葉で俺や俺の同類をあしらってきたわけだ。それが違和感の正体ということか。
純架は『探偵同好会』について、奈緒へ簡潔に説明した。
「会長の僕が脳で、助手の楼路君が体で、異論・反論・オブジェクションを解決していく同好会だよ。まあ、今やってるようなことをする会さ」
さっぱり伝わらないだろう。
純架は英国紳士のように、優雅に手を差し伸べた。
「さ、立って」
奈緒はその掌を凝視する。程なく右手を重ねた。
「これで決まりだね。ようこそ、『探偵同好会』へ!」
純架は彼女を引っ張り上げた。
これで『探偵同好会』は3名となり、同好会として体をなすこととなった。最初は戸惑っていた俺も、恋する相手の奈緒が入会してくれたわけで、嬉しくないはずがなかった。
もっとも、彼女は俺を好きでも何でもないんだが……
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