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第二章
討伐隊⑥
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料理が完成するや否や、ジョルダンとゼルマが猛スピードで駆け寄って来た。
土煙が舞うからやめなさい!
「出来たか! もう腹ペコだ! 早く食わせろ!」
「うぉおおおお! ええ匂いさせてたまらんかったで! お兄ちゃん! ゼルマは大盛りで頼むで!」
「ええい! 寄るな! 触るな! 涎を垂らすな! わかったから落ち着け! ちゃんと準備してあるから大人しく待ってなさい!」
俺は2人を諌めると、全員分の料理を手早く盛りつけていった。
ジョルダンとゼルマは大盛り、俺とミューさんは普通で。
そういえば珍しくミューさんが静かだな?
この2人の食い意地に怖気ついちゃったのかも……
「わ、私も大盛りで」
「ぬわぁ!」
急に背後から声をかけられて驚いて後ろを振り返ると、そこには目を血走らせたミューさんがいた。
涎こそ垂らしてないけど、半開きの口から漏れる荒い息遣いが怖いんですけど!
「ご、ごめんなさい! 大黒ゼクス牛は私の大好物だったとので、つい……」
「そ、そうだったんですね……じゃあ、大盛りにしときます」
俺は大盛りを3つと普通のを1つ作って、テントの前に置かれた平たい巨石の上に置いた。
丸い器に敷き詰められた米と、その米が見えないくらいに盛りつけられた肉のひつまぶしは見ているだけで腹が減ってくるくらいに美味そうだ!
3人は釘付け状態で我慢の限界のようだし、俺も早く食べたい!
「じゃあ、みんなでいただこう! いただきます!」
手を合わせた後、3人は我先にと競うようにひつまぶしを掻っ食らった。
おいおい、そんなペースで食べたら後の楽しみがなくなるぞ?
「美味い! なんという美味さだ! 口の中で肉が蕩けていくではないか! しかも、この甘いタレと米の相性が抜群で食べる手を止められないぞ!」
「あかんで、お兄ちゃん! こんな美味いもの初日から出したらあかんで! 美味過ぎて笑ってまうやん! こんなん気が抜けてまうよ!」
「この大黒ゼクス牛、いつも以上に美味しいです! ジューシーなのに歯がいらないくらいに柔らかくて旨味が強い! リョウさん、本当に料理上手すぎですよ!」
すごい食べっぷりだ。
初めての料理だったけど、気に入ってもらえて良かったよ。
さて、俺も食うか。
くはぁ! 美味い!
もう思わず笑っちゃうくらいに美味いわ!
大黒ゼクス牛は和牛に近い感じで、若干残るジビエっぽいクセが良いアクセントになってる!
これにアレ足したら、もっと美味いだろうな。
あとで準備しといたフリして出そっと。
「リョウ! おかわりを頼む! もちろん大盛りでな!」
「私も! 大盛りで頼むで!」
「わ、私もいいですか?」
俺が二口食う間に大盛りを食べ切った3人が器を差し出してきた。
米粒一つも残さないのはエラい!
そんな君達には、また大盛りをあげよう。
俺は3人に2杯目の大盛りを渡した。
それを受け取ると、まるでこれが1杯目だったかのように全員が夢中になって食べている。
美味そうに食べているのを見るのは気持ちがいいね!
「実に美味い! やはりリョウを連れてきて正解だったぞ!」
「ホンマやで! 旅の食事なんて干し肉と黒パン、あとはチーズくらいのもんやからなぁ。こんな美味しい物が食べられるなんてありえへんで!」
「本当ですね。でも、こんなの味わっちゃったらリョウさん無しの旅なんて考えられなくなっちゃいそうです」
……おい、ジョルダン。
そんな眼をしても旅に同行するのは今回だけだからな?
それに、万が一にもそんな話になったらヴァイオレット達が黙ってないだろうし。
余計な火種にはなりたくないんだよ。
おっと、いらない心配をしていたら食べ過ぎちゃうところだった。
半分くらい食べたし、アレをそろそろ出すかな。
「ああ、美味い! 本当にこれは美味……ん? おい、リョウ。そのポットにはなんだ?」
俺が取り出したポットを目敏く見つけたジョルダンが問いかけてきた。
あっ、説明してなかったっけ?
そういえば渡した瞬間からものすごい勢いで食べ始めてたから、言うの忘れてたよ。
「これは出汁だよ。このひつまぶしってのは色んな食べ方があって、今度は出汁をかけて食べようかと……」
俺の言葉を聞いてジョルダンと他の2人までがその動きを止めた。
そして、全員がギギギっと油の切れた機械人形のように首をゆっくりとこっちに向けてきた。
あっ、この顔はヤバいかも。
「おい! リョウ! まさか、この料理には別の食い方があるのか!? 何故もっと早く言わないんだ!? 取り返しのつかない事になるところだったぞ!」
「お兄ちゃん、それはひど過ぎるで! もう少しで旅の始まりが天国から地獄になるところやったやんか!」
「あんまりです! こんな仕打ち、私には耐えられません!」
な、何もそこまで言わなくてもいいだろ……
言わなかったのは悪かったけど、そんなに俺が悪いのか?
