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12 無口な騎士の恋

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通学を再開して数日が経ち、ようやく休学について聞かれる事も少なくなって来た。
クリストファー殿下にも、あれ以来絡まれていない。
以前と変わらぬ平和な日常が戻って来た様な気がして嬉しい。

ただし、隣に常にレイモンドがいる事には、未だに違和感を感じてしまうのだが。


「姉上、早く行かなければ、日替わりランチが売り切れてしまいますよ」

「ハイハイ。ちょっと待ってよ」

「ハイは一回!」

母親なの?

授業後に教師に質問をしていたせいで、昼休みの食堂のランチ争奪戦に出遅れてしまった私は、レイに急かされながら廊下を足早に進んでいた。

(だから、先に行ってて良いって言ったのになぁ・・・)

レイは事件が解決するまで、学園内での私の護衛を続けるつもりでいるらしい。

と言うのも、この学園のルールでは、校舎内まで護衛騎士を伴う事が出来るのは王族のみとなっているのだ。
例え公爵令嬢でも、王太子の婚約者でも、命を狙われている可能性があっても、騎士を内部まで連れてくる事は出来ない。

その代わりに学園に雇われた警備担当の騎士が、常時至る所に配備されている。
どうしても個別の警護が必要な場合は、騎士科の中から優秀な学生を雇って、共に行動して貰うというのが一般的である。
同じ学園の学生であれば、授業中以外は警護が可能だから。
そしてその実績が卒業後の進路に有利に働く事もあるため、騎士科の生徒も積極的に護衛として雇われたがっている。
まさにWin-Winの関係だ。

私と暫く距離を置いている間に、レイは剣術の方もかなり厳しく叩き込まれて腕を上げていたらしく、「そこらへんの騎士よりもよっぽど強い」とお父様が言っていた。
だから素直に護られていた方が両親も安心なのだろう。


レイの背中を追いながら、ふと窓の外を見下ろすと、人気の少ない裏庭のベンチに見知った顔の二人が並んで居るのが目に入って、思わず足を止めた。

「姉上?」

私の手を引いて前を歩いていたレイが、怪訝な顔で振り返る。

私の視線の先にいたのは、マクレガー様とアシュトン嬢だった。
珍しく、殿下やデズモンド様はご一緒じゃ無いらしい。

声は聞こえないので何を話しているのかまでは分からないが、マクレガー様は見た事も無い様な柔らかな微笑みを浮かべながら、アシュトン嬢にあれこれ話し掛けている。
アシュトン嬢の方も楽しそうに無邪気な笑みを向けて、彼の腕に気軽に触れたりしている。
その様子は初々しい恋人同士の様に見えて、甘~い空気がここまで漂って来そうだ。

「天変地異でも起きているのかしら?」

私の視線を辿ったレイも驚いた顔をする。

「ああ、本当だ。
マクレガー殿とは思えないくらいにデレデレしてますね」

「あの方もあんな表情が出来たのね・・・・・・」

「何を話しているのか聞いてみたいです。
色んな意味で」

「確かに」

事件解決のヒントになるかもしれないし、単純に野次馬的な意味での興味もある。



ジェイク・マクレガー伯爵令息は、いつも無口で無表情である。

学園に入る前まではもう少し明るい性格で、父である騎士団長の様になりたいと、必死で鍛錬に励む純粋な少年だった様に思う。
それがいつの間にか、この様な無愛想な青年になってしまった。

デズモンド様はいつも微笑んで居るのに目が笑っていなくて、何を考えているのか読み難い人物であるが、マクレガー様もまた違った意味で何を考えているのかよく分からない。

一つだけ分かっていたのは、アシュトン嬢を殿下と同じくらいに大切にしていると言う事。
それは臣下として主君の大事な女性を気に掛け、護っている様にも見えていたのだが・・・・・・。

ただこの二人の雰囲気を見る限り、マクレガー様がアシュトン嬢に恋情を抱いているのは明らかである。
ただし、どんなに思わせ振りな態度をしていても、アシュトン嬢の方の本命はあくまでもクリストファー殿下だろうと思う。

仮に、彼が彼女に恋をしているのだとして・・・・・・

彼女の気持ちを優先して自分の想いを押し殺し、殿下との恋を応援してあげているのか、それとも、なんとしてでも自分の方を振り向いて欲しいと考えているのか、どちらなのだろう?
それによって私を害する動機があるかが変わってくる。


先日殿下に談話室に呼ばれた際も、その前の側妃教育の話の時も、彼は一切口を開かなかった。
だが、なんとも言えない複雑な表情をしている様にも見えた。
あれはどの様な感情を表していたのだろうか?
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