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15.壊したもの、直したいんだ!

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 シーツ、大きいから重いなあ……洗濯場まですごく遠く感じる。よろよろしながら廊下を歩いて行くと、途中で大きなカゴを持ったシーニュに会った。

「クラジュ? 何してるんだ?」
「せ、洗濯……シーツを……」
「シーツ? ああ、オーフィザン様の部屋のか……おい! 引きずっちゃダメだろ!」
「う、うん……」

 シーニュは、僕が引きずっていたところを拾って、僕に渡してくれる。

「あ、ありがとう……」
「俺も今から洗濯。一緒に行こうぜ」
「うん……」

 二人で歩き出すと、シーニュは心配そうに言った。

「……クラジュ……」
「何?」
「あのさ……その耳って、なんであるんだ?」
「……え?」
「だから、その猫耳だよ。だいぶ前に聞いた時は、魔法でつけられたって言ってたけど、なんでそんなのつけられたんだ?」
「……」

 なんで今、そんなことを聞くんだろう……シーニュには悪いけど、詳しいことは話したくないんだ。

 僕が押し黙っていると、シーニュは察してくれた。

「……ごめん。答えなくていい。ただ、昨日、オーフィザン様と話した時に、その耳、無理やりつけられたものだって聞いて…………ごめん……気になって聞いた。あ、そ、それより、昨日、大丈夫だったか?」
「……え? ……なにが?」
「なにがって、お前、昨日会った時、辛そうにしてたじゃないか。それに、ダンドに聞いたぞ。ランキュがまたお前をいじめてたって。大丈夫か?」
「……ランキュ様の方は大丈夫じゃないけど……オーフィザン様のお仕置きは終わったよ」
「そうか……なあ、お前もうオーフィザン様の性奴隷なんだから、ランキュのこと、オーフィザン様に」
「い、いいの! それは!」
「よくないだろ! このままお前が殴られ続けるなんて!! そんなの我慢することない! オーフィザン様に話したほうがいい!」
「……いいの! だって、ランキュ様は僕が近づかなかったら暴力振るいにこないもん。余計なことして、もっと殴られたら嫌だ!」
「……クラジュ……」
「は、早く行こう! シーニュ!」
「おい! クラジュ!!」

 急に走り出した僕に、シーニュは少し戸惑いながらもついてきてくれて、それ以上ランキュ様の話はしなかった。

 ごめん……シーニュ。シーニュが心配してくれるのは嬉しいし、ありがたいんだけど……それでも僕は、とにかくランキュ様が怖いんだ……







 洗濯場では、もう何人もの人が先に来て、各々汚れたものを洗っていた。

 城内を流れる水路が集まるここは、絶えず新しい水が流れ込んでいる。真ん中に噴水がある丸い池のようなところだ。洗濯物を洗う泡が、シャボン玉になってふわふわ浮いていた。

 池の縁の空いているところで、持って来たシーツを水につけて、汚れたところを洗い落とす。

 これ、僕が汚したんだよな……こんなにたくさん人がいるところで、精液で汚れたシーツを洗うって、結構恥ずかしい……は、早く洗おう!

 焦って力が入る僕に、シーニュが、ちょっと呆れたように言った。

「クラジュ、乱暴にすると、シーツ、破れるぞ……」
「う、うん……」
「……クラジュ」
「なに?」
「……困ったことあったら、相談しろよ」
「……うん。ありがとう……シーニュ……」
「なんだ?」
「……ごめん」
「……クラジュが謝ってどうするんだよ!!」

 彼は笑顔で言って、僕の頭にポンと手を置く。そんな彼の様子にホッとした僕は、彼にお礼を言ってから、洗濯を続けた。







 なんとか洗濯も終わり、僕はシーニュと一緒に、庭の、たくさんの物干し竿が並んでいるところまで来た。

 いくつも服を干しながら、シーニュが額を拭う。これだけ天気が良かったら、シーツもすぐ乾きそうだ。

 夜までに乾いてもらわないと、寝室に帰ってきたオーフィザン様に怒られる! どうか早く乾きますように!!

 最後の洗濯物を干してから、シーニュは僕に振り向いた。

「クラジュ、これからまだ仕事、あるのか?」
「え……え? あ、うん……あ、あるんだ……」
「……何か、辛いことか?」
「違う……そうじゃない。か、覚悟しなきゃいけないんだ」
「覚悟って……クラジュ……」
「そうだ! シーニュ!」
「な、なんだよ?」
「手伝って欲しいんだ!」
「何を?」
「え、えっと……人のいないところじゃないと……あっち行こう!」

 僕はシーニュの手を引き、庭の端まで連れて行った。
 明るい太陽から隠れるように城の陰に入って、周りに誰もいないことを確認する。

 よし、誰もいない!