それにジョルダンはすでに2杯目を完食しているけど、あとギリギリ1杯分は残っているし、ゼルマとミューさんは半分残っている。
これなら、まだ十分に味わえるよ。
「本来のひつまぶしって料理は4段階の食べ方があってね。最初はそのまま食べて、次は薬味を加えるんだ。その次は出汁をかけて食べて、最後はお好みでって感じだね。今日は薬味はないけど、出汁は用意しているから食べたい人は……」
「当然もらう! 当たり前だろ!」
「絶対もらうで!」
「私もです!」
全員に請われて、ジョルダンに3杯目を渡してから全員の器に出汁を注いでいく。
肉から出た良質の脂が出汁に溶け込み、その出汁を米が吸っていく。
出汁は海藻と干した魚からとったもので、芳醇な磯の香りが漂ってきた。
うーん、膨れた腹を空かせていくような魔性の香りだ。
3人も同じだったようで、また1杯目のように食べ始めた。
今度は俺も負けないぞ!
「これは美味い! 少し脂っぽかった口の中を香り豊かなスープがさっぱりさせ、上品な旨みだけを口の中に残している! しかも、スープを吸った米が腹に溜まって確かな満足感を味わわせてくれる! なんと素晴らしい!」
「ぷはっ! 美味しいで! もう器が丸ごと御馳走になってて最高やったで!」
「スープとお肉がこんなに合うなんて。もうダメ……どんどんハマっちゃいそうです」
「美味しさはそのままに食感と風味が変わっていいね! 食べやすくて、これならまだまだ食べられそうだ!」
結局、多いと思っていた米と大黒ゼクス牛は全て無くなってしまったが、全員が満足した1日目が終わった。
流石にこのペースだと食糧が持たないから、明日からは本格的に考えないといけないな。
そんな事を考えながら、俺はテントで横になった。
ちなみにゼルマとミューさんが同じテントで、俺とジョルダンは別々のテントに寝る事になった。
ジョルダンのイビキうるさいからね。
土煙が舞うからやめなさい!
「出来たか! もう腹ペコだ! 早く食わせろ!」
「うぉおおおお! ええ匂いさせてたまらんかったで! お兄ちゃん! ゼルマは大盛りで頼むで!」
「ええい! 寄るな! 触るな! 涎を垂らすな! わかったから落ち着け! ちゃんと準備してあるから大人しく待ってなさい!」
俺は2人を諌めると、全員分の料理を手早く盛りつけていった。
ジョルダンとゼルマは大盛り、俺とミューさんは普通で。
そういえば珍しくミューさんが静かだな?
この2人の食い意地に怖気ついちゃったのかも……
「わ、私も大盛りで」
「ぬわぁ!」
急に背後から声をかけられて驚いて後ろを振り返ると、そこには目を血走らせたミューさんがいた。
涎こそ垂らしてないけど、半開きの口から漏れる荒い息遣いが怖いんですけど!
「ご、ごめんなさい! 大黒ゼクス牛は私の大好物だったとので、つい……」
「そ、そうだったんですね……じゃあ、大盛りにしときます」
俺は大盛りを3つと普通のを1つ作って、テントの前に置かれた平たい巨石の上に置いた。
丸い器に敷き詰められた米と、その米が見えないくらいに盛りつけられた肉のひつまぶしは見ているだけで腹が減ってくるくらいに美味そうだ!
3人は釘付け状態で我慢の限界のようだし、俺も早く食べたい!
「じゃあ、みんなでいただこう! いただきます!」
手を合わせた後、3人は我先にと競うようにひつまぶしを掻っ食らった。
おいおい、そんなペースで食べたら後の楽しみがなくなるぞ?
「美味い! なんという美味さだ! 口の中で肉が蕩けていくではないか! しかも、この甘いタレと米の相性が抜群で食べる手を止められないぞ!」
「あかんで、お兄ちゃん! こんな美味いもの初日から出したらあかんで! 美味過ぎて笑ってまうやん! こんなん気が抜けてまうよ!」
「この大黒ゼクス牛、いつも以上に美味しいです! ジューシーなのに歯がいらないくらいに柔らかくて旨味が強い! リョウさん、本当に料理上手すぎですよ!」
すごい食べっぷりだ。
初めての料理だったけど、気に入ってもらえて良かったよ。
さて、俺も食うか。
くはぁ! 美味い!
