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何かを別の何かに変換するのは、とても苦労する作業です。

 

有名な話の「屏風に書かれたトラを捕まえてみよ」はむずかしい。

 

「屏風からトラを出す」のも、同じくらいむずかしいです。現代だったらAR技術で出せそうですが。

 

本を読んで感想文を書くのは、文章を文章にする作業なので、わりとイージーです。この感想文を書くのはある程度時間がかかってますが。

 

ギターの音を聴いてピアノで再現するのは、音を音にする作業なので、私はできませんが、たぶん音楽が得意な方は朝飯前だと想像しています。

 

景色を見て写生するのは、視覚情報を視覚情報にする作業なので、私は得意ではありませんが、さっと描ける人はかけると思います。

 

記憶を頼りに絵を描くのはむずかしいです。

 

「きのうの晩ごはんを描いてください」と言われても、私はきっとみそ汁の具をぜんぶ上手く描けないでしょう。それどころか、すべてのメニューを思い出せるかどうかもあやしい。

 

75年前のことはもっとむずかしいです。

 

いくら強烈な記憶とはいえ、人間は忘れる生き物です。

 

そしてもっと難しいのが、そのことを絵にするのは他人だということです。

 

記憶を言葉に変え、言葉を油絵で表現する。

 

『平和のバトン』において、その作業は同一人物で行いません。

 

記憶から言葉、言葉から言葉、言葉から油絵、という最低三回の変換が行われる上、他人同士での変換も加わっています。

 

何人かで、ある伝言を耳打ちで伝えていくと、必ず最初と最後の伝言は相違するという知見がありますが、『平和のバトン』プロジェクトも実際の原爆の体験とは必ず細部で相違があるはずです。

 

でも、相違があるからといって、私はそれを「偽物」だと言うつもりはありません。

 

誰かとコミュニケーションして「そういえばこんな話を思い出した」となるのは、頭がフル回転して最高に創造的になっているときです。

 

原爆証言者と美術高校生は体験を油絵にするために、何度も何度も打合せを重ねます。

 

証言者は思い出すために頭を使い、高校生は描きとめるために頭を使う。

 

そうして思考を深めた結果、「原爆はこんな話だった」と証言者は思い出し、それを高校生がキャンパスに固定します。

 

完成した油絵の出来が良くても悪くても、どちらでもいいと私は思います。
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