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24.相棒の様子がおかしいです
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デート直前の陛下に、お兄様がレンシア王国に来ていることを伝えた。
お兄様が王都に潜んでいる以上、陛下と妃殿下が王都に出るのは危険だと忠告したのに、陛下は全く聞く耳を持たなくて。
それどころか、私とラファエルが守ってくれるから問題ないと言って、デートを強行突破した。
(おかげで昨日は胃が痛かったわ)
神経を尖らせた状態で一日中歩き回ることには慣れているけれど、相手がお兄様となると、疲労度が桁違いに変わる。
(無事にデートが終わったから良かったけれど、お兄様がこの国から出て行った証拠を掴まない限りは不安が尽きないわね)
不安の芽は早く摘むに限る。
私は陛下に申し出て、お兄様の捜査に乗り出した。
まず調査したのは、王宮内に出入りする人。
お兄様が関係者に変装して入り込んでいると、私の命どころか陛下や妃殿下の命が危ないから、すぐに調べた。
普段は見かけない顔の行商人や、怪しげな人物を見つけるとすぐに後をつけてみたのだけれど、お兄様の気配を感じ取れなかった。
続いて調査したのは王都だ。
変装するため、魔法で髪の色を黒色に変えて、シャツと黒色のトラウザーズにレースアップのブーツを合わせた。
今の私はどこからどう見ても、女性の冒険者だ。
(お兄様ならきっと、私がどんな人物に変装していても気づくはずよ)
次に見つかると、どうなってしまうのだろうか。
ふと、そのような考えが私の足を止めた。
もしお兄様が私を殺しに来たのであれば、私は確実に殺されてしまうだろう。
陛下の隠密として力をつけた今でさえ、お兄様には敵わないとわかっている。
(ラファエルに、何か伝えておくべきだったかもしれない)
死を意識した時、なぜか一番最初に、ラファエルの顔が思い浮かんだ。
私にもしものことがあった時、彼は泣いてくれるだろうか。
(……うん。ラファエルならきっと、泣いてくれそうね)
仲間想いで、表情が豊かな彼のことだからきっと、舞踏会の夜に別室で見たようにべそべそと泣くだろう。
自分のために泣いてくれる人がいるというのは、案外悪いものでもない。
(だけど、ラファエルと別れるのは……嫌だな)
これまでに死を意識するような危険な任務に関わったことが何度かあったけれど、こんなにも命を惜しむのは初めてだ。
生き残って、次の日にはまたラファエルと顔を合わせて、何気ない言葉を交わしたい。
そんな欲が、生まれてしまった。
「私……ラファエルに執着しているのね」
たった一人に、自分でもどうしようもないほど強い想いを抱いてしまう。
これまでは気にも留めなかったことにさえ気になってしまい、ただひたすら彼のことを考えてしまう。
それが恋をするということなのだと、ようやく腑に落ちた。
(よりによって、こんな時に自覚するなんて……)
お兄様という強敵をどうにかして見つけ出さなければならないのに、生き残ってラファエルに会うためにも対峙したくないと思ってしまう。
恋とはなんて煩わしいものなのだろう。
そっとため息をついて、私は気持ちを切り替えて捜査に集中した。
日中は人ごみに紛れて王都を練り歩き、夜には酒場を転々と回った。
街を隅々まで隈なく探したというのに、お兄様の姿や気配がない。
手がかりを求めて露店に立つ商人や酒場の客たちの話を盗み聞きしていたけれど、お兄様に関する情報を得られなかった。
(完全に痕跡を消しているわね。困ったわ)
収穫を得られないまま王宮に戻り、陛下に報告しに行くと、執務室の扉の前でラファエルに会った。
「あ、ラファエ――」
「ご、ごめん! 急いでいるから、話はまた今度ね」
ラファエルは私の声を遮るように謝ると、そそくさと立ち去ってしまった。
(……ラファエルに避けられているような気がするのは、思い込みなのかしら?)
いつもなら顔を見るなり話しかけてくるのに、先ほどは目を合わせようとすらしなかった。
ラファエルに声をかけてもらえると期待していたから、そう思ってしまうのだろうか。
胸の内に不安が渦巻いて、次々と嫌な予感が頭の中に浮かぶ。
「もしかして、私の気持ちに気づいてしまったから、私のことも怖くなったとか……?」
隠密に任命されるくらいだから、ラファエルも勘がいい。
だからこそ、私の心の変化に気づいたのかもしれない。
(またラファエルが目を合わせてくれなかったら、どうしよう?)
