上 下
45 / 48

45.邪魔者

しおりを挟む
「こちらは二年前から植え始めた作物ですが、順調に育っています」

 案内されたのは、一面の緑が生い茂る畑だった。
 瑞々しい葉が風に揺れ、たくましい生命力を感じさせる。荒れ地だったとは思えない、豊かな光景だ。
 畑では作業をしている者もいて、その中の一人をコーデリアは見たことがあるような気がした。
 だが、よく思い出せずにいるうちに移動したので、気のせいだろうと片付ける。

「収穫はまだ先ですが、今年は去年より期待できると思います」

「それは良かった。以前の改良した種か?」

「はい。領主さまが以前……」

 クライブは責任者と話しているようだ。
 しっかり領民と向き合っているのだなと、コーデリアはクライブを誇らしく感じる。

「奥方さま、果実を搾ったジュースです。先ほど収穫したばかりのものです」

 コーデリアには、黄金色に輝くジュースが差し出された。
 毒味だというように、領民が同じ水差しから注いだジュースを一口飲む。
 細やかな心遣いだと微笑みながら、コーデリアはジュースを飲んだ。
 爽やかな酸味と程よい甘みが広がり、瑞々しくすっきりとした味わいだった。

「まあ、美味しいわ……!」

 これまで飲んだジュースの中で、一番美味しいかもしれない。
 コーデリアは思わず口元がほころぶ。
 すると、見守っている領民たちも、ほっとしたように笑った。

 その後はジュースの原料となった果実も見せてもらった。
 色々な作物を見たり話を聞いたりと、あっという間に時間は過ぎていく。
 やがて時間になり、コーデリアはクライブの転移で一緒に屋敷に戻ってくる。

「視察はどうでしたか? 楽しめましたか?」

「ええ、とても楽しかったわ! あんなにたくさんの作物を見たのは、初めて。栽培法も、色々な工夫をしているんだなと感心したわ。ジュースも美味しかった……!」

 やや興奮気味にコーデリアが語るのを、クライブはにこにこしながら聞いていた。

「楽しんでもらえたようで何よりです。ところで、元養成所にいた人間がいたことには、気付きましたか?」

「えっ……!? まさか……そういえば……」

 驚きながらも、コーデリアは畑で作業していた者の一人を、見たことがあるような気がしたことを思い出す。
 まさか、養成所にいた平民魔術師だったのか。

「気付いたようですね。彼は、国では死んだことになっています。もう殺伐とした生き方は嫌だ、土と共に暮らしたいと望んだので、あそこで働いてもらっています」

「そうだったのね……」

 何だかんだと言って、クライブは平民魔術師にも手を差し伸べていたのだ。
 もしかしたらこれまでも、積極的に動いていなかっただけで、頼られたら受け入れていたのかもしれない。
 コーデリアは感動で、胸がいっぱいになる。

「俺のこと、好きになってくれましたか?」

 口元には微笑みを浮かべながら、クライブの眼差しは真剣だった。
 コーデリアは紫色の瞳から目が離せず、言葉がうまく出てこない。
 だが、答えなど決まっている。もうとっくに、好きになっているのだ。

「そ……その……私もクライブのこと……」

 戸惑いながらも、コーデリアは意を決して口を開く。
 まるでこの世には見つめ合う二人しかおらず、それ以外の時が止まったようにすら感じられる。

「とうとう王家の使者がやって来ました!」

 ところが、二人を引き裂くかのような知らせが響いた。
 甘い雰囲気は砕け散り、時は動き出す。
 そしてクライブは、怒りと悔しさをにじませた凄まじい形相になっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

短編集(SF・不思議・現代・ミステリ・その他)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:1

野良烏〜書捨て4コマ的SS集

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

ユニコーン令嬢は彼しか愛せない【R18】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:34

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:631pt お気に入り:9,981

君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,594pt お気に入り:2,026

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,634pt お気に入り:1,264

「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:37

処理中です...