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40 君の名は

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「それって、『オモテ』に一緒に行きたいって事?」
「いかにも」

天狗は、佐久夜の瞳をしっかり見据え返事をした。

「ダメにゃ!お前に佐久夜は、任せられないにゃ!」
「…朧」

朧が、天狗に拒否する理由を、佐久夜は改めて知り、朧の思いを嬉しく思った。佐久夜は、胸元に抱いた朧を優しく撫でる。

「朧、大丈夫だよ。天狗さん、朧は、俺たちの事を真剣に守ってくれてるんだ。君を朧が信じられる方法を教えてくれるなら、俺は、構わないと思っているよ」

天狗は、沈黙のまま考える。

「確かに、俺は、朧さまを喰らおうと試みて、朱丸さまに阻止されました。その後、朧さまには、負傷した身体を治癒していただきましたが、まだ恩を返しておりません。ただ、俺に主従関係を明確にする名を名付けてくだされば、俺は、佐久夜さまの下僕も同然となりますぞ」

「俺が、君に名を与えれば良いって事?…朧、天狗さんの話した事合ってる?」

朧は、佐久夜の腕の中で、嫌そうな顔をしながらも頷いた。

「天狗に、契約の名付けをすれば、佐久夜を裏切ることはできないにゃ」

「じゃあ、決まりだね。ただ、俺には君を連れて行く方法が解らないから、そこは臨機応変って事で良いかな?」

天狗は、烏帽子を脱いで傅いた。佐久夜は、すうっと息を吸い込み天狗に言い渡した。

「佐久夜より天狗に浅葱あさぎの名を与える」

「浅葱の名。確かに承りました」

名付けをすると、天狗の身体が、仄かに光りを帯びて行った。天狗は、自分の身体を包む光りを見て、満足気に微笑んでみせた。

「素晴らしい。名を与えられることで、これ程までに力が湧き出るとは……さすが、神の神使で有られる」

「朧…どういう事?俺、名付けただけだよね」

朧は、面白くない顔をしたまま、佐久夜の腕から飛び出して、取り敢えず浅葱を蹴飛ばした。

「あはは、朧さま。オイタはいけませんよ。私も、佐久夜さまが仕える神に恥じぬよう精進しますぞ」

「クソ~。やっぱり生意気にゃ。佐久夜、オイラたち妖は、名前なんかないにゃ。名を与えられる事で、オイラたちは、種族としてより、個の存在となるにゃ」

佐久夜が、首を傾げる側で、京平はぽんっと両手を叩いた。

「わかった!名前があるだけで、妖としての能力が解放され、レベルが上がるわけだ!!」

「レベルって…そんなゲームじゃないんだから」

どこまでも楽観的な京平に、佐久夜は苦笑いをした。

「佐久夜さま。京平さまの例えは、あながち間違いではございませぬぞ。ただの天狗から、俺は、佐久夜さま、神使さまと契約を交わした浅葱となりました故、妖気も妖力も格段に跳ね上がりましたぞ」

「そ、そうなの?取り敢えず、破壊行動や、攻撃行為はしたらダメだよ」

「承知!」

あどけない顔で、鼻の短い天狗が、正式に佐久夜の仲間に加わった。

「浅葱どん!よろしくな」

「もちろんですとも、朱丸さま。共に、佐久夜さまを支えましょうぞ」

楽しそうに朱丸と浅葱は、拳を握り、コツンと手を合わせた。神さまに相談なく、浅葱に名前を与えたが、嬉しそうな二人を見ていると、これも良いかと佐久夜は、思った。

「朧、これからも俺たちをよろしくな」
「もちろんにゃ」

プイっとそっぽを向く朧を見て、これも通常営業だなと、佐久夜と京平は、お互いに笑った。



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