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第二章
討伐隊②
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ジョルダンに少し時間をもらって、俺はギルドの裏手にある施設へと入った。
作業の真っ最中で職人が忙しそうに働いていたが、一人の職人が俺に気づいて近づいて来てくれた。
「よぉ、お兄ちゃん。元気か? 今日は何の用だ?」
「こんにちは、ゼルマはいますか?」
「ああ。奥で作業中だ。ちょっと待ってろ」
どうやら呼びに行ってくれるようだ。
助かったよ。
いつかの若い職人みたいに因縁つけられたら堪らないからな。
そういえば最近見てないけど、元気にしてるのかな?
「お兄ちゃーん!」
奥から桃色の髪を揺らしながら、ゼルマが駆けてきた。
近づいて来る度に逃げたくなる衝動は変わらない。
なんせ筋骨隆々の長身だからな。
迫力があり過ぎる。
「お兄ちゃん! 来てくれて嬉しいで!」
「急に来て悪いな、ゼルマ。作業の途中って聞いたけど、今大丈夫か? ちょっと相談したい事があるだけど」
「うん! ちょうどキリの良いところだったから大丈夫やで! こっちに来て!」
ゼルマは解体棟の休憩室に俺を案内してくれたけど、結構散らかってるな。
男所帯に蛆が湧くなんて言うけど、まさにそれだな。
「もう、みんなすぐに汚すんやから困るで! お兄ちゃん、ちょっと待っててや!」
ゼルマは空き瓶や食べカスが散らかったテーブルをゴミごと持ち上げると、そのままゴミ箱らしき木箱まで運んで、斜めにして流すようにテーブルの上のゴミを捨てた。
あの一枚板のテーブル。
軽く見積もっても50㎏以上はあるのに、それを悠々と持ち上げるとは、相変わらずの怪力だな。
だからこそ頼もしいんだけど。
「ほい! 片付いたで! それで相談ってなんやの? お兄ちゃん」
「う、うん……その……」
パッと思いついて来てみたけど、今になって御門違いな事をしている気がしてきた。
確かにゼルマなら俺を守ってくれるだろうし、解体の腕も信頼できる信用できる人物には違いない。
でも、旅に同行してもらえるかとなると話は変わってくる。
ゼルマはギルドに所属する解体職人で、持ち込まれた素材を適切に解体するのが仕事だ。
自ら素材を獲りに行く事はないし、ましてや討伐依頼に出るなんてあり得ない事だ。
「お兄ちゃん? どうしたんや?」
「ああ、いや……ちょっとな。なんか違うなって、思っちゃって」
どうしよう。
言葉が出てこない。
ここは誤魔化して帰って、やっぱりジョルダンからの頼みを断った方がいいのかもしれない。
それにゼルマを危険な目に遭わせるわけにもいかない。
うん、やっぱりここは諦め……
「お兄ちゃん! 水くさいで!」
「っ!? ゼ、ゼルマ?」
急にテーブルにドンと叩いてゼルマが声を張り上げた。
本人は軽く叩いたつもりなんだろうけど、テーブルヒビが入ってますよ?
「ゼルとお兄ちゃんの仲やろ? 遠慮なんかいらんで! それに、ゼルはお兄ちゃんの頼みなら何でも効くで! だって、お兄ちゃんやからなっ!」
ゼ、ゼルマ……なんていい子なんだ。
俺は感動している。
見た目で誤解してしまいそうになるけど、ゼルマは本当に純粋で優しい子なんだ。
それにいきなり押しかけて『やっぱりいいわ』って、帰るのも失礼だよな。
よし、ダメ元で言ってみよう。
「ゼルマ、超魔物の討伐依頼が出たのって知ってるか?」
「おおっ! 知ってるで! 【ズー】の討伐やろ? あれは大変やで!」
「その大変な依頼に一緒に来てもらえないかな? 実は俺の友人が……」
「お兄ちゃん!?」
ぎゃあああああああ!?
ゼルマが勢いよく手を付いて立ち上がった衝撃でテーブルが真っ二つに裂けたぁああああああ!?
「ご、ごめん! む、無理だよね! 大丈夫、気にしないで……」
「絶対に行くで! いや、行かせてっ!」
「……へっ?」
鼻息を荒くして興奮したゼルマが俺の眼前に迫ってきていた。
い、行かせて欲しい?
絶対に断られると思ったのに。
「ほ、本当に行ってくれるのか?」
「もちろんやで! 超魔物やで!? 特級中の特級やん! 観れる出来るだけでも行く価値あるわ!」
興奮というか熱り立っているゼルマの話をよくよく聞いてみると、超魔物は恐ろしい災厄に違いないが個体数は多くないそうで、しかも撃退される事が多く、討伐される事は滅多にないらしい。
討伐されないって事は、当然だけど解体にも回ってこない。
そのため解体職人にとって超魔物を解体できる事は最高の栄誉なんだそうだ。
「超魔物は王都のギルド本部で解体されるから、ゼルは解体に参加できへんと思うけど、討伐隊に参加出来たら間近で観察出来るだけでも貴重な体験やねん! だから、お兄ちゃん! お願いやからゼルを一緒に連れてって!」
頼んでるのは俺なのに、何故か懇願されてしまった。
俺としては願ったり叶ったりで有難いんだけどね。
「旅は大変だけど、大丈夫か?」
「うん! ゼルはツヴァイに来るまで一人旅しとったから旅には慣れてるで! それに魔物の討伐も解体も任せて安心やで!」
そう言って、力こぶを作って俺にアピールするゼルマ。
た、逞し過ぎる……
でも、ゼルマが来てくれるなら俺も安心して討伐に行けるぞ!