もう思わず笑っちゃうくらいに美味いわ!
大黒ゼクス牛は和牛に近い感じで、若干残るジビエっぽいクセが良いアクセントになってる!
これにアレ足したら、もっと美味いだろうな。
あとで準備しといたフリして出そっと。
「リョウ! おかわりを頼む! もちろん大盛りでな!」
「私も! 大盛りで頼むで!」
「わ、私もいいですか?」
俺が二口食う間に大盛りを食べ切った3人が器を差し出してきた。
米粒一つも残さないのはエラい!
そんな君達には、また大盛りをあげよう。
俺は3人に2杯目の大盛りを渡した。
それを受け取ると、まるでこれが1杯目だったかのように全員が夢中になって食べている。
美味そうに食べているのを見るのは気持ちがいいね!
「実に美味い! やはりリョウを連れてきて正解だったぞ!」
「ホンマやで! 旅の食事なんて干し肉と黒パン、あとはチーズくらいのもんやからなぁ。こんな美味しい物が食べられるなんてありえへんで!」
「本当ですね。でも、こんなの味わっちゃったらリョウさん無しの旅なんて考えられなくなっちゃいそうです」
……おい、ジョルダン。
そんな眼をしても旅に同行するのは今回だけだからな?
それに、万が一にもそんな話になったらヴァイオレット達が黙ってないだろうし。
余計な火種にはなりたくないんだよ。
おっと、いらない心配をしていたら食べ過ぎちゃうところだった。
半分くらい食べたし、アレをそろそろ出すかな。
「ああ、美味い! 本当にこれは美味……ん? おい、リョウ。そのポットにはなんだ?」
俺が取り出したポットを目敏く見つけたジョルダンが問いかけてきた。
あっ、説明してなかったっけ?
そういえば渡した瞬間からものすごい勢いで食べ始めてたから、言うの忘れてたよ。
「これは出汁だよ。このひつまぶしってのは色んな食べ方があって、今度は出汁をかけて食べようかと……」
俺の言葉を聞いてジョルダンと他の2人までがその動きを止めた。
そして、全員がギギギっと油の切れた機械人形のように首をゆっくりとこっちに向けてきた。
あっ、この顔はヤバいかも。
「おい! リョウ! まさか、この料理には別の食い方があるのか!? 何故もっと早く言わないんだ!? 取り返しのつかない事になるところだったぞ!」
「お兄ちゃん、それはひど過ぎるで! もう少しで旅の始まりが天国から地獄になるところやったやんか!」
「あんまりです! こんな仕打ち、私には耐えられません!」
な、何もそこまで言わなくてもいいだろ……
言わなかったのは悪かったけど、そんなに俺が悪いのか?
それにジョルダンはすでに2杯目を完食しているけど、あとギリギリ1杯分は残っているし、ゼルマとミューさんは半分残っている。
これなら、まだ十分に味わえるよ。
「本来のひつまぶしって料理は4段階の食べ方があってね。最初はそのまま食べて、次は薬味を加えるんだ。その次は出汁をかけて食べて、最後はお好みでって感じだね。今日は薬味はないけど、出汁は用意しているから食べたい人は……」
「当然もらう! 当たり前だろ!」
「絶対もらうで!」
「私もです!」
全員に請われて、ジョルダンに3杯目を渡してから全員の器に出汁を注いでいく。
肉から出た良質の脂が出汁に溶け込み、その出汁を米が吸っていく。
出汁は海藻と干した魚からとったもので、芳醇な磯の香りが漂ってきた。
うーん、膨れた腹を空かせていくような魔性の香りだ。
3人も同じだったようで、また1杯目のように食べ始めた。
今度は俺も負けないぞ!
「これは美味い! 少し脂っぽかった口の中を香り豊かなスープがさっぱりさせ、上品な旨みだけを口の中に残している! しかも、スープを吸った米が腹に溜まって確かな満足感を味わわせてくれる! なんと素晴らしい!」
「ぷはっ! 美味しいで! もう器が丸ごと御馳走になってて最高やったで!」
「スープとお肉がこんなに合うなんて。もうダメ……どんどんハマっちゃいそうです」
「美味しさはそのままに食感と風味が変わっていいね! 食べやすくて、これならまだまだ食べられそうだ!」
結局、多いと思っていた米と大黒ゼクス牛は全て無くなってしまったが、全員が満足した1日目が終わった。
流石にこのペースだと食糧が持たないから、明日からは本格的に考えないといけないな。
そんな事を考えながら、俺はテントで横になった。
ちなみにゼルマとミューさんが同じテントで、俺とジョルダンは別々のテントに寝る事になった。
ジョルダンのイビキうるさいからね。
応援ありがとうございます!
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