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10月

145.アンズ

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土曜日。文化祭が近いこともあって、香苗と私は部活の絵を仕上げに学校に来ていた。丁度文化祭の実行委員の孝君も用があった様子で学校に来ていたみたい。って言うのも黙々と午前中作業をして2人で帰ろうとしていたら、孝君らしい人影が誰かに連れられて歩いているのを見かけたんだ。早紀ちゃんの臆病な愛が分かっている私達は、孝君が教室ではなく中庭に連れていかれているのに顔を見合わせた。
ここ最近の孝君の人気上昇は元々の完全無欠の王子様だった彼が、最近その完全無欠ではない一面を見せるようになったかららしいんだ。時々見せるようになった意外な一面が乙女心を刺激したみたいで、ここに来て後輩にも先輩にも人気が急に出てきちゃったみたい。そんな孝君が土曜日の人気のない中庭って、孝君を疑う訳じゃないけど何か気になる。2人でそっと物陰から近づくと、あざとすぎる乙女のはにかみを漂わせた女の子が一緒だったのが分かった。

「あの、真見塚君。私、あなたの事が好きです!付き合ってください!」

うわ!案の定孝君てば告白されてるし。女の子のウルウルした目で上目遣いって凄くあざとく見えるんだって、私は正直思うけどどうなんだろう。香苗も同じように感じてるみたいで、あざといなぁって呟いてるけど。これって女同士だから感じる事で、男の子には感じないのかな。孝君は見た感じは困っている様子だけど、あからさまに嫌そうな気配はしていない。

「ごめん。」

それでも殆ど考えた様子もなく孝君が頭を下げたのに、彼女は一瞬呆気にとられた顔になったけど気を取り直したようにもう一度ウルウルして見せる。あれって一回駄目でももう一回仕切り直ししていいものなんだ。知らなかった。

「誰か好きな子がいるの?」

断られたのにそれでも必死に食い下がった女の子に、孝君が少し困ったように俯くのが分かる。なんか仕切り直して食い下がれた女の子も凄いなぁって感心してしまうけど、孝君の顔を見てる視線はやっぱり女の子を全面に押し出しているように感じて私はあんまり好きじゃないなぁ。女の子ですっていう感じがダメなのかなぁ女の子同士の目だと。

「好きな子がいないんだったら、お友達からでも…。」

改めて更に食い下がった女の子に、最初の問いかけに答えなかった孝君は更に困った顔をする。好きな人がいないって言ったら彼女はまだまだ食い下がりそうだけど、かといって嘘をつくのは孝君はしなさそう。そう考えていたら、孝君は躊躇うように少し声を落とした。

「好きな人がいるから……ごめん。」

え?孝君って好きな子いるんだって香苗と思わず顔を見合わせる。だって初耳だし孝君も実は好きって感じてる子がいるんだって、正直驚いてしまう。それってやっぱり早紀ちゃんのことなのかな。だったら凄くいいなぁなんて私は正直考えてしまう。

「誰が好きなの?」

えええ?まだ食い下がるんだ。
あの子って確か同じ学年の子だよね、確か5組とかじゃなかったかな。孝君どころかクラスの女の子とだって交流が全然ない子だけどこんなに食い下がるのが告白の普通なのかって思わず感心してしまう。私…雪ちゃんが他に好きな人いるって言ったら、ここまで聞けるかなぁ。多分無理だよね、私は。あ、そうなんだ、好きな人いるんだねって聞いただけでもう仕方ないって諦めちゃいそうだ。それくらい好きってことなのか、どうしても諦めたくないのか、私には理解できない範疇だとは思う。

「同じクラスの子なんだ。悪いけど。」

あの感じは絶対この子に好きな子の名前は教えないつもりだって私も香苗も感じる。そんな孝君に、それでもまだ必死に食い下がってる女の子。でも、私としては同じクラスの女の子が好きだって孝君が自覚しているのに更に驚いてしまった。そんな気配なかったけど、やっぱりやっぱり早紀ちゃんの事なんだよね、きっと。相思相愛ってやつ?これで早紀ちゃんの長い片想いも実を結ぶんだって私はついニコニコしてしまう。そんな私の隣では香苗が少し疑惑の表情だ。何でかわかんないけど、香苗には何か感じるものがあるみたいで私みたいに喜んでいる訳じゃない。

「何で、喜ばないの?」
「うちのクラスの女子ってだけで早紀の事とは言ってないじゃん。もしかしたら八幡とか久保ってことだってあるでしょ。」

そうヒソヒソ言われて、あ、そっかって目を丸くする。確かに孝君は好きな子がいるとは言ったけど何百分の1が15分の1になったってことなのか。2人でヒソヒソしていると目を細めた孝君が腕を組んで、背後に立ったのに気がつけなかった。

「どこから聞いてた?宮井、須藤。」
「え?」
「話をどこから聞いてたんだ?」

あ、この詰問の感じが鳥飼さんと似てるなんて、全く関係のないことを考えていた私。横の香苗が目を泳がせながら、最初から?と首を可愛らしく傾げるのを溜め息混じりの孝君が見下ろす。まあいいけどと歩み去っていく後ろ姿を眺めて、これを早紀ちゃんに伝えるべきかどうなのかで私は考え込んでしまっていた。




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