インテリ黒猫とゴスロリ乙女
「わたしは美少女なのです」
美崎珊瑚は高卒のゴスロリ乙女。彼女にこよなく愛される黒猫・橋下乃音湖は、ホームレスのナツメと橋の下で暮らしている。毎日現れては、あちらこちらへと引っ張り回す珊瑚にうんざりする乃音湖。しかし、その日常は唐突に終わりを迎える。姿を見せない珊瑚に乃音湖は苛立ち、本心に気づく。吾輩は珊瑚の友である。戻ってきた彼女にそう伝えようとして、伝えられない己に、乃音湖は一抹の寂しさを覚えた。
珊瑚は、十二個下の妹りつに「憎んでいます」と言い残して失踪する。姉は、悪い魔女のように意図的に自分や両親を傷つけた。姉への憧れは嫌悪に変わっていた。その後、社会人となったりつは、姉が本当は自分を愛してくれていたと気づき、戸惑う。姉の親友・厳島沙良と宝樹騎夜と連絡をとり、りつは真相を悟り、決意する。姉と、家族なんかではなく友達になろうと。
ナツメは、江戸時代から生きており、異の法という一種の魔法を扱う存在であることを珊瑚に語る。ホームレス、魔法使い。ふつうの人とは異なる存在にも関わらず、一切のレッテルを貼らない珊瑚。そんな彼女に、ナツメは根無し草だったはずの自分が、一つの橋の下に留まり続けた理由を自覚した。珊瑚と乃音湖とともに旅に出ることを決めたナツメは、彼女らに出会うきっかけとなった、今は亡き少女に想いを馳せる。夕闇色のその少女に背中を押され、ナツメは思い出の街を後にする。
長年の職場の悩みで仕事を辞めた沙良は、かつて珊瑚と一緒に働いていたカフェに戻っていた。そんな折、沙良の前に銀髪の美少女アイリスが現れる。彼女の立ち振る舞いに親友の姿を思い浮かべた矢先、沙良は珊瑚、そして昔恋した男・騎夜と再会する。過去の恋物語と地続きの現在の悩みを皆に語り、沙良は己の気持ちに一区切りをつける。
のちにアイリスと名乗るアリス・リコリスは、二千歳を超えるにも関わらず十二歳ほどの見た目をしていた。アリスはその昔、自らを狙う者たちに眼前で最愛の人を殺され、村ごとその敵を凍らせて皆殺しにした、紅く冷たい過去を持つ。自らが住む古城を訪れた珊瑚らとの交流、城に現れた妖怪との戦闘。それらを経て、己とようやく向き合えたアリスは、凍り付いていた時間を再び動かす。老いて死に、最愛の彼の元へ逝くために。
騎夜はりつとの結婚前夜、乃音湖が言葉を話せると知る。同時に、そのことを珊瑚には伝えられずにいるとも。言葉で気持ちを伝えるとは何か。式後、ナツメや珊瑚との過去の確執を乗り越えていく妻・りつ。それを肌に感じつつ、アイリスらと言葉を交わした騎夜。そして、珊瑚から告げられる積年の想い。珊瑚もまた、前に進もうとしている。それをひしひしと感じた騎夜は乃音湖の背中を押して、その場を立ち去る。あとは、知性ある黒猫と、永遠のゴスロリ乙女だけで語ることだから。
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