作業の真っ最中で職人が忙しそうに働いていたが、一人の職人が俺に気づいて近づいて来てくれた。
「よぉ、お兄ちゃん。元気か? 今日は何の用だ?」
「こんにちは、ゼルマはいますか?」
「ああ。奥で作業中だ。ちょっと待ってろ」
どうやら呼びに行ってくれるようだ。
助かったよ。
いつかの若い職人みたいに因縁つけられたら堪らないからな。
そういえば最近見てないけど、元気にしてるのかな?
「お兄ちゃーん!」
奥から桃色の髪を揺らしながら、ゼルマが駆けてきた。
近づいて来る度に逃げたくなる衝動は変わらない。
なんせ筋骨隆々の長身だからな。
迫力があり過ぎる。
「お兄ちゃん! 来てくれて嬉しいで!」
「急に来て悪いな、ゼルマ。作業の途中って聞いたけど、今大丈夫か? ちょっと相談したい事があるだけど」
「うん! ちょうどキリの良いところだったから大丈夫やで! こっちに来て!」
ゼルマは解体棟の休憩室に俺を案内してくれたけど、結構散らかってるな。
男所帯に蛆が湧くなんて言うけど、まさにそれだな。
「もう、みんなすぐに汚すんやから困るで! お兄ちゃん、ちょっと待っててや!」
ゼルマは空き瓶や食べカスが散らかったテーブルをゴミごと持ち上げると、そのままゴミ箱らしき木箱まで運んで、斜めにして流すようにテーブルの上のゴミを捨てた。
あの一枚板のテーブル。
軽く見積もっても50㎏以上はあるのに、それを悠々と持ち上げるとは、相変わらずの怪力だな。
だからこそ頼もしいんだけど。
「ほい! 片付いたで! それで相談ってなんやの? お兄ちゃん」
「う、うん……その……」
パッと思いついて来てみたけど、今になって御門違いな事をしている気がしてきた。
確かにゼルマなら俺を守ってくれるだろうし、解体の腕も信頼できる信用できる人物には違いない。
でも、旅に同行してもらえるかとなると話は変わってくる。
ゼルマはギルドに所属する解体職人で、持ち込まれた素材を適切に解体するのが仕事だ。
自ら素材を獲りに行く事はないし、ましてや討伐依頼に出るなんてあり得ない事だ。
「お兄ちゃん? どうしたんや?」
「ああ、いや……ちょっとな。なんか違うなって、思っちゃって」
どうしよう。
言葉が出てこない。
ここは誤魔化して帰って、やっぱりジョルダンからの頼みを断った方がいいのかもしれない。
それにゼルマを危険な目に遭わせるわけにもいかない。
うん、やっぱりここは諦め……
「お兄ちゃん! 水くさいで!」
「っ!? ゼ、ゼルマ?」
急にテーブルにドンと叩いてゼルマが声を張り上げた。
本人は軽く叩いたつもりなんだろうけど、テーブルヒビが入ってますよ?
「ゼルとお兄ちゃんの仲やろ? 遠慮なんかいらんで! それに、ゼルはお兄ちゃんの頼みなら何でも効くで! だって、お兄ちゃんやからなっ!」
ゼ、ゼルマ……なんていい子なんだ。
俺は感動している。
見た目で誤解してしまいそうになるけど、ゼルマは本当に純粋で優しい子なんだ。
それにいきなり押しかけて『やっぱりいいわ』って、帰るのも失礼だよな。
よし、ダメ元で言ってみよう。
「ゼルマ、超魔物の討伐依頼が出たのって知ってるか?」
「おおっ! 知ってるで! 【ズー】の討伐やろ? あれは大変やで!」
「その大変な依頼に一緒に来てもらえないかな? 実は俺の友人が……」
「お兄ちゃん!?」
ぎゃあああああああ!?
ゼルマが勢いよく手を付いて立ち上がった衝撃でテーブルが真っ二つに裂けたぁああああああ!?
「ご、ごめん! む、無理だよね! 大丈夫、気にしないで……」
「絶対に行くで! いや、行かせてっ!」
「……へっ?」
鼻息を荒くして興奮したゼルマが俺の眼前に迫ってきていた。
い、行かせて欲しい?
絶対に断られると思ったのに。
「ほ、本当に行ってくれるのか?」
「もちろんやで! 超魔物やで!? 特級中の特級やん! 観れる出来るだけでも行く価値あるわ!」
興奮というか熱り立っているゼルマの話をよくよく聞いてみると、超魔物は恐ろしい災厄に違いないが個体数は多くないそうで、しかも撃退される事が多く、討伐される事は滅多にないらしい。
討伐されないって事は、当然だけど解体にも回ってこない。
そのため解体職人にとって超魔物を解体できる事は最高の栄誉なんだそうだ。
「超魔物は王都のギルド本部で解体されるから、ゼルは解体に参加できへんと思うけど、討伐隊に参加出来たら間近で観察出来るだけでも貴重な体験やねん! だから、お兄ちゃん! お願いやからゼルを一緒に連れてって!」
頼んでるのは俺なのに、何故か懇願されてしまった。
俺としては願ったり叶ったりで有難いんだけどね。
「旅は大変だけど、大丈夫か?」
「うん! ゼルはツヴァイに来るまで一人旅しとったから旅には慣れてるで! それに魔物の討伐も解体も任せて安心やで!」
そう言って、力こぶを作って俺にアピールするゼルマ。
た、逞し過ぎる……
でも、ゼルマが来てくれるなら俺も安心して討伐に行けるぞ!
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