私から逃げるラファエルの姿を想像すると、鼻の奥がつんと痛くなった。
デート直前の陛下に、お兄様がレンシア王国に来ていることを伝えた。
お兄様が王都に潜んでいる以上、陛下と妃殿下が王都に出るのは危険だと忠告したのに、陛下は全く聞く耳を持たなくて。
それどころか、私とラファエルが守ってくれるから問題ないと言って、デートを強行突破した。
(おかげで昨日は胃が痛かったわ)
神経を尖らせた状態で一日中歩き回ることには慣れているけれど、相手がお兄様となると、疲労度が桁違いに変わる。
(無事にデートが終わったから良かったけれど、お兄様がこの国から出て行った証拠を掴まない限りは不安が尽きないわね)
不安の芽は早く摘むに限る。
私は陛下に申し出て、お兄様の捜査に乗り出した。
まず調査したのは、王宮内に出入りする人。
お兄様が関係者に変装して入り込んでいると、私の命どころか陛下や妃殿下の命が危ないから、すぐに調べた。
普段は見かけない顔の行商人や、怪しげな人物を見つけるとすぐに後をつけてみたのだけれど、お兄様の気配を感じ取れなかった。
続いて調査したのは王都だ。
変装するため、魔法で髪の色を黒色に変えて、シャツと黒色のトラウザーズにレースアップのブーツを合わせた。
今の私はどこからどう見ても、女性の冒険者だ。
(お兄様ならきっと、私がどんな人物に変装していても気づくはずよ)
次に見つかると、どうなってしまうのだろうか。
ふと、そのような考えが私の足を止めた。
もしお兄様が私を殺しに来たのであれば、私は確実に殺されてしまうだろう。
陛下の隠密として力をつけた今でさえ、お兄様には敵わないとわかっている。
(ラファエルに、何か伝えておくべきだったかもしれない)
死を意識した時、なぜか一番最初に、ラファエルの顔が思い浮かんだ。
私にもしものことがあった時、彼は泣いてくれるだろうか。
(……うん。ラファエルならきっと、泣いてくれそうね)
仲間想いで、表情が豊かな彼のことだからきっと、舞踏会の夜に別室で見たようにべそべそと泣くだろう。
自分のために泣いてくれる人がいるというのは、案外悪いものでもない。
(だけど、ラファエルと別れるのは……嫌だな)
これまでに死を意識するような危険な任務に関わったことが何度かあったけれど、こんなにも命を惜しむのは初めてだ。
生き残って、次の日にはまたラファエルと顔を合わせて、何気ない言葉を交わしたい。
そんな欲が、生まれてしまった。
「私……ラファエルに執着しているのね」
たった一人に、自分でもどうしようもないほど強い想いを抱いてしまう。
これまでは気にも留めなかったことにさえ気になってしまい、ただひたすら彼のことを考えてしまう。
それが恋をするということなのだと、ようやく腑に落ちた。
(よりによって、こんな時に自覚するなんて……)
お兄様という強敵をどうにかして見つけ出さなければならないのに、生き残ってラファエルに会うためにも対峙したくないと思ってしまう。
恋とはなんて煩わしいものなのだろう。
そっとため息をついて、私は気持ちを切り替えて捜査に集中した。
日中は人ごみに紛れて王都を練り歩き、夜には酒場を転々と回った。
街を隅々まで隈なく探したというのに、お兄様の姿や気配がない。
手がかりを求めて露店に立つ商人や酒場の客たちの話を盗み聞きしていたけれど、お兄様に関する情報を得られなかった。
(完全に痕跡を消しているわね。困ったわ)
収穫を得られないまま王宮に戻り、陛下に報告しに行くと、執務室の扉の前でラファエルに会った。
「あ、ラファエ――」
「ご、ごめん! 急いでいるから、話はまた今度ね」
ラファエルは私の声を遮るように謝ると、そそくさと立ち去ってしまった。
(……ラファエルに避けられているような気がするのは、思い込みなのかしら?)
いつもなら顔を見るなり話しかけてくるのに、先ほどは目を合わせようとすらしなかった。
ラファエルに声をかけてもらえると期待していたから、そう思ってしまうのだろうか。
胸の内に不安が渦巻いて、次々と嫌な予感が頭の中に浮かぶ。
「もしかして、私の気持ちに気づいてしまったから、私のことも怖くなったとか……?」
隠密に任命されるくらいだから、ラファエルも勘がいい。
だからこそ、私の心の変化に気づいたのかもしれない。
(またラファエルが目を合わせてくれなかったら、どうしよう?)
私から逃げるラファエルの姿を想像すると、鼻の奥がつんと痛くなった。
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