「シーニュ! お願いがあるんだ!」
「なんだよ?」
「イかない方法、教えて!」
「………………は? い、いかない?」
「射精しない方法! 僕、オーフィザン様にお仕置きされても、耐えなきゃいけないんだ! だけど、一人じゃどうしていいか分からなくて……」
「………………それでイかない方法知りたいのか? それ……なんかおかしくないか?」
「で、でも、二回も覚悟しておけって言われたし、朝も、僕が一人でイッたことを怒られたんだ。だから、今日こそちゃんとしないと……また怒られる……今朝、試しにオーフィザン様の石鹸の泡つけてみたら、すぐイっちゃって……シーツが……」
「泡? ああ、昨日つけられてたやつか……まさかお前、あのシーツ、それで汚したから洗ってたのか?」
「うん……」
「……だったらイかない方法考えるより、奉仕すること考えろよ…………一人でイクからダメなんだろ?」
「……だって、オーフィザン様、すぐ怒ってお仕置きするんだ……奉仕どころじゃないよ」
「だから、お仕置きされなきゃいいだろ。怒らせないようにするんだ」
「……僕、そんなに怒らせることしたかなあ……」
「部屋のもの壊しまくって、オーフィザン様の部屋のそばでオーフィザン様の馬鹿って叫んだんだろ?」
「な、なんで叫んだことまで知ってるの!?」
「ダンドに聞いた。とにかく、怒らせないようにしろ。そうすればお仕置きもなくて、奉仕できるだろ。心配だよ。お前、ちょっと馬鹿だから」
「馬鹿じゃないもん。あ、そうだ。シーニュ……」
「なんだよ?」
「……香炉の直し方、知らない?」
「香炉?」
「うん……昨日僕が壊したもの、オーフィザン様、全部魔法で直したのに、あの香炉だけは直せないらしいんだ」
「直せない? 魔法で直せないのか? そんなこと、あるのか……」
「うん。オーフィザン様、壊れちゃった香炉、捨てずにすごく大切そうにハンカチに包んでいるんだ。きっと大事なものなんだよ。僕、ひどいことしちゃって……なんとか直せないかなって思って……」
「気持ちはわかるけど……オーフィザン様に直せないものが、俺に直せるわけないだろ」
「……」

 やっぱり無理か……あの香炉のこと、ずっと気になってるんだ。なんとか直したかったんだけど……後でオーフィザン様にまた謝ろう……

「こらー!! クラジュ!! 庭に入るなっていったでしょ!」

 うわあ! ペロケだ!

 彼は、怒鳴りながら羽を広げこっちに向かって一目散に飛んでくる。

 また怒ってるーー!!

 僕は急いでシーニュの後ろに隠れた。

 すると、シーニュはいつものように、僕とペロケの間に入ってくれる。

「まあ、落ち着けよ。ペロケ。クラジュは今日は何もしてないよ」
「……本当に?」
「ああ。俺と少し話していただけだ」
「……」

 ペロケがシーニュの体を避けて、僕の方に顔を近づけてくる。

 うう……怖い。

 怖くて、僕はシーニュにしがみいてしまう。ペロケは、まだ疑っているような顔で呟いた。

「もうバラをいじめないでよ」
「は、はい……」

 頷くと、ペロケはやっと離れてくれた。ホッとする僕の頭を、シーニュがポンポン叩いて、ペロケに向き直る。

「なあ、ペロケ、壊れたものを直す方法、知らないか? クラジュがちょっと失敗しちゃって、大切な香炉が壊れちゃったんだ」
「また? クラジュはいつも壊してばっかり!!」
「まあまあ……で、何か知らないか?」
「……香炉が直るかわからないけど、僕、二つに割れたものを直したことあるよ」
「本当か!?」
「うん。この前、鉢が二つに割れちゃって、落ち込んでたら、庭師仲間が教えてくれたんだ。真っ黒い瓶に入った糊で、どんなものでもくっつくらしい」
「本当!?」

 僕は嬉しくて、ついペロケに聞き返しちゃった。ペロケは僕とは話したくないのか、睨んでくる。だけど、僕はどうしても香炉を直したくて、恐る恐る聞いた。

「あ、あの……それ……どこにあるんですか?」
「お前がねぐらにしてる倉庫の地下。確か……地下に降りてすぐ右に曲がって、五番目の部屋の奥だったはず……」
「わかった! ありがとう!!」

 それがあれば、香炉を直せる!!

 すぐに走り出す僕に、後ろからシーニュが叫んだ。

「おい、待てクラジュ! お前、絶対迷うだろ! 俺も行くから待ってろ!」
「シーニュは仕事があるじゃないか。僕は大丈夫だよ!」
「おい!!」

 あの倉庫なら、僕はよく知ってる。地下へ行ったことはないけど、多分すぐに見つかるはずだ!
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